個性とは面白さ
「お母さんが言ってたピンクの象の子って…圭太って名前?」
中学の制服を着た女の子が立って居る。
髪の毛の長い、記憶の中の林先生に似ている感じがする。
「えぇ、どうして?」
「学校の先輩にね、ピンクの象が好きな先輩がいるの。お兄さんが圭太って名前で」
女の子は行儀悪く食パンを咥えている。
夕食前の時間らしく母親らしい人は夕食の準備をしていたが、菜箸を落としかけた。
「これ、可愛いでしょ。先輩が作ったんだって」
母親に掲げてみせるのはピンクの象のフィギュアだった。
「器用よね。いつか造形に進みたいんだって」
「そう…」
「ほら、愛良。愛良も可愛いの好きよね」
小さな手が伸び、ぎゅっと握りしめた。
「先輩に愛良の手術の話をしたの…。そしたらお守りにって」
女の子は優しく愛良を撫でた。
その夜のやり取りが、さっきのシーンだったのだろうと圭太は思う。
「弟が…ピンクの象を?造形?」
進路はおろか趣味の話さえした事が無い。
『お兄ちゃんが好き』
幼い時の弟の声が聞こえた気がした。
『お兄ちゃんのピンクの象が大好き』
「どうして…お前が生まれてすぐに絵は捨てられてたのに」
小さな弟が父親の部屋で本を開く…破れた絵が出て来た。
可愛らしいピンクの象の絵。真ん中を堂々とセロファンテープが横断している。
弟はそれを自分の部屋へ持って行った。
そして父に見つかった。
「…ピンクの象、良いだろう?お兄ちゃんが描いたんだ。…話に聞いた時は、なんというか…ピンクなんてって思ったけど、ごみ箱にあるこれを見たら捨てられなくて…お母さんには内緒で拾ってたんだ」
愛おしそうに絵を撫でる父の手が、自分の頭を撫でている様に思った。
「僕、お兄ちゃんの絵好きだよ」
「そうだな。…自由で個性があって…面白い」
「うん。お父さん…この絵ちょうだい」
「…」
「大事にするからぁ…」
「分かった。大事に…な」
目一杯の笑顔の弟に、それを渡す父。
圭太はそれを突っ立って見ていた。
「なんだ…俺のピンクの象も…」
認めて貰えていた。
涙がすうっと流れ、落ちた。
「居た!!圭太!!」
呼ばれて振り向くと友人達が走ってくる。
「探したんだぞ!」
「ご…ごめん」
衝動的に謝る。
「ピンクの象?」
1人が手元にあるフィギュアに気が付いた。
「買ったのか?」
「あ、いやこれは…」
圭太は持っている物を隠そうとした。
「俺、そこで青いカバ買ったぜ!」
「俺、キリン。なんでか紫!」
「え、俺、圭太ばっか探しててなんも買ってねえ!ずりいな」
それぞれが、それぞれの色の動物を見せ合いながら口々に言う。
「おい!圭太!行こうぜ!」
「こいつのなんか買いに!」
「まだ夜じゃねえし大丈夫だろ!行くぞ!」
絡み合った三人が圭太を呼ぶ。
「じゃあ、そいつのはゴリラだな!緑の!探そうぜ!」
笑いながら加わる。
胸の痛みも悲しさも、無くなったかのように軽く、夕暮れ近いはずなのに、いつも見える景色より数段明るく眩しかった。




