第6話 お礼と冒険者登録
イーワン帝国の帝都、聳え立つ高い城壁に囲まれたその都の中心地には煌びやかな装飾や有名彫刻家が彫り出した彫刻により他の建物とは一線を画した存在感を放っている建物がある。
この国を統治する皇帝が住まう、この国の政治の中心。
その帝城の廊下を1人の男が複数の使用人を引き連れながら足早にある場所へと向かっている。
この男の名前はローウェン・アルメニア・イーワン……この国、イーワン帝国皇帝の継承権第一位を持つ皇子だ。
ローウェンは目的の部屋にたどり着くと、ノックもせずに力強く扉を開ける。
「父上!」
「……ローウェンか。ノックぐらいしないか。無礼だぞ」
この部屋は皇帝の執務室となっており、煌びやかな装飾は少ない、実用的な構造となっている。
この国の皇帝であるエルニクス・アルメニア・イーワンは書類に何かを書き込んでおり、ローウェンの姿を見ずに仕事をこなしている。
「そんなことより、これはどういうことですか!」
ローウェンは足早に近寄り、エルニクスの執務机の上に1枚の紙を叩きつけた。
それはローウェンの直属の部下……暗殺、密偵を得意とした暗部による報告書であった。
「ローズがマギア王国に亡命、それは我々帝宮による暗殺が原因と下民どもが信じきっている!!話が違うではないか!」
「ローズに……というより、王国に先手を打たれた形だな。どうせスペルドア辺境伯の策略だろう」
「盗賊団との連絡も取れていない……!彼奴らに渡した魔道具までも王国に取られたのだぞ!!何を呑気なことを……!」
「落ち着けローウェン。……このことがバレたということはスペルドアの小娘も殺せなかった、ということ。そのことからローズ暗殺が仕組まれていることを見抜いたのだろう」
「だからこそだ!!なぜそこまで落ち着いているのだ!下民どもが帝宮に対して不信感を感じている!せっかく力を削ぎ落とした反乱分子どもが何をするか……!」
「案ずるな」
書類にサインを書き終えたエルニクスは羽ペンを置き、葉巻を取り出して魔術で火をつける。
軽くひと吸いし、口から煙を吐き出す。
「反乱分子どもはどうせ何もできん。ローズを先頭に集まろうにもローズは王国に亡命中。……あのお人好しが内戦を再発させるために戻ってくるか?」
「……うむ、たしかに」
「そもそも、盗賊風情が暗殺に成功するとは微塵も思っていない。計画の範疇だ」
「ならば、ここからどうするのだ?どうやって下民どもを焚きつけるのだ」
「もう手は打っている……勝手に燃え上がってくれるさ。時間が経てばな」
ただ、エルニクスには懸念が一つだけあった。
報告書に書かれた文章に目を向ける。
「盗賊団を1人で壊滅させたエルフの女剣士か……」
その不確定要素はどこまで自分の計画に障害をもたらすのか、それは先見の明を持つエルニクスとて分からなかった。
◇
「すまない、リア殿。大変お待たせした」
「いえいえ〜」
随分と待たされたが、日が暮れる前にはハウルさんは戻ってきた。
先程とは違い、私たちの向かい側のソファに腰を下ろして一息つく。
「お疲れ様ですお父様」
「いや、マリンたちに比べると生死は彷徨っていない。……苦労をかけたな」
「私は問題ありません。……強いて言うなら学校の勉強が追いつくか心配でして」
と苦笑いを浮かべるマリン。
話でちょこちょこ聞いてはいたが、マリンは学生のようだ。
中世のような文化レベルだが学校は存在するみたいだ。マリンみたいなお嬢様がたくさんいるのだろうか、息苦しそう。
「さて、リア殿。もう一度マリンの命を救っていただいたこと、感謝申し上げる。……マリンは妻の忘れ形見だ。リア殿が居なければ……私は妻も娘も亡くしてしまうところだったよ」
マリンの母親はマリンが物心つく前に亡くなっていたらしい。
元々身体が弱かったらしく、マリンを産んで体力が減っているところで流行病に罹り、まもなく亡くなったと聞いている。
すると、机の上に執事の1人が掌サイズの麻袋を置いた。
「これが今回の謝礼金だ。受け取ってもらいたい」
受け取るとずっしりと中が詰まってそうな重さを感じる。恐る恐る開くとそこにはキラキラと輝く大量の金貨が敷き詰められていた。ざっと100枚以上。
ふぁ?
