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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
白い蝶

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39/91

有り過ぎて無い街

コンコン


誰かが板を叩いている音が、露店の奥で長椅子に身を預けていたカロンの耳に、聞こえて来た。

目を開けて、台の方を見ると、先程露店を渡り歩いていた少女が顔を見せている。


ゆっくりと起き上がり、衣服を整えながら台の方へ歩いた。


「こんにちは」


少女が微笑み挨拶をした。

カロンはそれに頭を揺らす。

ぶっきらぼうな会釈を受けた少女は、呆れた様な楽しむ様な顔をした。


「あなたって不機嫌なの?」

「…いつもこんな感じだ」


カロンは客以外には敬語は使わない。

面倒臭いからだ。


「まぁ良いわ。お願いがあるの」

「…どうぞ」


やはり預かりモノかと、手を台の上へ差し出し、物を置くよう促した。

しかし、少女は何も出さない。


「違うの。渡したい人は居るんだけど、モノが見つからないの」


少女は自分の髪を指で弄んだ。

黄色い…金髪のフワフワとした長い髪を、細く白い指がクルクルと巻きつけては解く。


さっきまで露店のランプの灯りを受けて、キラキラと輝いていた緑と茶色が混じった様な瞳が、まつ毛の陰で暗くなった。

パジャマの袖から見える手首は、骨の太さしかない。


「モノがなければ…無理だ」


客にはなり得ない。

なのに少女は自分の前に居る。


「だからね…一緒に探して欲しいの」


指から髪を離し、店主への願いとして言う。


カロンは天を仰いだ。

フードと共に押さえた額が、熱を帯びそうだと悲観にくれる。


「無理?」


少女の髪が揺れる。

まだ幼くあどけない顔の少女が、細い肩を更に細め、今にも風に飛んでいきそうだった。

風が吹いていればの話だが。


少女は飛ばずに立って居る。

カロンの目の前に。


「ここには色々有り過ぎるのよ。でも、ぴんと来るモノが無かったの」


だから…と言葉を続ける。


「一緒に探して」


ヘーゼル色のクリッとした目が、また、輝いた。


「…分かった…」


客に願われては…。

カロンには拒否できなかった。


名残惜しそうにガラス管を見る。

自分の足が店の外に一歩出た瞬間、残っていたはずの代価が消えた。

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