家族の温度
「アリス…あなたが生まれた時この世界が輝いて見えたわ」
産毛の様な細い金髪が、少し伸びた小さな頭を撫でた。
「でも…あなたの病気が分かった時…悲しかった」
アルコールの匂いが充満した、機械音のする部屋で、2人は居た。
マスクと帽子と、エプロンを付けた格好でしか、彼女はここに居られない。
手が触れる、暖かく柔らかい存在は透明なケースの中、色々な機械と管で繋がっていた。
「アリス…愛しているわ。だから…頑張って生きてね…」
鼓動に沿って鳴る音と、線。
点滅するハートの表示の横に出ている数値。
今は安定しているから。とは、安心できない。
不安はずっと背後に居る。
「リシャールさん…もうそろそろ…一度…」
彼女と同じ格好の女性が声をかけて来た。
担当の看護師だ。
彼女は会釈するが、立ち上がれずにいる。
「…体、拭きますか?」
温めのお湯と清潔なガーゼが横に置かれた。
コードを外さない様に、ガーゼをお湯に浸しては絞り、肌を拭う。
「今日は調子良さげですね」
「えぇ」
垢が溜まりやすい首や脇、手首や足首を拭き、二枚目のガーゼで、おでこや閉じた瞳の周り…頬を拭く。
いつか、この子の額に風が吹く様に。
自分と似たヘーゼル色の目に、太陽が輝き「眩しい」と笑う日が来る様に。
いつか…いつか…。
食べ物を頬張った…笑顔が見たい。
すらっとした首に似合うネックレスや、服がと騒ぐ姿を見たい。
自分の少女時代の様に。
そう、アリスの母親は願った。
搾乳に痛む胸も、日に日に粉ミルクになる回数が増えても。
仕事を辞め、付きっ切りで娘と向き合ってきた。
集中治療室から普通の病室に移り、薬で命を長らえる手段しかなくても。
…一度も娘の声を聴けなくても。
夫には期待できなかった。
一緒に苦しんで欲しい。そう、思ったこともあったけれど、本当は苦しんで欲しい訳では無く、2人で娘の世話をしたかったし、愛してほしかった。
「別れよう。医療費や生活費はちゃんと払う」
夫はそう言って出て行った。
確かに金は払われた。
だが、寄り添ってくれる家族が居ない。
「金だけ払えば良いと思っているのか」
自身の両親は憤るが、相手の…義父母はそうではない。
「金を払って貰えるだけましだと思え」
荷物を産んだ女が…そう言い放ち去って行った。




