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親しき仲でも暴走禁止……
お怒りリルシェさんによるキツめのお説教の後、
あのレオタードは一軒家テント内のリルシェさんの自室にて、
返却予定日まで厳重管理されることとなりました。
さらば、希望の光。
……いや、そうじゃない。
そもそも希望とは、パンドラの箱にも残されていたもの。
簡単に諦めてはいけませんよ、俺。
この異世界にレオタードという存在のある限り、
可能性はゼロでは無いのです。
どんなに確率が低いガチャだって、大当たりの可能性はゼロではない、
つまり、希望を捨ててはいけないのですよ。
そう、いつの日かリルシェさんのレオタード姿を拝見出来ることを夢見ながら、
この冒険の旅は続くのです……
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ってか、アレな妄想してる場合じゃねえっての。
新品交換されたとはいえ、
現状『Gふなずし』の信頼性は100%では無いですし、
とっととニルシェ王都に行って安全なお宿を探さねば。
急ぎましょ、リルシェさん。
「その認識は少し違いますよ、ウェイトさん」
「安全なお宿探しは確かに必要」
「でも『Gふなずし』は冒険の必須要素では無く、あくまでもサポートなのです」
「冒険者として真に必要な危険察知や危機回避の能力を磨くのは、他ならぬウェイトさんご自身」
「夢々、お忘れなきように」
……なるほど、確かに。
どうやら俺、便利な高性能魔導具ありきの冒険に慣れ過ぎていたようですね。
これでは冒険者として本来必要な能力が育たないのも道理。
"可愛い子には旅をさせよ"などと申しますが、
可愛いからって甘やかして、
使い放題なカードを持たせてファーストクラスの旅、
そんなのことわざの趣旨にも反しますし。
あー、なんだか嫌なことを思い出しちゃったよ。
エコごり押し派な環境活動家が快適移動手段で世界を啓蒙の旅、
みたいな胡散臭い話し。
あんなのと同じ穴のムジナ扱いされないよう、俺も気を付けないと……
って、脱線してる場合じゃないっての。
それでは、気を引き締めてのぶらり旅、
急ぎましょう、リルシェさん。
「何だかたのもしくなりましたね、ウェイトさん」
「冒険者として伸び盛りなのは大変に結構なのですが、イケてる成長株は注目度アップが必然」
「そのうちに他の召喚者さんたちのようなモテモテモードになっちゃって、いつしかハーレムパーティーまっしぐら……」
いえいえ、そんな心配ご無用ですから。
俺が思うに、ハーレムリーダーには必要な要素がいくつかあるのです。
"周囲の視線を釘付けなイケメンムーブ"
"誰もが納得の無双っぷりを可能とする圧倒的な強さ"
"みんなから頼りにされる大黒柱となるための骨太の甲斐性"
ご存知の通り、そんなの何ひとつ持っていませんよ、俺。
つまりこれからのふたり旅も、
リルシェさんにお世話になりっぱなしってことです。
「はい、そういうことにしておきましょうか」
「それでは気を取り直して、ニルシェ王都目指して出発!」
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そんな感じのふたり旅。
リルシェさんのおみみもしっぽも、
相変わらず元気いっぱい。
でもさ、いつまでもこの旅を続けたいけど、
これって俺が一人前の冒険者になるまでの仮のパーティーなんだよな……
うん、まあいいや。
今が楽しければ。
この先どうなるかなんて俺ごときに分かるわけないし、
だったら今を精一杯楽しんだっていいじゃない。
それって現実逃避じゃない。
だって最近はそこそこ頑張ってるよ、俺。
現実から逃げずに。
こうなりたいっていう未来を目指しているわけでは無く、
今こうしたいからっていう現実のためだけに右往左往しながらも頑張ってる。
だから現実逃避じゃなくて、
あえて言うなら、未来からの逃避。
えーと、我ながらナニ言ってんだかよく分かんなくなってきたけど、
とりあえず頑張れ、俺……
あとがき
何だか考えていた方向とは全然違う展開に。
ウェイトさん、元々の予定とは全く違うキャラと成りつつあります。
対人こじらせ系コミュ障な厭世キャラとしてさらりと登場、
どんな苦境からも(ストーリーが行き詰まりそうな時は)華麗に脱出、
厄介ごと・面倒ごとからは即逃げ上等の投げっぱなし主人公。
のはずだったのですが。
実は、興味があることにはやたらと積極的に動くタイプだったようで、
状況次第では(考え無しな)無鉄砲ムーブも辞さないという、
かなり濃いめで妙にテンション高めな、隠れポジティブ野郎でしたよ。
そもそも当初の予定では、
ウェイト編のタイトルは"逃亡召喚者の◯◯"となるはずだったのですが、
ご覧の通り、第二話で破綻しております。
だって逃げないし……
ウェイトさんには責任を取ってもらうしかないので、
これからも思う存分プチはっちゃけしていただきたい。
つまりは、これからもこんな感じでよろしくお願いします。




