表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世怪奇譚  作者: ツチノコ太郎
ep.3 魔女
19/29

19 降臨

互角。


互いに繰り出された拳が衝突し、余波が周囲に及ぶ。


ミシミシと音を立てる2人の拳を起点に大気が揺れる。地面がひび割れ、周囲に氷片が舞った。


満天の星空の下。氷城だけがそびえ立つ広大な氷の大地で、覇王と蛇の2人が死闘を繰り広げていた。


「何笑ってんだよガキ。殺すぞ」


「お前もニヤニヤしてんじゃねえか」


数分間に及ぶ挨拶代わりの殴り合いを中断し、向かい合う2人。互いに息は乱れておらず、ダメージを負っている様子は一切ない。


ぐるぐると右肩を回すアランをじっと見つめた蛇は、笑みを浮かべたままトン、とその場を跳ねて姿をかき消した。


「おっ」


アランの眼前に迫る拳。


それを体を捻って躱したアランは回転し、勢いのまま右足で回し蹴りを繰り出す。


「チッ」


対する蛇は舌打ちをし、右腕を畳んで即座に防御の姿勢をとる。


「ほらよ」


軽い掛け声と共に腕による防御の上から叩き込まれる一撃。とても子供とは思えないほどの重い蹴りによって、蛇が真横に吹き飛び氷の岩へと突っ込んだ。


「……ふぅ」


その場に着地し、一息ついたアラン。


先手を決めたにも関わらず、その視線は吹き飛んでいった蛇を捉えたままであった。


原因は自身の右足。攻撃を仕掛けたはずのそれは不自然に曲がり、青黒く腫れ上がっていた。


回復(ヒール)


視線を向けることなく回復魔法を唱える。


(あの瞬間、右腕で防ぐと同時に左手で俺の足を殴っていた)


当初の想定よりも蛇の戦闘能力が高いことに、思わず期待の笑みを浮かべる。


「ーーー回復魔法まで使えんのかよ。一体何もんだ?ガキ」


ガラガラと音を立てて氷岩が崩れ、蛇が体を起こす。口の端から僅かに血を垂らしながらもその表情は平然としている。


「俺か?そういえば自己紹介がまだだったな。アラン=ウォーカー、覇王だ」


「ふん。覇王ねぇ、大層な肩書じゃねえか」


「はっ、大層かどうかはすぐに分かるさ」


「口の減らねぇガキだな」


蛇は口元の血を拭うとマフラーを解き、袖の広がった漢服を脱ぎ捨てた。ぴっちりとした黒のタンクトップが彼の鋼の肉体を際立たせる。


どさっと服が落ちると同時に、蛇は首を鳴らすと、まるで獣のように低く、四つん這いに構えた。


金色の瞳の中心にある黒い瞳孔がすうっと細くなり、アランを射抜く。


「ちょっとギアあげるぞ。気ぃ抜くと置いてくからな」


「ーーーー」


ひび割れる大地、舞い散る氷片。


数秒前の攻防と同じく直線で突っ込んでくる蛇に対して、カウンターを決めようとしたアラン。


勢いのまま突き出された拳を避けようとし、


「……ッツ!?」


腹部に大きな衝撃を受け、後方に吹き飛んだ。


避けて躱したはずの拳が何故か直撃していたのである。


高速に流れる景色の中、真横になった体を空中で立て直そうとするアランに蛇が追随する。


獣のように地を這い、あっという間に追いつくとさらに姿勢を低くしゃがんだかと思えば、まるでバネのように跳ね上がり真下からアランの体を蹴り上げた。


「ーーー」


直角に打ち上がり、視界がぐるぐると回転する。一方で反撃の隙を与えることなくピッタリと隣に付いていた蛇は、後ろで1つに纏めた桃色の髪をしならせ、足を天に掲げる。


「シャア!」


鋭く吐き出された声と共に振り下ろされた鉄槌は、未だ回転を続けるアランの脇腹に深く突き刺さり、その小さな体を真下に叩き落とした。


弾けるような打撃音。吹き飛ばされたアランは氷の大地を砕き、周囲に煙を上げて沈んでいった。


「覇王か……やっぱ大層な肩書じゃねぇか」


四つん這いで地面に降りた蛇は体を起こし、ため息をつく。


久しぶりの強者との戦いにいつの間にか楽しんでいたのだろう。


仕事でもないただの私闘で、柄にもなく喜びの感情を覚えたのはいつぶりか。


「チッ」


あっけなく終わった戦闘に後ろ髪をひかれつつ、舌打ちを残して教団の奴らを待つために魔導車へと戻ろうと足を踏み出した時、


「……っ!」


鈍い痛みを感じ、思わず足元を見た。


視線を向けた先にはまるで先ほどの意趣返しのように、不自然な方向に折れ曲がった自身の足があった。


(あのガキ……!)


