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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
月夜の野菜

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20/91

月夜の客人

青と紫の空にキラキラ輝く月が上った。

美しい月夜に独り、露天商の店主カロンは悩んでいた。

目の前に一本の大根が置かれていたからだ。


「これは…大根?」


触っても突っついても、瑞々しい白に立派な緑の葉を生やした…大根である。

今日は生憎の月夜で、周りの露天商の店主はおろか、代価を払い望むモノを手にする客人も、船頭が乗る船も無い。

要するに自分の周りに誰も居ない。

なので、客人がいつもの様に置いていったのだとしても、その姿を誰も見てはいないし、尋ねる事は出来なかった。


誰も居ないランプの灯る街は、より一層静かで揺れ一つない水面がクッキリとランプの色を映している。

金色にモザイク柄。珍しい花に色とりどりの動物の人形やオブジェ。

中にはおどろおどろしい髑髏も人の顔を模った物もあるが、皆、動きもせず灯りを反射させていた。


その中に独り。

どういうことだと頭を悩ませる。

月夜はいつも独りになってしまうのは慣れている。

仕方ない。空っぽの…ガラス管が空虚の中身をさらけ出している。

だから…仕方ない。

でも、こんな日に…預かりモノが来るなんて。

しかも、預けに来た客人の姿を見る事無く、気が付いたら台の上に置かれていた。


いや、しかし…船頭が不在であって逆に良かったのかも知れないと、カロンは思う。

こんな事がアイツの目の前で起こったなら、カロンは始終笑われ、事ある毎にこれを笑い話として出されていただろう。

周りの露天商の店主が忘れても、入れ替わっても、何なら遠い未来に売りモノが売れ、代価を支払う客が来た時でさえ、初来客を祝う前に持ち出される。


「早いとこ渡すか…」


渋々大根をその手に持ち、眺める。


「こいつに渡せば良いのだな?」


持たれた大根の葉がさわさわと揺れた。


「…必ず渡そう…」


船頭が帰って来る前に。

カロンはそう決心し、白い布で大根を磨き始めた。


瑞々しい白さと青々とした葉は変わらず、端々に付いていた泥が取れ、ランプの光を受けつやっつやに輝いていた。

皮をむいて…魚と共に煮物に…いや、おでんも良いな…ちくわに…巾着、あぁ玉子もたくさんあって欲しい…。

大根を握りしめ、そっと台の真ん中に置く。


「早く…来てはくれないだろうか…」


カロンのお腹が少し音を立てた気がした。

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