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異世怪奇譚  作者: ツチノコ太郎
ep.4 学園
27/29

27 火の独白



ユーくんことユーリ=オルヴェーヌ。又の名をヒューイ。


彼は強い。


10歳になる前、まだ"鑑定の儀"が行われるまでの間、オレたち五大家に生まれた子供たちは偶然にも歳が同じだったこともあり、自然と一緒に連んでいた。


オレとガトちんがくだらない悪ノリをして、真面目なロイロイが説教する。それをいい顔しいのライが宥め、そしてユーくんがみんなをまとめて引っ張る。


それが当たり前の日々だった。


同年代と比べて優秀な5人の中でも特にユーくんは強く、賢かった。オレとガトちんが大人に怒られそうになった時は上手く言葉を並べて相手を宥めた。


ガトちんがロイロイにくだらないちょっかいを出した時は、正面から実力で黙らせた。


ライが他の子供達に陰口を言われていた時は全員と1人ずつ話し合い、最終的には家を頼ることなく謝らせた。


まさにヒーローだった。かっこよかった。憧れた。


言動の全てにおいて自信に満ち溢れており、そんなユーくんがたまにする小さなミスでさえむしろ愛おしく感じた。


あらゆる面で完璧だったユーくんはもちろん他の子供達からも人気があり、他国の令嬢までもがお見合いの手紙を出していた。その度にオレとロイロイは不機嫌になりユーくんを困らせた。


…………あのときの満更でもなさそうなユーくんの顔を思い出すといまだにイライラする。


毎日が楽しかった。新鮮で、刺激的で、それでいて実家のような安心感があった。オレたちが大人になっても家を継いだとしても、このメンバーなら大丈夫だと本気で思っていた。


あの日までは。


皆が10歳を迎えたある日、鑑定の儀が行われた。厳かな格好をしたおっさんにより、オレたちはそれぞれの家の魔法をより濃く引き継いでいたことが分かった。特にオレとライの数値は歴代最高峰とのことだった。ロイロイとガトちんの2人も平均よりも遥かに高い適性値を記録していた。


みんなが手を取り合って喜ぶ中、ユーくんの番になった。五大家だけではなくその場にいた人の誰もが期待した。魔法の祖と語り継がれる魔術王の再来だと囃し立てていた。


でも、ダメだった。


ユーくんの適性値は 0 だった。これは後から知った事なのだが、そんな数字は史上初らしい。


魔法至上主義であったオレたちの国は、適性値がものをいう世界。たとえ五大家末裔と言えど、周囲からの評価はその瞬間から底をついていた。


あれほど仲の良さそうだった家族から向けられる失望の目、周囲からの嘲笑。


オレたち4人は呆然とそれを見ていた。何もしてあげられなかった。


あの時のユーくんの絶望した表情を、オレはこの先忘れることはないのだろう。手を差し伸べられなかったことに一生後悔し続けるのだろう。


その日をきっかけにユーくんはオレたちの前から姿を消し、残された4人も自然と集まることは無くなった。


だから学園でユーくんを見かけた時にはとても驚いた。雰囲気が変わり、名前も違った為2年になるまで気が付かなかった。


なんて声をかけたらいいか分からなかった。遠くから見ていることしかできなかった。


ある日、ロザリオが闇ギルドに拉致されるという事件が起きた。それも依頼主は同じ学年の生徒だということだった。虚を突かれた突然の事態に行動できずにいた教員に代わり、現場に駆けつけたオレは見た。


虚な瞳をしたユーくんが、たった1人で数十人を相手する姿を。


攫われたロザリオには申し訳ないことをしたが、その時のオレは彼女のことをすっかり忘れてユーくんの姿に見惚れていた。


圧倒的だった。1人だけまるで早送りしているように動き、片っ端から薙ぎ倒すその姿は初めて見るユーくんだった。最終的には魔力波という技で全てを薙ぎ払い、ロザリオを助けてみせた。


まるで物語の中心であるかのように笑い合う2人が羨ましかった。陰で見ることしかできない自分が情けなかった。


あれだけの力があれば、たとえ魔力適性が無かったとしても認めてもらえる筈だ。もう一度かつての日々に戻れるかもしれない。そう考えたオレは数年ぶりにユーくんに話しかけ、模擬戦を申し込み、戦った。