「お、多くないかな……?」
「今回の件はできれば内密にしてもらいたい。国としての対応も定まりきっていないからだ。……あとは個人的なお礼も含めている。気にせず受け取ってほしい」
口止め料も含めているということか。
いやいやいや、それでも気になるって。
こちとら貨幣制度すらないど田舎から出てきた生粋の田舎者だ。それでも、この金貨の量は明らかに多い。大金だということくらいわかってしまう。
というか金貨1枚でどれほど生活できるの?私この国の貨幣価値さっぱりわかりません!
「リアさん、受け取ってください。リアさんは私とサンを救ってくれただけではなく、国同士の戦争も回避してくれたのです」
「いや、でも……」
「お願いです……」
上目遣いやめて!一人っ子だから年下からお願いされるのに慣れてないの!!断れれないの!!
「うぐ……分かったよ……でも、一つ教えて!これだけあればどれくらい生活できるの?まだこの国の物価も何もわからないのに受け取るのは怖い!」
キョトンとした表情をしている親子。
「……確かにリア殿は村を出てから浅かったな。これは失礼した。そうだな……金貨2枚で魔術学院を出た者の月収くらいだな。普通の生活ならしばらく働かずとも生きていけると思う」
魔術学院が何かは分からないが……大卒初任給手取り20万円ってイメージに置き換えると……金貨1枚10万円くらいで……100枚以上だから……1000万円以上!?
「お、多い!!」
「この量を持ち歩くのも大変だろう。そうだな。リア殿は冒険者登録するとマリンから聞いている。冒険者ギルドには銀行としての役割もあるからそれを活用すると良い」
人の話聞いてる?絶対に聞いてないよね?
とは言え、あちらは譲る気はないようなので諦めて受け取ることにする。
……未来の旦那と会えた時のために貯めておこう、うん。そうしよう。旦那様との愛の巣には道場を建ててやる!!……許容してくれる旦那を探さなくては。
それにしてもこの世界には銀行の概念もあるのか。
まぁこの身一つで始めれる冒険者とはいえ、装備を整えたり新しい技術を得るために学んだりと、お金は必要になるだろう。
それを融資や投資するために銀行としての役割を兼ねているのかな。
「一応、聞くが……領地や爵位を王に進言することもできるが」
「いらないです」
「そう言うと思ったよ」
何が悲しくて領地経営や貴族として生きなければならないのだ。
私からしたらそれはお礼ではなくて罰ゲームに近いぞ?私は剣が振りたいのだ。爵位や領地は剣を振るのに必要ない。
「リア殿、それとこれを」
「……ん?なにこれ?」
ハウルさんは私に新たに一枚の金貨のようなものを渡す。
しかし、先ほど見たこの国の金貨とは少し違うようだ。大きさも彫られている絵も異なる。
「これはスペルドア家の紋章が彫られた、正式な証紋だ。どうやらリア殿は面倒事に巻き込まれやすい体質と見られる。困ったことがあったらこれを見せれば解決するだろう」
つまり、スペルドア家が後ろ盾になってくれるということか。
確かに村を出て半月も経ってないのに国家間のトラブルに巻き込まれた身だ。今後どんなことがあるか……考えただけでも恐ろしい。
トラブル体質だとは思ったことないが、後ろ盾があるに越したことはない。
「身分の証明にもなる。自分で言うのもアレだが、私……スペルドア家は公爵家、侯爵家に次ぐ権力を持っている。他の領地でも問題なく使えるだろう。是非とも受け取ってほしい」
「リアさんも動きやすくなると思います。……リアさんなら大丈夫かと思いますが、とくにエルフ族は色々と狙われやすいので」
そうなの?エルフ族って狙われやすいの?