蛇は即座にポケットなら小さな球体を取り出すと、そのまま握りつぶした。


ガラスが割れたような音と共に破片が足首へと落ちていき、触れた箇所が輝く。その間僅か数秒。光が収まった時には足は元通りになっていた。


「おいガキ!舐めたことしてんじゃねえ!さっさとそこから出てこい!」


(この回復薬(ポーション)安くねぇんだぞ!ったく報酬分が減るじゃねえか)


アランに対する恨みの感情とは裏腹に、その表情には笑みが浮かぶ。


続けて反応のないアランに挑発の言葉を投げようとした時、


「ーーー!?」


大きな揺れと共に背後で爆音が鳴り響いた。


振り向いた先には紫色に輝く雷の濁流が城から飛び出し、一直線に空の果てまで伸びていた。


「なんだあれ。雷の魔法か?ふざけた威力だな」


(あの魔女があんな魔法使えるとは思えねぇし、やったのはこのガキの仲間か?もしかしたら教団の奴、やられてるかもしれねぇな)


空を見上げた蛇が興味深そうに考え事をしていると、異変に気が付く。


(揺れが収まらねぇ)


とっくに雷の魔法は空の彼方へ消えているにも関わらず、なおも増していく大地の揺れ。てっきりあの魔法によるものだと思っていたが、どうやら違うらしい。


揺れの発生源は己の真下。自身が蹴り落とした相手が起点であった。


パキパキと指を鳴らした蛇は警戒心を強め、じっと大穴を見つめる。


数秒が経過しやがて揺れが収まると同時に、氷の大穴の中から腕を組んだアランがゆっくりと浮かび上がってきた。衣服はいくつか破れた箇所があるものの、特に流血しておらずダメージを受けている様子は見られない。寧ろ先ほどよりも楽しそうな表情を見せている。


「当たり前のように浮いてんじゃねぇよ。ガキ、お前いくつの魔法適性があるんだ?」


「はははっ。数えたことねぇや」


その曖昧な返答に目を細めた蛇は再び姿勢を低くして構えた。


「まだやるんだろ?」


一方のアランは腕を組んだまま、相変わらず子供とは思えない傲慢な態度で迎え撃つ。


「もちろん。第2ラウンドといこうか」


先に動いたのはまたしても蛇。音もなく助走なしのトップギアでアランの背後に回り込むと、体重を乗せた鋭い膝蹴りを繰り出した。


咄嗟に振り向いたアランは大きく躱そうとしーーー


重い衝撃と共に宙へ弾け飛んだ。


(ーーーまたか。今度こそ避けたつもりなんだけどな)


後ろに一回転し、ぴたりと空中で止まったアランは地上からこちらを見上げる蛇を眺める。


先ほどから感じる違和感。躱したと思った瞬間に、何者かに引っ張られるような感覚を覚えたのだ。


おそらく何らかの能力を使っていることは確実である。


「ククッ。そろそろ気づいたか?俺の能力に」


「ふむ。磁力ーーーいや、違うな」


「俺の異能は引力。対象を己に引きつける単純なものだ。まぁ、ほんのわずかに引っ張るだけだが、戦闘の補助としちゃあ悪くねぇ」


(確かに蛇の言う通り、近接戦闘との組み合わせは厄介だな)


先ほどの戦闘を思い返しながら、アランはゆっくりと地上へ降りながら思案する。


「考え事はもう済んだか?そろそろ決着をつけようぜガキ」


そう言い放つと、蛇は再び獣のように低く構えた。






・・・・・・・・

・・・・・

・・・







時は少し遡り、エリーゼの自室にて。


部屋中の本棚が倒され、綺麗に整理されていた本が散乱している。中心に置かれた天蓋付きの大きなベッドは折れ曲がり、枕や布団は破れ羽毛が舞う。窓側の壁は半壊し、外からの冷たい風が容赦なく流れ込む。至る所が凍っており、激しく争った形跡が見られる。