結果は悲惨だった。開幕1秒、オレの力の前になす術もなく彼は散った。


違う。こんなのユーくんじゃない。あの時見た力はこんな物じゃなかった。


そう勝手に失望したオレは、逃げるように修練場を去ったのだった。


後から気がついたのだが、ユーくんは無意識の内に自分の力をセーブしている様だった。全てを代償にしてでも戦うという覚悟を持った瞬間にリミッターが外れる、いわゆる火事場の馬鹿力を発揮するのだろうと思った。


だから、今回あえてユーくんの禁忌(タブー)に触れた。どうしても本気のユーくんと戦いたかった。だからつい足手纏いなんて言ってしまった。


本当はダンもロザリオも素晴らしい才の持ち主であることは知っていた。直接話したこともあったし、2人とも貴族ではないものの、オレたちと遜色のないものを持っていたことも知っていた。


でも、だからこそオレは嫉妬した。学園で彼らを見かけるたびに胸がムカムカした。ユーくんの隣に立って笑う2人がずっと羨ましかった。あの日、何もできなかったオレたちにそんなことを言う資格なんてないのかもしれない。でも、それでも、本当ならそこにいるのはオレたちだった!


この戦いが終わったら今までのことを全力で謝ろう。土下座でもなんでもしよう。ヴォーパール家を捨ててユーくんと夜逃げするのも悪くない。命が欲しいと言うのならばこんなもの喜んで差し出す。


だけどこの戦いが終わるまでは、どうかもう少しだけ待って欲しい。


とにかく今は、本気のユーくんと戦いたい。ただそれだけ。





・・・・・・・・

・・・・・

・・・






ポーン。


【ヒューイから同意が得られました。ただいまよりオプション:セーフティーを解除致します】


大の字で倒れるグローリアの元にアナウンスが届いた。


「おい、立てよ」


「ーーーッ!」


小さく、しかしはっきりと聞こえる不気味な声に、グローリアはがばりと飛び起きた。


こちらに向かってゆっくりと歩いてくる黒髪眼帯の男。先ほどまでと異なり、左半身に青白く発光する線が浮き出ている。


(あれは、魔素?)


通常、魔法を行使する際に大気中の魔素を体内に取り込み、様々な魔法へと変換して行使するのだが、それをそのまま留めておくことは不可能である。


膨大なエネルギーを誇る魔素は一定時間を超えると体に有毒な物質へと変化し、あっという間に人を死に至らしめる。


そこに例外はなく、前提として魔素を消費せず()()()()()()()()と言う発想にすらならない。


(ーーーまさか)


再会した時から感じていた違和感。領域で負った怪我の治療だけではなく、必要以上に体を弄っていた気がした。まるで魔素を循環させるための人工臓器を埋め込んでいるかのように。


(この戦いが終わったら詳しく話を聞かせてもらう必要があるな。尤もーーー)


ーーー自分が生きていればの話だが。


確かに体のことは気になる。


しかし、それ以上に目の前の人物が放つ圧力に気圧されていた。


本気のヒューイから感じる圧倒的な殺意。本能的に身の危険を覚えるほどの、濃密な空気。


ヒューイが呼吸するたび口からは青白く輝く空気が吐き出されている。おそらく循環する魔素が体内に浸透していっているのだろう。


こちらに近づく度に大地がひび割れていく。グローリアよりも頭ひとつ小さい体に不釣り合いなほど大きな質量を内包しているかのようである。


今この瞬間、ヒューイの体内では消費されなかった魔素が暴れ回っているに違いない。膨大な力と引き換えにエネルギーが体を蝕んでいるだろう。


しかし、当の本人は苦しむ様子を見せない。ハイライトのない虚無の瞳がグローリアを射抜いているだけ。


そんな純粋な殺気を一身に受けたグローリアは、


しかし、


口を大きく開けて嗤った。


胸中に抱える感情は"喜"。それは袂を分かったあの日がきっかけか、それとも生まれつきなのか。ヒューイだけではなくこの女もとうに狂っていた。


「いい!いいよユーくん!それでこそオレたちが憧れたユーくんだ!!」


チラリと見た互いの花弁(ライフ)は1。おそらく次の一手で決まるだろう。僅かに口惜しさを感じながらも、グローリアは勢いよく荒れた大地を蹴った。




先に仕掛けたのはグローリア。両足の裏から噴出した炎の勢いによってヒューイの元へと肉薄すると、その場で回転踵落としを繰り出した。


「ーーーッ!」


炎を纏った必殺の一打。縦に紅の線を描きながら放たれた蹴りを、しかしヒューイは軽く体を引く動作のみで回避する。と、同時に脇腹付近でグローリアの体が止まった。


その理由はグローリアの踵から放たれた炎。振り下ろした足の勢いと完全に同じ力になるように調整されたそれにより、ぴたりと空中に体を固定する。


ほんの僅かな力のズレでも停止することはないだろう。目に見えないほど小さな針穴に糸を通すようなこの技術は、まさに神業。


「ーーーラァッ!」


ノータイムでつま先から噴出される炎。


勢いのまま今度は体を捻るグローリア。真横に回転し、気合いとともに回し蹴りを放った。


(フレイム)十字架(クロス)


