朽ちるモノ
カロンは台の上に頭を乗せ、横にあるガラス管を眺めていた。
中には光る代価が二つ。
自由に使える代価が…。
彼はガラス管を撫でてみた。
暖かくも無く、冷たくも無い。
ガラスの硬い質感が指先に伝わり、光が周りを照らしている。
この街の入り口にある、アーチの下に人影が見えた。
杖を突き、よたよたとした動きで歩く。
腕には何かを抱いている様だ。
光り輝くランプや、香しい匂いに目もくれず、ゆっくりと…しかし一直線に露天商の中の一つに向かう。
最初から、その店が自分の希望を叶えてくれると知って居るかの様に。
覚束無い足取りで店の前まで来た老人が、その人形を丁寧に台に置いた。
人形の劣化した髪を整え、ワンピースを整え、手足を揃えた。
「これを…渡していただきたいのです…」
人形を揃え終わった老人が顔を上げ、店主に視線を合わせ言う。
フードに隠れた顔は、ガラス管の灯りで口と顎だけが老人からは見えた。
ソフトビニール製の顔や腕は、肌の色が黒ずみ元の色は分からない。
問題なのは服の下、布製の体がつなぎ目だけでなく、全体が薄くなっており、下手に触るとビリビリと千切れそうな程、朽ちていた。
それを老人は人形の服を包みに、大事に…大事に持ってきたと言う。
寝かされる事で閉じる瞼は少し浮き、虹彩の皺まで再現された、ガラス玉の様な人形の目が少し見えていた。
「お礼が必要でありましたら…これを…」
老人は無言のまま立って居る店主に、代価を差し出した。
人形に少し触れたカロンは悩んだ。
この人形を預かった所で、受け取る者はここには来れない事が分かったからだ。
自分が…行く事…行く事は出来る。
が、それにはカロンにも代価が要る事だった。
老人をちらりと見る。
報酬分の代価と、受け取る者の元へ行く代価…いきかえり分も賄えそうな、代価を老人は持っていると分かった。
しかし、代価は代価。
減る事は老人には「良い事」ではない。
「お前は…どこまで代価が払える?」
カロンの言葉に老人は微笑んで答えた。
「私の持つ全て…でございます」




