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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
ピンクの象

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18/91

象の形

圭太は目の前の露店主とピンクの象を前にして、身動ぎ出来ずにいた。

差し出されたピンクの象は、ランプに照らされ輝いている。


「夜に出るな」


着いた時に言われた言葉を思い出す。

昔見たお伽噺…絵本に出てきそうだと浮かれてしまった。

ここはエジプトのカイロの…どこかのバザールだ。と圭太は不安になる。

友人達も側に居ない。自分1人バザールに取り残された。ホテルの位置は…。

圭太は辺りを見回す。が、見覚えのない異国で土地勘など無い。


「あ…あの…」


言葉の分かる店主だ、ホテルまでの道を教えてくれるかも知れない。

そう考えた。


「圭太様。愛良様からのお品物です」


店主はピンクの象を差し出してくる。

受け取りたくは無かった。


「愛良って誰ですか。…僕…俺は知らないです。人違いです」


やっと出て来た言葉に緊張が解れたのか、手足が動いた。

圭太はそのまま体を後ろへ翻し、露天商の前から走り去った。


…走り去ったはずだった。

アーチの先に行けば、どうにかなると思ったが、上の丸くなった部分は見えども近付けない。

周りの露天商の人達も代わり映えがせず、どこをどう通ったか分からなくなっていく。


「下手に逃げ出すんじゃなかった」


自分の息が上がるのと同じく、早鐘の様な心臓の音に苦しくなる。

視線では友人を探す。…どこにもいない。


「一旦…止まろう…」


息を整える為に足を止めた目の前に、ピンクの象が置かれた店があった。


「戻って来てしまった…」


愕然となる圭太に店主はまた、ピンクの象を差し出す。


「本当に…知らないんです…愛良って…誰…」


情けない声を出す彼は、心細さのあまり自分が縮んでいく様な気がした。

そうすると店主の持つ、ピンクの象が大きく感じてくる。

象の鼻が、水を含む様に、リンゴを持つように…。

自分に向かってくる錯覚に陥り、圭太は叫んだ。


『ごめんね…圭太君』


女性の声が聞こえた。


「林…先生?」


懐かしい優しい声。

そして、記憶にある彼女よりも歳を重ねた横顔が…浮かぶ。


『傷付けた…私が好きにって…言ったからあの子。自由に描いてくれたのに…』


両手で顔を覆い、泣く女性の傍らにいる男性が慰めている。


「どうして…どうして今更、こんなモノを見せるんだ!!」


圭太は叫んだ。

これが林先生であって、幼稚園の時の絵の話だとしても、今更…なのだ。

ピンクの象がけたたましく、グニャグニャ変形を繰り返しながら頭に回る。


「もう少し…奥を覗いてみてください」


店主の声がした。

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