バケモノの街
色とりどりの宝石が散りばめられ、キラキラと黄金に近い色をしたアーチの下に、男は気が付けば立って居た。
目が眩むようなそのアーチの先には、青と紫の空が美しく広がっており、その空を露店のランプや蝋燭が照らしていた。
「ここは何なんだ」
露天商が並ぶ街は一見、キラキラと眩しく綺麗で、目に入る物は珍しい物ばかり。
興味や好奇心が刺激され浮足立つ者も居るだろう、がその男は違った。
露店に立つ店主も、店の前に立つ客も全て、どす黒い物が蠢いている様にしか見えなかったのだ。
「化け物だらけじゃないか…」
男はアーチの下から出る一歩が、なかなか踏み切れず、腕に持っている物を抱きしめる。
ほんのり温かいそれを、彼女に渡すと言う想いだけが、男の背中を押す。
「行かないと…」
しかし、勇気は出ない。
ふと、行くべき店の前に老人がいるのが見えた。
「あそこだ」
抱えた物を更に守るようにして、駆け出した。
ラグビーの選手の様にどす黒い物の間を擦り抜け、一目散に駆けていく。
「退け」
目の前にいたどす黒い物を押し退ける。
露店の店主が老人の物を受ける前に。
待つなんて嫌だ。
俺が先だ。
彼女に…俺のこれを…。
男はなりふり構わずに露店の前へ行く。
何処かの店の品物が倒れる音がした。
店主が何か叫んでいる気がしたが、男は振り返らない。
「邪魔な奴らめ」
男は尚も目の前のモノ達を薙ぎ払い、倒していく。
そうして、やっと露店の前に着いた時、その店主は老人に代価の支払いの交渉をしていた。
「待って!!待ってくれ!」
男の声に老人と店主は止まり、振り返る。
「こっちを!こっちを先にしてくれ!!」
男は胸元に抱えていたモノを台の上にドンっと置いた。
人形が浮き下に落ちかけた。
老人が間一髪で受け、人形は無事だったが…手放した杖が大きく床を打った。
「大丈夫ですか?和麻さん」
台の上から店主を覗き込み、老人に声をかけた。
「えぇ…人形は無事です」
和麻は大事そうに人形を抱え、杖に手を伸ばす。
「なんだ、爺さんなんかほっといて、これを、これを彼女に…」
男は乱暴に店主と老人の間に割って入ってきた。
カロンはため息を付き、店の横に身を狭くして立つ和麻に、台の上から丸椅子を差しだした。
「これに座って待って居て貰えますか?」
直ぐに終わると思いますが…と言う店主の言葉に頷きながら、杖を横へ立てかけ椅子を受け取る。
そして少しだけ、この美しい街並みを眺めた。