「ーーーぜェ、ぜェ……」


散らかった部屋で、蛙を想起させる巨女、ゾフィが肩で息をする。視線の向かう先は壁に背を預けて俯くハイエルフ、エリーゼであった。透き通るような白い肌は薄暗く汚れ、細かい切り傷があちこちに刻み込まれている。


やがて呼吸を整えたゾフィは肥大化した腕を元に戻すと下卑た笑みを浮かべた。


「ーーーーはァ、おいエリーゼぇ。そろそろ諦めたらどうだい?今まで抵抗してこなかったじゃねぇか。どうせあのガキにくだらねぇことでも吹き込まれたんだろ」


「……べつに、貴方には関係ない」


壊れた玩具のようにゆっくりと頭を上げたエリーゼは目の前の巨女を睨む。ボロボロの体に反し、その翡翠の瞳からは諦めの様子が見られない。


「ぐふふふふふふ!まだそんな口がきけるのかい!何に縋っているのかは知らないが、あのガキがさっきの一撃でくたばっていなかったとしても時間の問題だぜ。何でかわかるかい?」


エリーゼの脳裏に、蛇の顔が()ぎった。


「アタシが吹っ飛ばした先にいるのは蛇だ!あいつは強いよぉ!高っかい契約金を払わされてるが、たとえA級探索者でさえ片手間で殺っちまうからなぁ」


"蛇"。


私利私欲のために戦わず、あくまで仕事として殺しの依頼を受ける少数精鋭の傭兵集団。幼少から戦闘技術や暗殺技術を叩き込まれ、その過酷さに生きたまま成人を迎えることの出来る割合は1割を下回る。さらに最終試験として残った仲間同士で殺し合いを行い、生き残った数名が晴れて入隊することとなる。


その様子はまさに蠱毒。体のどこかに蛇のタトゥーが入った彼らは人の身でありながら選定者とも渡り合うとまで噂されるが、表舞台に出ることは滅多にない為詳細は不明であった。


「なんで、そんな人がここに……」


「アタシは用心深いからねぇ!確実に目標を達成するためには出資を惜しまないのさ!生憎金はたんまりあるからね」


ゾフィは地面に置かれた針のついた管を拾い上げる。


「それに、さっき出て行ったのは金狼だろ?そっちにはワルダナが向かってる。あいつはバカだが無能じゃねぇ。特に魔法使いにとっては死神に見えるだろうな。そろそろ死体を持って戻ってくるだろうよ」


「エノレア……」


「それとね、長いこと教団にいるが、正直魔王の復活なんてどうでもいいんだよ。アタシが欲しいのは不死の命!それを手に入れるために一番都合のいい居場所が教団ってだけさ」


「お前らハイエルフの魔素がまさに条件の一つ。ただ、かなりの量が必要で、長い時間かかっちまったがそろそろ必要量に達する。つまりお前は用済みってことだよ」


「じゃあもういいでしょ。さっさとどこかに行ってよ……」


「ぐふふふふふふ。足が残るのは困るからね、お前はここで殺す」


ゾフィの巨大がエリーゼを覆う。


その雰囲気と血走った目から、一切冗談ではないことがわかった。


「ーーーそん、な」


自分だけではなく他の2人も無事ではないだろう。もしかしたら既に……。


絶望の未来を思い浮かべ、思わずエリーゼの瞳から一雫の涙が溢れた。


「ようやく諦めたようだねぇ、それじゃあ短い付き合いだったけどお別れだよ」


カエル女は舌なめずりをすると大きな口を開いた。


「お前の残りの魔素、いただきまぁぁぁぁあす!!」


脱力し焦点の合わないエリーゼの様子を満足げに眺めたゾフィは、もはや動かなくなったエリーゼへ針を突き立てようとしーーー


大きな揺れと共に、廊下を紫の光が包み込んだ。


「一体何だい!?」


驚愕に目を見張る。


(ワルダナがしくじった?まさかそんなはずは......)


