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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
白い蝶

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38/91

待ち人

露天商の店主、カロンはいつも通り街を眺めた。

時折、愛おしむ様に…名残惜しむ様に台の上にあるガラス管を撫でる。


「二個…有ったのに…」


客を案内する為だと、仕方ない事は分かっていた。

ガラス管の中に残った、たった一つの代価。


橋渡しの客は来ても、やり取りの客はほぼ来ない…皆無と言っても過言では無かった。


「このままでは…増えん」


カロンは大きなため息を付いた。

ふと、こういう時に必ずと言っていい程、自分を笑う船頭の姿が見えない事に気が付いた。


「最近忙しそうだな…」


船を渡す船頭の姿を、思い浮かべた。

確かさっきも流れて行ってたな。と、タイルの道を挟んで目の前を流れる川を眺めた。


キラキラと空と露店の灯りを映している。

その中で白い物がチラチラと見えた。


川の中ではなくタイルの道に、露店でやり取りをしている客人の間を、ヒラヒラと白い物が行ったり来たりしている。


白い蝶が飛ぶように動くそれを、カロンは目で追った。

ワンピース型のパジャマを着た少女だった。


「客か…?」


近付いて来る少女に、カロンはまた『預かりモノ』の客かも知れんと、深いため息を付く。


「代価を…使わないのであれば…良いのだが…」


視線の先には自ら発光する代価が一つ、ガラス管の中からカロンの顔をボンヤリと照らした。


…。

……。


少女はなかなか来ない。

全ての露店を眺めたいと言うかのように、一店舗一店舗覗いては歩く。

何かを探している様だ。


カロンに預けモノをするのであれば、大抵は一直線にやって来る。


「客ではないのだろうか?」


じっと少女を眺めるが、どうも露店の客人達とは違うので、やはり自身の客だと思う。


カロンは迎えに行くか、待つか悩んだ。

が、すぐに待つ事を選択する。


「こんな事で代価を使いたくない」


ゆっくりと、川を眺め、ガラス管の中の代価を眺め、空を眺める。

青と紫の空。

時間が止まっているかの様な、美しい…暗闇と夜の…溶け合う空。

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