新たな事実に衝撃を受けてしまったが、狙われたら狙われたで斬ればいいか。
「そういうことならありがたく受け取らせてもらうよ。……じゃあ、そろそろ私はお暇しようかな」
これ以上ここに拘束されるわけにもいかない。
やりたいこと、しないといけないことは山積みなのだ。
日本刀のような武器を探したり、冒険者登録や手持ちにあるレッドボアの牙だって換金しておきたい。
も、もちろん婚約者も探すつもりはある……いつになるかは分からないが。
「門までお送りいたします!」
「ありがとうマリン」
マリンたちに送られて門の前まで移動する。
流石というか、やはり領主邸から門まで馬車で移動。デカすぎると思うんですよね。不便じゃないのかな?
そんなことを考えていると、ようやく外に出れる。
もうすぐ日が落ちる。今日は宿をとって、明日から色々しないとなぁ。
「リアさん……私は普段、王都の学園寮で生活してます!もし、来られることがあったら是非来てください……!いつでもお待ちしてます!」
「分かったよ。10年経たないうちに顔を見に来るよ」
「そ、それではもう卒業しちゃいますよ……」
「あ、そっか。……ま、気が向いたら、ね?マリンの寿命が尽きる前には絶対に会いに行くよ。安心して」
少し寂しそうな表情を浮かべるマリン。
エルフは長寿だ。それこそ、人族の人生10回分は軽く生きる。
「エルフの感覚では仕方ないさ。気長に待ちなさい、マリン」
「……はい、お父様……リアさん!絶対、絶対に私が死ぬ前には会いに来てくださいね!」
「もちろん。リアもちゃんと私の旦那様候補探しておいてね。条件は前にも言った通り、私より強い男だから間違えないでね?」
「そ、それは難しいかも……い、いや!期待しててください!」
「あはは、期待して待っとくよ。……じゃあ、バイバイ」
私は手を振りながら事前に教えてもらった街の方へ向かう。
「本当にありがとうございました!!また!会いましょう!お元気で!!」
私は振り向かず手を上げる。歩みは止めない。
長い寿命の中で人族との関わりはできれば少なくありたい。
次マリンと会う時はもう立派な大人の女性になっているだろう。その次会うときにはお婆ちゃんになっているかもしれない。
人族の寿命はエルフの感覚では短すぎる。
親しい人が多ければ多いほど、別れが辛くなる。これくらい軽い気持ちで接していないと、本当の別れがつらくなってしまうから。
◇
「すまねぇな嬢ちゃん、満室なんだ」
「ごめんなさいねぇ、満室なのよ〜」
「ごめんなさいお姉さん!満室なんだ!」
なんてこった。
スペルドア領主邸を離れて町の中心部を目指して歩き、通行人に宿の場所を聞いては訪れ、聞いては訪れをして1時間と少し。
入る宿全てが満室となっており、撃沈してしまった。
「なんで……いや、遅かったの悪いけどさ……」
外はもうすでに暗く、魔道具による街灯があるおかげか、街の人通りはまだかなり多い。だからこそまだ宿くらい空いているだろうと油断してしまった。
「お姉さん、タイミングが悪かったかなぁ。たぶんどこの宿屋もいっぱいだよ」
受付の前でがっくりと肩を落としていると、苦笑いを浮かべながら受付の若いお姉さんが私にそう言う。
「えぇ……マジか。いつもこんなわけじゃないの?」
言い方を考えるとどうやら何かしらの理由で街に人が溢れかえっているようだ。
「そうよ。今、帝国の皇女殿下がスペルに来ててね。帰国の凱旋を一目見ようと大勢の人が来てるの。でも何か問題があったみたいで、帰国が延期してて……せっかく来たんだから待つか観光して帰るって人が多いみたい」