「まあいい!今はそれよりもこっちだ!!」


緊急事態に焦ったゾフィが再びエリーゼに手を伸ばした瞬間、


バチバチッ、と。


まるでエリーゼを守るように電流がゾフィの体を駆け巡った。


「がぁぁぁぁぁぁぁ!?」


完全に虚をつかれたゾフィは思わず片膝をつく。


「これは……」


見覚えのある雷魔法。あの少年が鍛錬している間に、仲良くなったあの子に見せてもらったもの。


「ーーーエノレア……?」


体を黒く焦がし、煙を上げる巨女を視界に入れながら、エリーゼは小さなお友達の姿を思い浮かべた。


「ぐっ!がぁぁぁぁぁぁぁああーーーなんだこれはぁぁぁぁぁ!?」


未だに身体中に電流の残滓を纏いながらも、ゆっくりとゾフィが立ち上がった。


「ーーーあのくそ狼が余計なことしやがって!!ワルダナは何をしてるんだい!!!」


髪を振り翳して暴れるゾフィの鼻腔を、花のような匂いがくすぐった。



「あら、何やらドブカエルがゲコゲコと騒がしいわね」


コツ、コツと氷の床をヒールが踏み抜く音が響く。


扉の先から姿を現したのは見覚えのない人物。それにも関わらず、エリーゼにはなんとなく心当たりがあった。


「もしかして、あなたがエノレア?」


「ええ、さっきぶりね。エリーゼ」


そう言って微笑む黄金の人狼は、同性であるエリーゼでも思わず見惚れるほどに美しかった。


「まさか、お前がさっきの金狼かい!?人の姿になるなんて聞いたことがない……いや、そんなことよりもワルダナはどうしたんだい。そっちに行ったはずだ!魔法生物のお前にどうこうできる相手じゃないぞ!?」


「うん?ワルダナ……?それってコレのこと?」


「あぁん?ーーーっ!?」


エノレアが放り投げたものはゾフィにとって見覚えのある2つの眼球。


起こり得るはずのない現実に硬直する巨女を無視し、黄金狼は壁に背を預けて座り込むエリーゼの目線に合わせるようにしゃがんだ。


「我は大丈夫よ。エリーゼ、貴方が思い浮かべた未来は来ない」


「でも……」


不安そうに見つめるエリーゼの頬に手を添えて、安心させるように美しい笑みを向ける。


「我は生きてたでしょ?」


「おい!!よそ見するんじゃねぇ!!!」


いつの間にか再び鉱石を散りばめて肥大化した腕を高々と振り上げ、咆哮と共にゾフィが二人へと襲いかかる。


「はぁ……」


氷の魔女と呼ばれ、数々の氷魔法を使うエリーゼでも歯が立たなかったゾフィ渾身のその一撃にも関わらず、


エノレアは振り返ることすらせず、ため息と共に魔法を唱えた。


(ドナー)の牢獄(ゲ・フェングニス)


「!?」


エノレアの後頭部のすぐ近くで拳が急停止する。


息を詰まらせるゾフィの視界に映ったのは、自身を囲う格子状の電流。バチバチと音を立てて流れ続けるそれを目の前に、先ほど受けた痛みを思い出したゾフィは完全に動きを封じられた。


