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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
人の形

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29/91

朽ちるモノ

カロンは台の上に頭を乗せ、横にあるガラス管を眺めていた。

中には光る代価が二つ。

自由に使える代価が…。


彼はガラス管を撫でてみた。

暖かくも無く、冷たくも無い。

ガラスの硬い質感が指先に伝わり、光が周りを照らしている。


この街の入り口にある、アーチの下に人影が見えた。

杖を突き、よたよたとした動きで歩く。

腕には何かを抱いている様だ。


光り輝くランプや、香しい匂いに目もくれず、ゆっくりと…しかし一直線に露天商の中の一つに向かう。

最初から、その店が自分の希望を叶えてくれると知って居るかの様に。


覚束無い足取りで店の前まで来た老人が、その人形を丁寧に台に置いた。

人形の劣化した髪を整え、ワンピースを整え、手足を揃えた。


「これを…渡していただきたいのです…」


人形を揃え終わった老人が顔を上げ、店主に視線を合わせ言う。

フードに隠れた顔は、ガラス管の灯りで口と顎だけが老人からは見えた。


ソフトビニール製の顔や腕は、肌の色が黒ずみ元の色は分からない。

問題なのは服の下、布製の体がつなぎ目だけでなく、全体が薄くなっており、下手に触るとビリビリと千切れそうな程、朽ちていた。


それを老人は人形の服を包みに、大事に…大事に持ってきたと言う。


寝かされる事で閉じる瞼は少し浮き、虹彩の皺まで再現された、ガラス玉の様な人形の目が少し見えていた。


「お礼が必要でありましたら…これを…」


老人は無言のまま立って居る店主に、代価を差し出した。

人形に少し触れたカロンは悩んだ。


この人形を預かった所で、受け取る者はここには来れない事が分かったからだ。

自分が…行く事…行く事は出来る。

が、それにはカロンにも代価が要る事だった。

老人をちらりと見る。


報酬分の代価と、受け取る者の元へ行く代価…いきかえり分も賄えそうな、代価を老人は持っていると分かった。

しかし、代価は代価。

減る事は老人には「良い事」ではない。


「お前は…どこまで代価が払える?」


カロンの言葉に老人は微笑んで答えた。


「私の持つ全て…でございます」

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