待ち人
露天商の店主、カロンはいつも通り街を眺めた。
時折、愛おしむ様に…名残惜しむ様に台の上にあるガラス管を撫でる。
「二個…有ったのに…」
客を案内する為だと、仕方ない事は分かっていた。
ガラス管の中に残った、たった一つの代価。
橋渡しの客は来ても、やり取りの客はほぼ来ない…皆無と言っても過言では無かった。
「このままでは…増えん」
カロンは大きなため息を付いた。
ふと、こういう時に必ずと言っていい程、自分を笑う船頭の姿が見えない事に気が付いた。
「最近忙しそうだな…」
船を渡す船頭の姿を、思い浮かべた。
確かさっきも流れて行ってたな。と、タイルの道を挟んで目の前を流れる川を眺めた。
キラキラと空と露店の灯りを映している。
その中で白い物がチラチラと見えた。
川の中ではなくタイルの道に、露店でやり取りをしている客人の間を、ヒラヒラと白い物が行ったり来たりしている。
白い蝶が飛ぶように動くそれを、カロンは目で追った。
ワンピース型のパジャマを着た少女だった。
「客か…?」
近付いて来る少女に、カロンはまた『預かりモノ』の客かも知れんと、深いため息を付く。
「代価を…使わないのであれば…良いのだが…」
視線の先には自ら発光する代価が一つ、ガラス管の中からカロンの顔をボンヤリと照らした。
…。
……。
少女はなかなか来ない。
全ての露店を眺めたいと言うかのように、一店舗一店舗覗いては歩く。
何かを探している様だ。
カロンに預けモノをするのであれば、大抵は一直線にやって来る。
「客ではないのだろうか?」
じっと少女を眺めるが、どうも露店の客人達とは違うので、やはり自身の客だと思う。
カロンは迎えに行くか、待つか悩んだ。
が、すぐに待つ事を選択する。
「こんな事で代価を使いたくない」
ゆっくりと、川を眺め、ガラス管の中の代価を眺め、空を眺める。
青と紫の空。
時間が止まっているかの様な、美しい…暗闇と夜の…溶け合う空。