「貴方はそこで大人しくしてなさい。今から面白いものが見れるから」


エリーゼの手を引きすっと立ち上がったエノレアは、スカートのポケットから一つの石を取り出した。虹色の輝きを放つその石を見たゾフィが慌てて叫ぶ。


「おい!それはアタシの万能石じゃねえか!てめぇ宝物庫から盗んできたんだろ!?鍵はどうした!?」


「鍵?元々空いてたわよ」


「そんなわけあるか!あそこはアタシの空間袋と繋がってんだぞ!厳重に管理してたはずだ!」


小さな革製の袋を取り出して喚くカエル女。


しかし、エノレアは本当に心当たりがないという表情でこてん、と首を傾けた。


「本当に知らないわ。我が行った時には既に扉が開いていたもの」


「そんなはずはねぇ!」


雷の牢獄の中で唸るゾフィを放置し、エノレアは半壊した窓際へと進む。その後ろを起き上がったエリーゼがゆっくりと追いかける。


「エノレア?」


「エリーゼ、もう一度言うわ。貴方がさっき思い浮かべた未来は来ないの」


エノレアが見つめる先は、向かい合う2人の人物。


まるで獣のように四つん這いで構える蛇と、なぜか大穴の上に浮かぶ少年の姿であった。


「あれは、浮遊魔法……」


氷魔法など比にならないほどに高難易度の魔法。それをあの少年は完全に操っていた。


「我たちにはあの人がいるもの。なんの心配もいらない」


透き通る声で宣言したエノレアは大きく振りかぶると、虹色に輝く小さな石を少年めがけて投げつけた。


「だって我の主人様は覇王。誰にも負けないわ」


「それって冗談じゃーーー」


そう言おうとしたエリーゼは、言葉を詰まらせた。


真剣な表情を見せるエノレアから、全幅の信頼が伝わってきたからである。


確かに本人もそう言っていた。けれど、その時はくだらないと流していた。


もしそれが、嘘なんかじゃなく本当だったとしたら。


この氷の檻から抜け出して、自由に世界を見て回ることができるのだろうか。


「……」


知らず両手を握りしめたエリーゼは、瞳に光を宿して目の前に広がる光景をじっと見つめた。






・・・・・・・・

・・・・・

・・・






「ようやく俺の能力に気づいたみてぇだが、それでどうするよ?」


冷たい風が吹き抜ける中、蛇は問いかける。


「多少は動けてもそのレベルじゃあ俺には勝てんぞ」


「ははははっ。心配すんなって、もうすぐ解決するからーーーってちょうどほら」


「あ?ーーーっ!」


後ろを指差すアランに釣られて振り返った蛇のすぐ横を高速の物体が横切った。


蛇の視線の先には半壊した城。その中には雷に囲まれたカエル女と、窓際に立つ二人の女の姿があった。


(氷の魔女と、もう一人はさっきの魔法を使ったやつか......あの様子だとあの骨ヤロウは殺られてんな)


「おい蛇」


一瞬で現状を判断した蛇の背後からアランが呼びかける。


「なんだ」


再び振り向いた蛇が目にしたのは、虹色に輝く石を掲げるアランの姿であった。


「退屈させて悪かったな。これでようやく本気でやれる」


エノレアが持ってきた万能石。その効果は対象に付与された呪いの全てを打ち払う。


「だから頼むぜ。すぐにくたばるんじゃねえぞ」


「ーーーへぇ」


獲物を狩るような目を見せる蛇を見据え、アランは万能石を握りつぶした。


「……!!」


その光景を、エリーゼは見た。


膨れ上がる魔力の奔流を。


少年が天に掲げた石を砕いた瞬間、キラキラと輝く虹色の光が包み込んだ。


まるで無数の星が吸い込まれていくかのように彼の元へ収束しーーー


極光が爆ぜた。


恍惚の表情を見せるエノレアも、驚愕するゾフィも、警戒を強める蛇も、そしてエリーゼ自身も凄まじい光に照らされる。


「!?」


それは果たして誰の声か。


巻き起こる凄まじい衝撃と全てを喰らう白光の中、エノレアの防御魔法によって守られるエリーゼは思わず目を閉じた。


「ーーーーー」


数秒後、光の中から出てきたのは先ほどの少年とは全くの別人。


雪のように白い髪と銀色の目をした8頭身程の長身細身の男性。


その身に漆黒の鎧を纏い、濃紺色の外衣を靡かせる姿はまさに御伽噺に出てきた人物そのもの。


さらにはどういう原理か、頭部の僅か上には天使の輪のように白銀の王冠が宙に浮かんでいた。


見覚えのない姿。だがそれでもうっすらと自分が知る彼の面影も残っていた。


「あぁ……ああっ、主人様!!」


先ほどから隣で恍惚の表情を見せるエノレアのことなど気にする余裕もなく、氷の大地に降り立った少年だった人物を見つめる。


「あれが、覇王……」


ゆっくりと氷の大地に降り立った覇王(アラン)はまるで演者のように仰々しく、右手を胸に当て、左手を正面に立つ人物へと伸ばす。


「さあ蛇よ、共に限界を越えて高みへと至ろう」


まるで夜空に浮かぶ星のように、漆黒の鎧に無数に輝く虹色の光を纏いながら、旧時代の王が現世に降臨した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