月夜に三人
「おお、人がいたのか」
源蔵はスタスタと店主の元へ歩く。
「ここはどこだね。え?どうして俺の名を知ってる」
「お父さんっ、初めて会う方に失礼ですよ」
遅れて来た敏江が窘めるが、源蔵は威張るように腕を組んだ。
敏江は申し訳なさそうな顔をし、頭を下げる。
後ろに纏めた髪から、細く白い髪が何本か解け落ちた。
「ここはどこ…とは正確な答えを出しかねますが、源蔵様に渡すよう、モノを預かっております」
「物?」
「はい。こちらにございます…」
店主が台の上の立派な大根を差し出した。
「これは…立派な大根じゃないか」
チラチラと大根を見ていたのを、隠す様に源蔵は声を大きくした。
彼は大根が好きだった。
特に出汁が染み込んだ煮込まれた大根が、大好物だ。
しかし…。
「ここでは食えんな」
大根を受け取った源蔵が、気落ちする様にぼやいた。
イライラは治まったのか、大根を掲げ、ランプに輝く白い皮を撫でたり、葉の青さをまじまじと眺める。
「刃物はございますか」
敏江が店主に声をかけた。
「えぇ…ございますが…」
店主のカロンは言葉を濁す。
代価が無ければ、貸す事も出来ない。
「ぐちぐち言わず出せ。こんな立派な大根だ。ここで食わにゃしぼんでまう」
源蔵の激しさに、カロンは「代価」の説明をしようかと思う。
代価が無ければ、持つことは出来ないとさっき告げたはずなのに…と。
「あのですね…」
「…お借りできますか?」
敏江の手に代価が乗っていた。
そのここの街にある、どんな物よりも美しく、自ら光を持った輝く代価。
露店主なら喉から手が出る程欲しい…求めるモノ。
しかし、カロンは受け取りを躊躇してしまう。
受け取れば、念願の初客で…手に入る代価…。
「お借り、出来ますか?」
敏江の目元の皺に、彼女が代価の意味を理解していると、カロンは感じた。
その上で「望むモノ」をと…。
「…では…」
恐る恐る手を伸ばし、代価に触れた。
暖かく、光り輝く初めての…代価。
「鍋も…お貸し致します」
カロンの言葉に、敏江が微笑み頷いた。




