狭い世界
その日から男は学校に行かなくなった。
両親もそれを咎めない。
何故なら、両親こそが不登校に安堵したからだ。
本当ならば転校も視野に入れていた。
倒れた女の子に始め、多くの子が自分の息子に暴力を振るわれていたのを、この時になって初めて知った。
「もう中学行けない…」
来年から通う中学を楽しみに居ていたはずの妹が、泣きながら兄に縋る。
兄はそれを慰め、自分は卒業した後で良かったと内心思っていた。
男はドアの隙間を開けて、それを聞いていた。
「どうして、誰も俺を慰めない?」
理不尽だと憤る。
壁にあるアニメのポスターを剥がすと、壁を殴った。
何度か殴った後、またポスターを張り直す。
好きなアニメのポスター…。
可愛い女の子が自分に微笑みかけている。
なのに…現実の女は…自分を無視する。
嘲り笑う。
そして…虐められても助けてくれない。
しかし、この状況は男にとっても良かった。
したかったゲームが延々と出来る。
女の子を口説き落とすゲーム…。
「人間なんて顔だろ」
顔さえ良ければ自分もモテたはずだと思う。
何故なら、ゲームではモテているからだ。
戦闘機に乗って、化け物を倒してくゲームもした。
「銃なんてあれば、俺にだって容易い」
百発百中…命中している様に見えた。
セットされた備品で、化け物を倒していく。
「良い武器が有ればイケるイケる」
武器を持ち身軽にモンスターを倒し、町を、村を救う。
モニターの中で活躍する自分は、褒め称えられ、カッコいい。
その自信に目覚めた頃、オンラインゲームに参加した。
気に食わない人間がまだこんなにいる。
そう、男は思った。
「女漁りの俄かが…。男目当ての女共が…」
悪態を吐く。
それでも、他の人間よりもその世界に居る時間が長い分、男はみるみるとランクを上げた。
「誰よりも、俺は…強い!」
鼻息が荒くなる。
コントローラーを持つ手は軽く、スティックを倒す指は芸術的だと思う。
絶妙なタイミングでのボタン捌きも、皆に褒め称えられて然るべき技術だ。
なのに…。
マイクを通してやり取りをした人間には、軒並みブロックされ、いつしか同じメンツの人間としか組めなくなっていった。
「俺について来れる奴なんてそんなに居ないって事か…」
メンツの力量に不満は在れど、チーム戦が必須条件のクエストがある。
そこから離れる訳には行かなかった。




