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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
月夜の野菜

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21/91

照らされる街

色とりどりの宝石が散りばめられ、キラキラと黄金に近い色をしたアーチの下に、気が付けば立って居た。

目が眩むようなそのアーチの先には、青と紫の空が美しく広がっており、その空を露店のランプや蝋燭が照らしていた。


「ここは…まるで…」


源蔵は頭に浮かぶ場所の名を、急いでかき消した。


「そんなはずはない」


頭を振る。

が、周りの美しく輝く街並みに、見覚えも無い。

源蔵は自分の居た場所には似ても似つかぬこの場所を、言い表すには「それ」しかないと思う。


「お父さん」


隣から妻の声がした。


「敏江…」


源蔵は隣に誰かが居ると思ってはいなかった。


「敏江…どうしてここに?」

「気が付いたら居ましたよ…」


白髪がランプの光で所々金色に輝く妻を、まじまじと見る。


「若返るだのなんだの聞いていたのになぁ…」


目の前の敏江は老婆で、妻より5つ年上の自分は爺のままだな…と、ぼそっと呟いた。


「何かおっしゃりましたか?」

「いや。…しかしここはどこだろうな」

「あの世、かも知れません」


自己が避けた言葉を、妻に軽く言われ源蔵は頭を掻いた。


「そうかもしれん」

「ここまで綺麗な所は知りませんものね…」


敏江が感慨深く街を見渡し、凄く眩しそうに目を細めた。


「あぁ…でも…あの日の…」

「誰も居らんのか」


源蔵の言葉に、敏江は言いかけた言葉を飲んだ。


「そうですねぇ…」

「綺麗だが、誰も居ないとなると…困るじゃないか」


源蔵の言葉の端々に、怒気が生じ始める。

アーチの下から一歩、また一歩と妻を置いて進む源蔵に、彼女は慌てる様子もなくその三歩後ろを進んだ。

タイルの床が、自分達を映すくらいに磨かれているのを見ながら、付かず離れずそっと歩く。

黄金の飾りに、モザイク柄のランプ。

見た事のない花に、大きな鳥の置物。

鮮やかに煌めく物達が並ぶのに…誰も居ない。

露天商の店主や客すらも。


「不用心だな。誰かが盗ってしまったらどうする」


苛ついた口調で源蔵がぼやく。


「大丈夫ですよ。代価が無ければそれらは持てません」


2人は声のする方を向いた。

たった一つ、店主が居る露店。

そして、見た。

立派な大根が置かれたその台を。


「お待ちしておりました。源蔵様」

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