有り過ぎて無い街
コンコン
誰かが板を叩いている音が、露店の奥で長椅子に身を預けていたカロンの耳に、聞こえて来た。
目を開けて、台の方を見ると、先程露店を渡り歩いていた少女が顔を見せている。
ゆっくりと起き上がり、衣服を整えながら台の方へ歩いた。
「こんにちは」
少女が微笑み挨拶をした。
カロンはそれに頭を揺らす。
ぶっきらぼうな会釈を受けた少女は、呆れた様な楽しむ様な顔をした。
「あなたって不機嫌なの?」
「…いつもこんな感じだ」
カロンは客以外には敬語は使わない。
面倒臭いからだ。
「まぁ良いわ。お願いがあるの」
「…どうぞ」
やはり預かりモノかと、手を台の上へ差し出し、物を置くよう促した。
しかし、少女は何も出さない。
「違うの。渡したい人は居るんだけど、モノが見つからないの」
少女は自分の髪を指で弄んだ。
黄色い…金髪のフワフワとした長い髪を、細く白い指がクルクルと巻きつけては解く。
さっきまで露店のランプの灯りを受けて、キラキラと輝いていた緑と茶色が混じった様な瞳が、まつ毛の陰で暗くなった。
パジャマの袖から見える手首は、骨の太さしかない。
「モノがなければ…無理だ」
客にはなり得ない。
なのに少女は自分の前に居る。
「だからね…一緒に探して欲しいの」
指から髪を離し、店主への願いとして言う。
カロンは天を仰いだ。
フードと共に押さえた額が、熱を帯びそうだと悲観にくれる。
「無理?」
少女の髪が揺れる。
まだ幼くあどけない顔の少女が、細い肩を更に細め、今にも風に飛んでいきそうだった。
風が吹いていればの話だが。
少女は飛ばずに立って居る。
カロンの目の前に。
「ここには色々有り過ぎるのよ。でも、ぴんと来るモノが無かったの」
だから…と言葉を続ける。
「一緒に探して」
ヘーゼル色のクリッとした目が、また、輝いた。
「…分かった…」
客に願われては…。
カロンには拒否できなかった。
名残惜しそうにガラス管を見る。
自分の足が店の外に一歩出た瞬間、残っていたはずの代価が消えた。




