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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
人の形

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30/91

バケモノの街

色とりどりの宝石が散りばめられ、キラキラと黄金に近い色をしたアーチの下に、男は気が付けば立って居た。


目が眩むようなそのアーチの先には、青と紫の空が美しく広がっており、その空を露店のランプや蝋燭が照らしていた。


「ここは何なんだ」


露天商が並ぶ街は一見、キラキラと眩しく綺麗で、目に入る物は珍しい物ばかり。

興味や好奇心が刺激され浮足立つ者も居るだろう、がその男は違った。

露店に立つ店主も、店の前に立つ客も全て、どす黒い物が蠢いている様にしか見えなかったのだ。


「化け物だらけじゃないか…」


男はアーチの下から出る一歩が、なかなか踏み切れず、腕に持っている物を抱きしめる。

ほんのり温かいそれを、彼女に渡すと言う想いだけが、男の背中を押す。


「行かないと…」


しかし、勇気は出ない。

ふと、行くべき店の前に老人がいるのが見えた。


「あそこだ」


抱えた物を更に守るようにして、駆け出した。

ラグビーの選手の様にどす黒い物の間を擦り抜け、一目散に駆けていく。


「退け」


目の前にいたどす黒い物を押し退ける。


露店の店主が老人の物を受ける前に。

待つなんて嫌だ。

俺が先だ。

彼女に…俺のこれを…。


男はなりふり構わずに露店の前へ行く。

何処かの店の品物が倒れる音がした。

店主が何か叫んでいる気がしたが、男は振り返らない。


「邪魔な奴らめ」


男は尚も目の前のモノ達を薙ぎ払い、倒していく。

そうして、やっと露店の前に着いた時、その店主は老人に代価の支払いの交渉をしていた。


「待って!!待ってくれ!」


男の声に老人と店主は止まり、振り返る。


「こっちを!こっちを先にしてくれ!!」


男は胸元に抱えていたモノを台の上にドンっと置いた。

人形が浮き下に落ちかけた。

老人が間一髪で受け、人形は無事だったが…手放した杖が大きく床を打った。


「大丈夫ですか?和麻さん」


台の上から店主を覗き込み、老人に声をかけた。


「えぇ…人形は無事です」


和麻は大事そうに人形を抱え、杖に手を伸ばす。


「なんだ、爺さんなんかほっといて、これを、これを彼女に…」


男は乱暴に店主と老人の間に割って入ってきた。

カロンはため息を付き、店の横に身を狭くして立つ和麻に、台の上から丸椅子を差しだした。


「これに座って待って居て貰えますか?」


直ぐに終わると思いますが…と言う店主の言葉に頷きながら、杖を横へ立てかけ椅子を受け取る。

そして少しだけ、この美しい街並みを眺めた。

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