オワリとハジマリ
「僕が欲しかったものは過去に置いてきちゃったから」
山の奥、木々に囲まれ鬱蒼とした校舎にオレンジ色の淡い夕焼けが儚げな彼女、戌井さんをぼんやりと照らしていた。
いつも元気なクラスのムードメーカー、戌井さんがどこか落ち込んだ様子で窓の外を眺めていたもんだから、クラスの隅っこ端の方にひっそりと息を殺す私でも気になって話しかけてしまった。
「なははっ、何言ってんだろ、わったしー」
戌井さんは時々どこか影がある。
クラスメートと話す戌井さんは笑顔が溢れ、皆を元気づけるかのようなまるで太陽みたいな存在なのだが、どこか一人でいる時は、つまらなさそうな顔をしている。なにかを諦めたかのようなそんな様子を醸し出していた。
「ところで、浅井さん!今日とかこのあと暇?良かったら少しだけ遊ぼっ!」
隅っこ目陰キャ科に属する私には戌井さんは眩しい存在。だけどあんな顔を見てしまった限り、なんかなんとなーく断りづらい、それに憧れな戌井さんと二度と遊ぶことなんて……。
「えっ、あっ……その、う、うん。私なんかで、いいの?」
「うーんうん!浅井さんじゃないとやだっ!えへへ」
いつもの太陽みたいに明るい戌井さんに気づけば戻っていた。冗談なんだろうが、私じゃないとなんて言われた日には眠れそうになさそうだ。
「ほらっ!いこいこー!あっ、知ってる?駅前のたこ焼き屋さん、今年いっぱいで閉店なんだって!」
「えぇっ、やっぱりみんな卒業したら出て行っちゃうからかなぁ?……残念だね」
この時気付くべきだった。
太陽のような明るい戌井さんが、
月のように暗く影のある儚げな理由を。
そうすれば戌井さんはもっと私といてくれたのだろうか?……考えてももう遅い。
自殺した戌井さんはもう帰って来ないのだから。