黒猫
カロンは台の上に肘を付き、周りの店をぼんやりと見ていた。
物を渡し、代価を受ける。
そのやり取りを。
自分の店には訪れないやり取り。
カロンの羨まし気な目線に周りの露店主は気が付いており、時折見せびらかす様に代価を見せつける。
目の前に流れる川に、止まっている船から船頭が笑う。
船頭は暇になるとカロンを揶揄いに来るのだ。
「今日も客人は来なかったのか?」
「見ての通りさ」
店の台の上には、代価を保管するためのガラス管が並んでいるが、カロンの店のガラス管は空っぽだった。
ちりんっ。
鈴の音がアーチの方から微かに聞こえた。
「どうやらお前の客の様だ」
船頭が指を差す。
黒く小さな猫がアーチ下に現れた。
警戒をしつつゆっくりと歩く猫は、周りの煌びやかな品物も、香しい匂いを放つ美味そうな食べ物に目もくれず、カロンの店の前に一直線に来る。
「にゃーん」
可愛らしい小さな黒猫。
「あぁ、またか」
カロンは深くため息をついた。
「どうぞ」
カロンが手を差し伸べると、黒猫に露店の台に乗った。
咥えていた何かを、台の上の自分の足元にコトッと置いた。
「にゃーん」
銀色の鎖に雫の形をしたトップがついて居るネックレスだ。
宝石なのか青い石はキラキラと輝いて居る。
手に取り青い石を眺めると、中に女性が映った。
「彼女に渡せば良いのだな?」
カロンの声に黒猫は瞬きを返す。
「必ず渡そう」
黒猫はカロンの言葉を聞くと早々に台を降り、船頭の乗る船へ歩を進めた。
船頭はゆっくりと漕ぎ出す。
黒猫の目に街のランプの灯りや、空の星が映りキラキラと反射した。
「にゃーん」
黒猫の一鳴きに、周りの露天商も船を見る。
そして、手を振る。
船頭の横に座っていた猫が、丸まり目を閉じた。
船は水面をゆっくりと滑り、後ろに波紋を広げながら流れていく。
街の灯りに水面が煌めくのを見守り、船が見えなくなった頃、また周りの店は賑やかになり、カロンは黒猫が持ってきた青い雫のネックレスを、白い布で磨き始めた。
ネックレスが美しく、黒猫から受け取った時よりも更に輝きを持ち、街の灯りを大いに受けた。
それを店の台の上、真ん中に置いた。
「もうすぐ彼女が来るだろう…」




