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第3話

   

「今にして思えば、最初に思った『なぜか私のポケットに生きた人間の手が入っている』が微妙に間違いだったのよね。二度目に手を入れた時は『ポケットの中の広さもいつも通り』だったわけだから……」

 いったん言葉を区切って、コーヒーに口をつける。

 話の途中で運ばれてきたコーヒーであり、この喫茶店に来るたびに私はこれを頼むのだが、今日はいつもより少し苦く感じた。


「一度目に『ポケット内の空間が続いていた』というのは、和恵のポケットが誰か(ほか)の人のポケットに繋がって、その分二倍の奥行きになったから。それで、その人のポケットの中で相手の手にも触れた……。そう考えてるのよね、和恵は?」

 私が言葉を続けるより早く、智子が口を開いた。こちらに視線を向けることなく、紅茶に入れた砂糖が溶けるのを見つめたままだ。

 観察眼など鈍いところも多い智子だが、頭の回転が速いのも彼女の特徴だった。今日の場合も、少し説明下手な私の話を、正しく理解してくれたようだ。

「そうそう、そんな感じ。ポケット同士が繋がれば、そこから財布を盗むのも簡単よね? 私のコートが泥棒のポケットに繋がるなんて、本当に最悪だわ!」

「そういえば、昔から和恵って……」

 顔を上げた智子は、眉間に皺を寄せて、口元には苦笑いを浮かべている。

「……理系のくせに、オカルトとかファンタジーとか、非科学的な話も信じるタイプだったわね」


「そんな言い方はないでしょう? 頭ごなしに『非科学的だ』って否定するより、何であれ『ありえるかもしれない』と柔軟に考える方が、よっぽど科学的だわ」

「でもねえ……。最初の『ポケットが繋がった』とか『相手の手に触れた』とかが全て和恵の勘違い。ただ単に寝ぼけて夢でも見てただけ、って解釈の方が合理的じゃない? 残った事実としては、普通にお金を()られただけよね?」

 智子の言葉に対して、私は首を横に振ってみせた。

「ううん、それも少し変だわ。お金だけ抜き取って、どこかに(から)の財布は捨てる……みたいな話なら理解できるけど、そうじゃなくて、わざわざ財布を返したことになるでしょう? ほら、やっぱりポケットが繋がって簡単だったからこそ、返すのも手間じゃなかったからこそ返してきたのよ!」

「そこまで和恵が言い張るなら……」

 智子の顔に、悪戯(いたずら)を思いついた子供みたいな笑顔が浮かぶ。

「……その問題のコート、私がもらってもいいかしら? そんな不思議なポケットのついたコートなら、むしろ面白そうだし」

   

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