炎の残滓が十字を描く様子から名付けられた必殺の縦横2段攻撃が、ヒューイの無防備な脇腹へと向かいーーー


「!?」


こちらを見下ろすヒューイと目が合う。額から左目を通過し顎まで伸びた一本の青白い線を浮かばせ、正面を向いたまま真紅の瞳だけがギョロリと動いた。そのままグローリアを捉えて離さない。


(しまっーーー)


見開かれるグローリアの両眼。無限に引き伸ばされたかのように知覚するスローモーションの空間で、目の前の男だけが俊敏に動く。


グローリアの回し蹴りを左腕で受け流し、懐へと。


瞬間。


ヒューイが放ったアッパーカットが、グローリアの体をくの字に折り曲げるほどの勢いで撃ち抜いていた。





・・・・・・・・

・・・・・

・・・






空を舞うグローリアの体。だらりと垂れ下がった四肢から、彼女がこれ以上争う意思がないことが分かる。


残り1つだった花弁(ライフ)は半分に砕け、今にも全壊しそうであった。落下の衝撃だけで砕け、放っておいても直に己の勝ちが決まるだろう。


しかし、そんな決着を許すつもりは一切なかった。


迷いなく落下地点へと進み、その場で軽く腰を落とす。ほんの軽くつま先に力を入れただけにも関わらず、蜘蛛の巣状に大地が割れ、全身が深く沈んでいく。


淡々と、決められたタスクをこなすかのように無言で拳を握りしめる。その表面は魔装で覆われ、内面は魔素で補強されている。


循環。


発散されることなく体内を縦横無尽に駆け巡る魔素は時間の経過とともに増加していく。それは己の体を蝕み、いつのまにか花弁(ライフ)は残り僅かになっていた。しかし、ヒューイは魔素を取り込む手を止めない。


そしてついに魔装で補強していた拳が裂けた。中から飛び出したのは赤ではなく魔素が含まれた青白い血。


その血を掴むように拳を握り直すと、標的目掛けて全力で振り抜きーーー


その瞬間、


頭から落下してきたグローリアと目が合った。空に打ち上がったあの時、瞬時に意識を取り戻していたようだった。しかし、彼女に抵抗する様子はない。


そんな彼女は何をするわけでも無く、


ただ全てを受け入れるかのように、目を閉じて微笑んだ。


(ーーーッ!)


その顔に幼き頃のグローリアの姿を幻視し、ヒューイの目に光が戻る。


結果として、振り抜いた拳が標的に当たることは無かった。


代わりに顔の目の前で寸止めした拳の風圧が、残り僅かだったグローリアの花弁(ライフ)を完全に消し去ったのであった。





【グローリアの全花弁消失(オールライフラスト)を確認。winnerヒューイ】




天井から、模擬戦の終了を告げる音が鳴り響く。


「これは、完全にやりすぎたな」


模擬戦が終わり、荒地から真っ白な部屋に戻ると同時に僕は自分が起こした惨状に思わず頭を抱えた。


いくら常勝の誓いを悪く言われたからとは言え、それがグローリアの本心でないことなどわかりきっていた筈。十中八九僕の実力を引き出すためだろう。ライブ配信を通じて僕の本当の力を認めさせたいと言う目的もあったかもしれない。その点に関しては目の前で倒れる彼女にまんまと乗せられてしまったわけだ。


