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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
ピンクの象

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19/91

個性とは面白さ

「お母さんが言ってたピンクの象の子って…圭太って名前?」


中学の制服を着た女の子が立って居る。

髪の毛の長い、記憶の中の林先生に似ている感じがする。


「えぇ、どうして?」

「学校の先輩にね、ピンクの象が好きな先輩がいるの。お兄さんが圭太って名前で」


女の子は行儀悪く食パンを咥えている。

夕食前の時間らしく母親らしい人は夕食の準備をしていたが、菜箸を落としかけた。


「これ、可愛いでしょ。先輩が作ったんだって」


母親に掲げてみせるのはピンクの象のフィギュアだった。


「器用よね。いつか造形に進みたいんだって」

「そう…」

「ほら、愛良。愛良も可愛いの好きよね」


小さな手が伸び、ぎゅっと握りしめた。


「先輩に愛良の手術の話をしたの…。そしたらお守りにって」


女の子は優しく愛良を撫でた。

その夜のやり取りが、さっきのシーンだったのだろうと圭太は思う。


「弟が…ピンクの象を?造形?」


進路はおろか趣味の話さえした事が無い。


『お兄ちゃんが好き』


幼い時の弟の声が聞こえた気がした。


『お兄ちゃんのピンクの象が大好き』


「どうして…お前が生まれてすぐに絵は捨てられてたのに」


小さな弟が父親の部屋で本を開く…破れた絵が出て来た。

可愛らしいピンクの象の絵。真ん中を堂々とセロファンテープが横断している。

弟はそれを自分の部屋へ持って行った。

そして父に見つかった。


「…ピンクの象、良いだろう?お兄ちゃんが描いたんだ。…話に聞いた時は、なんというか…ピンクなんてって思ったけど、ごみ箱にあるこれを見たら捨てられなくて…お母さんには内緒で拾ってたんだ」


愛おしそうに絵を撫でる父の手が、自分の頭を撫でている様に思った。


「僕、お兄ちゃんの絵好きだよ」

「そうだな。…自由で個性があって…面白い」

「うん。お父さん…この絵ちょうだい」

「…」

「大事にするからぁ…」

「分かった。大事に…な」


目一杯の笑顔の弟に、それを渡す父。

圭太はそれを突っ立って見ていた。


「なんだ…俺のピンクの象も…」


認めて貰えていた。

涙がすうっと流れ、落ちた。


「居た!!圭太!!」


呼ばれて振り向くと友人達が走ってくる。


「探したんだぞ!」

「ご…ごめん」


衝動的に謝る。


「ピンクの象?」


1人が手元にあるフィギュアに気が付いた。


「買ったのか?」

「あ、いやこれは…」


圭太は持っている物を隠そうとした。


「俺、そこで青いカバ買ったぜ!」

「俺、キリン。なんでか紫!」

「え、俺、圭太ばっか探しててなんも買ってねえ!ずりいな」


それぞれが、それぞれの色の動物を見せ合いながら口々に言う。


「おい!圭太!行こうぜ!」

「こいつのなんか買いに!」

「まだ夜じゃねえし大丈夫だろ!行くぞ!」


絡み合った三人が圭太を呼ぶ。


「じゃあ、そいつのはゴリラだな!緑の!探そうぜ!」


笑いながら加わる。

胸の痛みも悲しさも、無くなったかのように軽く、夕暮れ近いはずなのに、いつも見える景色より数段明るく眩しかった。

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