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異世怪奇譚  作者: ツチノコ太郎
ep.4 学園
23/29

23 在りし日の記憶

粉雪が舞い落ちる。


鉛色の空を一羽の黒い鳥が羽を広げて旋回する。


周囲の木々は根本から薙ぎ倒され、まるで黒板にチョークで線を引いたかのように森が割れている。


冷気を纏った風が肌を刺す。


大地に染み込んだ真っ赤な絨毯と、己の体温により溶け出した雪が混ざり合い、背中を濡らす。


視界の半分は暗く、かろうじて見える片側も頭から流れる血によって赤く染まっている。全身が思うように動かせず、口からは白い息が漏れ、体温が徐々に低下していることが分かる。


鼓動の音が遠く感じる。


朧げな意識の中、かじかんだ左手の指を地面に立てて引っ掻く。爪が割れ、先端が裂けるも感覚は無く、意識は別の所にあった。


それは耳鳴りに混ざって微かに聞こえる音。


自然と名前が口から漏れる。たったの一撃で場外へ弾き飛ばされた己に代わって戦う、戦場に残されたパーティメンバー。脳裏によぎるのは才気あふれる1人の少女。


「ーーー」


僅かな身じろぎだけで波紋が生まれるほどの血溜まりの中、這うようにして立ち上がった少年は、掠れた声でもう1人の仲間の名を呼ぶ。脳裏によぎるのは才気あふれる1人の少年。


「ーーー」


もう動くな、さっさと諦めて楽になれと耳元で囁く死神を振り払い、おぼつかない足取りで仲間の元へと---


「ーーー、ーーー」




ザ、ザザッ、ザーーーーーー


突如、不快な音と共に視界にノイズが走る。その直後、まるで動画をコマ送りにしたように場面が移り変わった。


いつの間に移動したのだろうか、気がついたときには森を抜け、広場の外側に立っていた。視線の先では醜い笑みを浮かべた小さな怪物が、赤髪の少女の顔を鷲掴みにしていた。


至る所が抉れた大地、へし折れ倒れる大木、怪物の体に突き立つ複数の矢。


どれだけの激しい戦いがあったのだろうか、だがしかし結果は明白であった。


足が地面から離れ、宙吊りの体制で暴れる彼女。仲間を失い、武器を失いながらも細い両腕を怪物に叩き続ける。


それでも、


「---!」


必死の健闘も虚しく、最愛の少年への助けの言葉を最後まで発することさえ出来ずに。




彼女は二度と帰らぬ人となった。


伸ばした手が宙を切り、細かく震える。


ーーーなにも、出来なかった。




ザ、ザザッ、ザーーーーーー


再びノイズが走り場面が移り変わる。


気が付いたときには円形の戦場の中心で、もう1人の仲間である金髪の少年を抱き抱えていた。


両腕を失い完全に冷え切り、血に染まった体躯。少し離れたところには、彼のトレードマークであった大剣が突き刺さっている。


その体は鉄製の鎧を纏っていると思えないほどに軽く、今にも命の炎が消えようとしてることは明白であった。


慌てて回復薬を取り出すも、少年に首を振って止められた。


「---」


彼は僅かに言葉を発すると、悔しみを含みながらもそれを感じさせることのない満足げな笑みを浮かべた。


そしてゆっくりと目を閉じ、




少年は二度と帰らぬ人となった。


抱えた両手から感じる重量が無くなり、目の前の現実を否定するかのように細かく震える。


ーーーなにも、出来なかった。




ザ、ザザッ、ザーーーーーー




気付けば、再び仰向けの体制で空を見上げていた。


相変わらず一羽の黒い鳥が滑空している。


先ほどと異なるのは雲一つない晴天。


左腕を失い、動かなくなった己の体を黄金の日差しが差し込む。


暖かいはずの日差しが、何も感じない。


「---」


少年は言い聞かせる。


自分たちは勝ったのだと。


3人の力で怪物を倒したのだと。


幼き頃から憧れ続けた本当の探索者になったのだと。




ザ、ザ......



だが、



ザ、ザザッ.....



それでも、



---仲間の命を犠牲にして、


---大した成果を得ることもなく、


---正しい選択だったとひたすら己に言い聞かせ、


---冒険譚などという綺麗な言葉で蓋をして目を逸らし、




のうのうと生き続けることに、なんの意味があるのだろうか。




ザ、ザザッ、ザーーーーーーーーー













ep.4 学園 開幕




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