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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
月夜の野菜

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23/91

大根と玉子と金色に輝く水面

カロンは鍋と包丁を敏江に渡した。

敏江は鍋を持って、目の前に流れる川に水を汲みに行く。


「あら…ふふふ…」


何かに気が付いた敏江の笑い声に、源蔵が近寄る。


「何がおか…し…なんじゃ、これは。俺か?これは二十歳か?」

「お互い…老けましたね」

「ふんっ…」


源蔵がさっさと露店の前に戻ってきた。

カロンは言われる前にと、コンロを台の上に用意する。

このまま、露店の前で大根を煮込むらしい。

カロンは台の上に肘を付きながら、2人を眺めた。


慣れた手つきで大根の皮を剥き、ぶ厚めの輪切りをしていく。

葉もザクザクと切り、鍋に放り込んだ。


カロンは無言で敏江の望む調味料を並べる。

鍋から湯気が立ち始め、出汁の良い匂いが周りを包み始める。


「あぁ…ここにゆで卵もあれば…」


敏江の声に源蔵がピクリと動く。


「…おい…ゆで卵は…有るかね」

「ありますよ」

「じゃ。それを…」

「じゃあ、ゆで卵も下さいな」


源蔵が言い終わる前に、敏江が割って入り代価を差し出した。

自分が代価を持たない事に気が付いた源蔵は、割り込んだ敏江に何かを言おうとしたのを止め、ゆで卵を受け取る妻を見る。


農家の跡取りである自分の所へ、嫁に来た日を思い出す。

あの頃は恋愛結婚の方が珍しく、親戚を仲介人にし、紹介され結婚した。

初めて会った時、不作の年で金の無い自分には勿体ないと思った。


顔はそこそこながら、農業を手伝い、子も息子と娘、2人を儲け、その2人も立派に育て上げた。

農家の嫁として、義務を果たしてくれた。

時には苦労もさせたが、やりくりをし、ここまで一緒に生きて来た。

視線の先に居る、白髪と深い皺を刻んだ顔の敏江を見て、金の無い時も自身の好きな大根と茹でた玉子を煮たのを、2人で食べ温まった事を思い出す。


「良い人生だったなぁ…」


大根と茹で卵の浮く、黄金に輝く水面を湛えた鍋を目にして呟く。

出汁を飲み、薄茶色に周りがなった味の染み込んだ大根を、箸で割る。

中は薄く白い。瑞々しい。


「良い大根だ」


口に含む大根は、優しい香りと味で体が満たされる様に、源蔵は感じた。

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