無残な絵の行方
動物園の帰り道、圭太は酷く落ち込んだ。
汚れた画板に汚れて破れた絵。
そして、周りの子達からの「おかしい」と言う悪口。
林先生は「大丈夫」と言ってくれた。
しかし、怖い先生は林先生が居なくなると圭太に「ピンクの象は無いわー」とチクチク言ってきた。
「ピンクの象なんておかしいモノ描く子は、おかしい子。もう一度描き直しなさい」
そして、周りの子に言う。
「おかしいよねー。ピンクなんて。しかも男の子が!…だから先生がコケても心配できない悪い子になっちゃうの」
怖い先生の声に同調しない子も居たが、肩を叩かれ「ねっ?」と大人に言われてしまうと、強く拒否できない。
そして…無残な姿になった絵は、圭太の中で「動物園」のトラウマを象徴する物になってしまった。
幼稚園で飾られても、あの日の事が忘れられない。
周りの灰色の象に並んだ、黒く泥水が滲んだピンクの象。
林先生が産休に入っても、幼稚園の部屋の壁に長い間飾られ、それを指さしては皆が笑う。
「圭太君が描いたの」
「ママ。ピンクの象っておかしいよね?」
保護者の迎えにも、口々に子供達が報告した。
怖い先生はそれを見て、満足そうに笑う。
そして、親達も子供をあしらう様に同調したり、先生の顔色で同調した。
「…ピンクの…」
破れたピンクの象は、冬に手元に帰って来た。
補修されず、そのまま貼られていた為に、あと少し力を入れると半分に破れそうな絵は、持って帰るまでに風で千切れた。
持って帰った千切れた絵を、母親は遊んで破ったのだと思い、ごみ箱へ捨てた。
「動物園に行った時も上着をびちゃびちゃにするし、絵も破くし…」
説明をしたかったが、圭太には上手く説明が出来なかった。
ある夜、泣く弟の声で目が覚めて、圭太はリビングへ行った。
「男の子ってこうなのかしら。ピンクの象なんて描くのに…」
「男でもピンクの象なんて描かないよ」
「あなたは昔どうだった?」
「んー描いても赤い車かなー、ピンクなんて女の子じゃあるまいし」
両親の会話を、ドアの前で黙って聞いている事しかできなかった。
泣いている弟にあやす母親の声、楽し気に会話する父親の声に無性に寂しくなったが、自分が起きていると知られると、この団欒は終わり怒られる事を知っていた。
音もなく、部屋に戻り静かにベッドに入った後、圭太は泣いた。
そして、卒園の日にも林先生は復帰する事は無く、会う事は無かった。




