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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
ピンクの象

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15/91

他人の目

小学校に上がり、写生大会が行われても、絵を間違った色で描くまいと、目に見える形でしか描かなかった。

少しでも違う色を塗れば…あの時みたいになる…。

その恐怖心が強かった。

弟が幼稚園に入り、自分と同じ様に動物園に行く日の朝、父親が弟に言った。


「ピンクの象は描くなよ」


父親は悪気なく言ったのだろうが、圭太の胸が痛んだ。


「お兄ちゃんはやんちゃで上着も汚してきたから…」


お弁当を詰めながら、母親が言う。


「僕、そんな事しないよ」


笑いながらリビングで朝ご飯を頬張りながら弟が答えた。

圭太はいたたまれずに、黒いランドセルを持ち玄関に走る。


「いってきます」


両親と弟の行ってらっしゃいの声を遮るように玄関のドアを閉め、学校へ走った。

今日は朝礼で写生大会のコンテストの入賞者を発表する。

…先週、先生に呼ばれ、自分が入賞した事を告げられたが、圭太は両親に言わなかった。

名前を呼ばれたら壇上に上がり、表彰状を貰う。

…本当は休みたかった。


電信柱と道路の灰色が、自分を責めている気がした。

汚れた所や、砕けた跡がある。


「灰色だって…同じじゃないのに…」


影と光が当たる場所で、違うはずだ。


「でも…ピンクじゃないもんな…」


明るいピンクが好きだった。

どこに置いても強く主張する。

赤よりも優しいのに、存在感があるピンク。

林先生のエプロンの…色。


運動靴に石が当たり、跳ねて壁に当たる。

石も灰色。

壁も灰色。


重い足取りで学校に着くと、朝礼が始まる為、生徒達が集まった。

名前を呼ばれ、壇上に上がると皆が拍手をした。

壇上から…降りる時、生徒が集まる運動場に顔が向けられず、下を向いた。


「ピンクの象描いてたくせに」


列に戻る途中で、声がした。

圭太は顔を上げて周りを見たが、誰が言ったか分からない。


「え?ピンクの象?」


ざわめきが波の様に広がっていく。


「誰が?」

「あいつ?」

「ピンク!」

「女?男?」


生徒達がざわめき、教師が静かにするように促した。

壇上では次の学年の生徒の表彰が続く。

圭太の足が震え、首筋には冷や汗が流れた。


全ての生徒の視線が、自分に向けられている様に感じて怖かった。

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