「んで、肝心のグローリアは満足したか?」


ゆっくりと呼吸し、体内から魔素を少しずつ放出しながら、僕は足元から無言でこちらを見つめるグローリアに声をかけた。


「……」


僕の質問に対して僅かな逡巡の後、目を逸らすことなくはっきりと口にした。


「ユーくん、ごめんなさい」


「ん?」


「ダンとロザリオ、あの2人は足手纏いなんかじゃ無い。むしろユーくんにとってはかけがえのない仲間。それなのに、オレは……」


ごめんなさい、ごめんなさい。そう謝り続け、今にも泣き出しそうなグローリア。そんな普段とは異なるしおらしい姿に、僕は毒気を抜かれた。


「いいよ、もう怒ってないし。グローリアの本心じゃないことは今は理解してるから」


「……でも」


「あーもうこの話は終わり!僕もやりすぎたし、これでおあいこって事で」


「なら、また昔みたいに仲良くしてくれる?」


「まあ、僕が決める事じゃないから……」


気まずさを感じ、思わず頬を掻いた。


「おんぶ」


「え?」


「もう立てない。だからおんぶして」


「急だな!勘弁してくれ、これ以上目立ちたくない。それに僕だって限界なんだぞ」


それでも一切譲る事なく、ん!と両手を突き出すグローリアを渋々背負うと、出口へと歩み始めた。


「なぁユーくん」


「なんだ?」


「一度だけ戦ったあの日、覚えてるか?」


「あぁ」


「あの時は、もっと強いユーくんを知ってたから。だからそんなユーくんの強さを引き出せなかった自分にがっかりしただけで、別にユーくんに失望したとか、そんなんじゃないからな」


「……そうか」


(もっと、ちゃんと皆んなと向き合うべきだったのかもな)


この時、心に抱えていたモヤが一つ消えた気がした。自然と口元が綻ぶ。


「あと、ユーくんの8歳の誕生日会の時、ユーくんの分に買ってたお菓子全部食べちゃってごめんなさい」


「……ん?」


「それから、ユーくんが大事にしてた光る剣のおもちゃ、真っ二つに折っちゃってごめんなさい」


「ん?」


「それからーーー」


「おい待て、何だそれは」


「ん?この際だからオレが今までユーくんに黙ってたことを謝ろうと思って」


「……やっぱり僕、仲直りするのやめるわ」


「ヤダヤダヤダ!仲直りするんだー!」


「やめろ!上に乗ったまま暴れるな!」


そのまま2人で暴れながら部屋から出ると、出口で1人の人物が待ち構えていた。


「ヒューイ副所長殿、学長がお呼びです」


昨日僕を案内してくれた優しいアイラさん。今日もピシッとしたスーツを身に纏い、にっこりと微笑んでいる。


しかしその瞳は一切笑っていなかった。よく見ると口元がピクピクと痙攣していることが分かる。


(やばっ、完全に怒ってる)


何せ学園の顔でもある五大家次期当主を観衆の前で打ち負かしたのだ。それもセーフティーは解除しており、彼女を殺す一歩手前であったことは、ある程度の実力を持つものなら見抜いていただろう。


「すみません!すぐに向かいます!!」


いつの間にか他人事のように寝ているグローリアを、思わず投げ捨てそうになるのを我慢した僕をだれでもいいから褒めて欲しい。アイラさんに促されるまま、早歩きで執務室へと向かった。





・・・・・・・・

・・・・・

・・・




 


「それでは私はここで。何かあ・り・ま・し・た・らまた声をかけてください」


「……はい。色々とすみませんでした」


僕はため息と共に立ち去るアイラさんを見送った後、ドアをノックした。流石にグローリアは背中から下ろした。めちゃくちゃ抵抗されたが。


「ーーーどうぞ」


すぐに幼い声が返ってくる。聞き馴染みのある声に体の力を抜いた僕は、促されるままドアを押し開けた。


部屋の中には昨日とは異なり、ルナーレ学長に加えてもう1人の人物が背を向けていた。


「っ!」


予想外の状況に思わず身構える。僕たちが部屋の外にいた時は一切の気配を感じなかったのだ。隣からも息を呑む声が聞こえる。おそらくグローリアさえも気づいていなかったのだろう。


いくら疲れてたとはいえ、あり得ない事態。


僕達が警戒心を高める一方で、ルナーレ学長と向かい合うように座っていた人物がこちらを振り返った。長い耳を有するその人は、水色の長髪を軽く揺らして立ち上がる。


何故か体が虹色に発光し、キラキラと細かな光の粒子が輝いている。


理解し難い状況に緊張感が増し、思わずごくりと唾を飲み込んだ。


沈黙する事数秒。満を持してその人物が口を開いた。


「初めましてヒューイクン。それからヴォーパールクン。私の名はセルティウス。夜空に輝く一番星のように、あるいは極寒の大地に咲く一輪の華のように、世界一美しく輝くエルフさ☆ 君はーーーーーー」




僕は無言でドアを閉めた。




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