選択の示す道
親身になってくれていた両親も、月日が流れるにつれて頼れなくなっていく。
病室に入り、体を拭き、異変が無いか確かめながら、毎日を過ごす。
「アリス…痛くない?」
ベッドに横になったままのアリスの体に、痣が出来ない様に動かす。
後何年、自分1人で動かせるのか…不安が過る。
それでも、手は借りれない。
たまに看護師が2人掛でしてくれるだろうが、頻繁には無理だ。
足や腰に赤みが差すと、痛そうに見えて仕方なかった。
「アリス…」
呼吸器が外れる事は二度とない。
同室に入る人達も、入っては出てを…繰り返す。
出る時はいつも涙と共に…。
そんな人を何人も見送る。
いつか。アリスも…。
体を拭く時、不意に笑っている様に見えた。
「気持ち良いね…」
声をかけて拭いて、その笑顔に見える顔だけが救いだった。
それが…。
変わり始める。
元夫が再婚すると連絡が来た。
そして…子が出来たから、医療費と生活費の額を減らしたいと。
「そこまで成長したのだから、仕事に行けるだろう」
「まだ、5歳よ」
「俺の子供は生まれるんだよ。ジェシカ」
アリスもあなたの子供だと叫んだが、その時花瓶を落としてしまった事で、暴力だと訴えられた。
訴えを退けるのを条件に、医療費と生活費の減額を求められ、周りからの「訴えられた時のリスク」に怯え受け入れた。
アリスの容態は悪くなったり、小康状態だったりを繰り返す。
良くはならない。
「アリスさえいなければな…」
ある日、自宅のリビングにいる両親の会話を、聞いてしまった。
減額の所為で、病院をもっと安い所へ転院する事の報告も出来ず、発言への怒りも伝えられず。
家を立ち去った。
怒る気力すら失せていた。
「アリス…私がこんな体に産んだばっかりに…」
自分自身の不甲斐なさを嘆いた。
「私がもっと健康に産んであげられていたら…」
夫も去らなかった。
両親も、あんな酷い事を言いう人では無かった。
「笑って幸せに居れたのに…」
視線の先のアリスは、集中治療室に居た時よりも大きくなった。
髪も長くなった。
でもまだ小さい子供。
「あなたも…幸せな人生を歩いて欲しかった…」
視線の先に果物を剥く為のナイフ。
いつもなら、それで剥いた上でミキサーにかけて、アリスの口に運ぶ林檎。
その横にあるナイフの、カバーから出ている部分が光る。
アリスの命と自分の命。
一緒に終わらせる選択が、頭に浮かぶ。
殺したくない。当たり前だ。
お腹にいる時から愛してた。
今も、声すら聴けない我が子。
だけど…。
柄を持つ手に力が入る。
髪を撫で、額に触れ…頬に触れる。
静まり返った病室に、機械音が響いている。
何台もの…機械の音が。
そして…息をしている音。
自分の呼吸音と他人の呼吸音。
その中に…微かに…。
ジェシカはナイフを机の上に置いた。




