代価
「それって誰でも持ってるモノなの?」
少女はカロンに問う。
「だいたいの人間はな」
「無い人も…いるの?」
自分が当てはまるかも知れないと、考えたのか俯き、水面を眺める。
「…生まれた時には必ず持っている」
「必ず?」
「あぁ。持って生まれたそれは、善行をすれば数が増える…人間はそれの器の様なモノだ」
「器…」」
悲し気な顔のまま、少女はカロンの方に顔を向けた。
「逆に悪行を重ねれば削られ…小さくなっていく。少しずつ」
「悪い事をしなかったら?」
「無自覚にも…人は悪行を重ねる。生きる事でそれは仕方ない事だ」
「そうなのね」
少女は小さくため息を付いた。
「…そして、全て消滅する者もいる」
「消えた後は…?死ぬの?」
「死なぬ。消えた後、悪行を重ねれば『悪しきモノ』が溜まる…そいつが死ねば…」
カロンは街を見渡す。
キラキラと輝く露天商の…店に立つ店主達。
「…死しても欲を捨てきれず彷徨う。彷徨った末…」
視線を少女に戻した。
「お前達が持つ代価を欲する。器は壊れたから…ガラス管に」
「ガラス管に代価を溜めて…どうするの?」
「…償いに消えるか…償いが終わればそれを持って川を渡る。だが、大抵は…それをまた使う…欲に勝てない者達だからな」
「…あなたも…?」
少女の言葉にカロンは少し沈黙した。
説明をしていいモノか…悩む。
「俺は…違う。『預かりモノ』で代価は貰えない」
「じゃあ、何を貰っているの?」
「…」
「…?」
「…見たいか?」
カロンは立ち上がり、不思議そうな顔をする少女に付いて来るよう手招きした。
露店と露店の間を擦り抜け、店の後ろに回る。
「ほらあれだ…」
背よりやや高い位置まで伸びた木が生えていた。
「この木は預けモノが完了した時、少しずつ成長する」
カロンは根元に立ち、木肌に触れ撫でる…それに応じる様に、葉がさわさわと動いた。
葉はランプの光を受け、青青と輝いている。
…まだ細いながらも、生命力が溢れている様だ。
「…動けないのは一緒なのに…私とは違うね…」
ポツリとこぼす。
「私の代価は…残ってるのかな」
木肌に触れたまま、カロンはそうぼやく少女を見た。
「何も…良い事なんてしてこなかった。生きてるだけでもすり減る事があるなら、お母さんを悲しませ続けて…苦しませ続けた私に…」
ぎゅっと少女は服を握りしめた。
目に涙が浮かぶが、それを必死に抑えようとする。
カロンはその姿を美しいと思う。
「渡して欲しいモノも見つからない…」
「お前は…無垢だ」
ふわっとした足取りで、彼女に近寄り親指で頬に触れ…涙を拭った。
「お前の中に…代価はいくつも詰まっている」




