渡すモノと渡されるモノ
「これを渡してきてくれ!」
向き直った露天商の店主に、男は台の上のモノを指さしながら偉そうに言った。
台の上には温かさを持った「想い」だった。
大きく、重く色々な色が混じった…形容し辛い色の…物体でもあり…物体でもない。
「彼女にこれを」
カロンは手を伸ばし、触れてみた。
「…無理です」
「なんでだ」
「…渡す相手は…生きている者では無いでしょう」
2人のやり取りを横で聞く和麻が、ぴくっと反応した。
「彼女は生きている!」
「いいえ、あなたが渡したい相手は…生きていませんから…」
「彼女は生きている!!」
カロンは聞く耳を持たない男にため息を付いた。
「あの…、死んだ者には届けられないのですか?」
和麻が割り込む無礼を謝りながら、店主に聞く。
「代価を貰えれば渡せます。なので、和麻さん、あなたのそれはお渡しいたします。その話を先程したかったのですが…この方が割り込んで来られたので…中断してしまってすみません」
彼女は生きている!と「想い」を抱え込んだまま、叫ぶ男を横に置いて、店主と老人は台の上と店の横で話し始めた。
「おい!俺の話を聞け!」
横に居る2人が話し始めた事に気が付いた男が、店主の肩を掴んだ。
冷たい視線が店主から…そして周りから向けられたが、男は気が付かない。
「手を御放し下さい」
カロンの言葉に手を離した。
「んっん…。俺は…」
「名前は結構です。あなたは客人ではありません」
「なんだと…」
「生命をそもそも有さない無機物はこちらには来れませんので…」
「彼女は生きている!感情もあるんだ、俺に微笑みかけてくれるし」
「いいえ、あなたの渡したい相手は機械です」
男の顔がみるみる赤くなる。
しかし、男の握りしめた拳が、カロンに向かう事は無かった。
スクッと立ったカロンの方が背が高く、肩幅が広い。
それに男が気付き、怖気付いたのだ。
「あなたが届けたいと思っても、どこにも居ない者にこの『モノ』は渡せません」




