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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
月夜の野菜

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28/91

ガラス管の代価

青と紫の入り混じった空も、店主達や客のやり取りも見えない露天商の店の奥で、長椅子に寝転んだカロンは、遠くに見える台の上のガラス管を眺めていた。

二つの代価。

それ自身が光り輝き、台の上を明るく照らしている。


喜ばしいはずだった。

橋渡しではない、自分と老女のやり取りで得た代価で、彼女の望むモノは渡した。

たかが鍋と刃物と玉子…そして少しの調味料。


それを川の水で煮、夫と共に食した後、彼女は去って行った。

船頭が操る船に乗り、流れていった。


月夜が終わりを告げて、また街は賑わっている。

露店に立つ店主達は、今も又、売りたいモノを売り客は望むモノを手に入れる。


「…代価を払えると言う事は、そう言う事だ」


彼女も分かっていた。

望んだモノは手に入り、預かりモノは渡された。

なのに、カロンは腑に落ちないモノを、もやもやと抱える。


「はぁ…」


ため息を付き、目を閉じる。

眠る訳では無い。

カロンは寝ない。

瞼の裏に映る情景をただ眺めている。


ぴちゃん…


水の音がする。


びちゃびちゃびちゃ


水面を誰かが叩き揺らしている様な、音。

ゆっくりとカロンは起き上がり、店先の台の前に立った。


「ようカロン」


船頭が濡れた手を自分の纏う黒い布で拭く。


「何か用か」


どうせ用は無いと思いながらも返事を返した。

ガラス管の中の代価が、カロンの顔を照らす。

フードの下の、顔の下半分が船頭から見えた。


「ようやく客が来たようだな」


船頭が笑う。


「思っていた初客とのやり取りとは…いかなかったが…な」


カロンがガラス管を指先で撫でた。


「それでも初の客だ」


船頭が船の端に肘をかけ、顎を手の上に乗せた。


「それで?なんの用だ」


暇に付き合いたい気分ではないと、カロンは思う。


「何もないなら、今日は奥に居る」

「まぁ、待て」


奥に引き籠ろうとする足を止め、カロンは船頭に振り返った。


「土産だ」


船頭は何かを投げて寄越した。

硬い毛の生えた獣の革だ。


それを受け取ると、礼も言わずに店の奥にある箱に仕舞う。


「人間の複雑な感情を理解しようとするな。カロン」


川の方から船頭の声が聞こえる。


「丹精込めた物を差し出しながら、毒を含ませる者なんてざらだ。知っていても…知らなくても」


声を聴きながら、長椅子のクッションを整え、カロンはそれに背を預けた。


「いいか。カロン、人は愛しながらも憎みも恨みもする。間違いではないのだ…聞いているのかカロン」


寝そべりながら、瞼の下の情景をまた眺める。

船頭のため息が、露店の奥まで響くのを聞きながら…。

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