「なるほどね……」
どうやらあの皇女様……たしか、ローズ殿下だっけ?その人を見るために人が集まっているが、帰国予定が延びて人が溢れかえっていると……。
「皇女殿下って帝国では聖女って呼ばれてるくらい気品があって、綺麗だと思うんですよ〜」
ホワホワとした表情で皇女様の姿を想像している受付のお姉さん。
平民からすればやはり皇女様は憧れのようなものなのだろう。……実際は実の父親から暗殺されそうになっている。現実は理想とは違う、なんてことは口が裂けても言えない。
「お姉さん、ちなみにこの辺に野宿してもいい場所ってある?」
街に来てまでまさか野宿する羽目になろうとは一切思わなかったが仕方ない。
お金はあるのに泊まれない……悲しいかな。
とは言え、今更スペルドア家に戻って「やっぱり泊めてくださーい!」なんて今更言えるわけがない。
あんだけカッコつけて出ていったのにダサすぎる。
「いやいや!流石に女の子1人で街中に野宿は危ないって!……うーん、そうだなぁ」
魔物が出ないから街中の方が安全じゃない?とか思うが、女子1人で野宿は流石に危険か。
私は大丈夫だけど、変な男が寄ってきても嫌だなぁ。ま、斬ればいいか!
なんてことを考えていると何かを思い出したかのように受付のお姉さんは提案してくれた。
「あっ、そうだ。冒険者ギルドに行ってみたら?この混雑なら冒険者の人たちも困ってると思うから、簡易宿泊所が開放されてるかも!」
「ほぅ。それは良いこと聞いたよ。ありがとう」
冒険者ギルドの位置を軽く教えてもらい、宿を後にする。
お姉さん曰く、冒険者というのは結構根無し草なことが多いらしい。
依頼や移動で動き回るから一定の街に止まることは少なく、野宿も多い。そうなれば家は持たず宿屋に連泊……なんてのは普通のようだ。
街に集まってきた冒険者がこういった行事や偶発的なイベントに左右されて泊まる場所がなくなってしまうなんてことは日常的らしく、普段は開放していないギルド付属の簡易宿泊施設に泊まったりするとのこと。
親切なサービスがあるもんだ……と思ったが親切心ではないらしい。
冒険者は荒くれ者が多く、集まった荒くれ共が街中で野宿……なんてしたら治安の悪化や揉め事なんてものは当たり前のように起きる。
そうなれば地域住民や衛兵からのクレームはもちろんなこと、挙げ句の果てには監督責任として領主や国からギルドに対して罰金などもあったりするらしい。
体裁と言い訳を兼ねた簡易宿泊施設だとか。
泊まれる場所用意したのに泊まらない冒険者個人の責任です!ギルドは関係ない!ということだろう。
とはいえ、どこまで行っても簡易宿泊所……個室とかではなく、男女別になってるだけで雑魚寝が基本だとか。男女別は普通にありがたいけどね。
「屋根があるだけマシと思わねば……っと、ここか」
見た目は少し大きめな普通の木造二階建ての建物。表に冒険者ギルドスペル支部と書かれている看板が貼り付けてあるだけで、特に目立った点はない。
「たのもー」
なんとなくこういう場所にはこうやって入るのが礼儀なのではないか、と思いながら少し強めに扉を開く。
中に入った瞬間、すっごい量の視線が私に集まった。
入り方は間違えてるみたいだ。次からは普通に入ろう。
中は意外と殺風景で、正面の受付、奥には薬や冒険に使いそうな雑貨類が置いてある店のようなものもある。
両サイドの壁には沢山の書類のようなものが貼られており、それを物色している人もそこそこいる。
とにかく受付に行くか。
ギルドへの登録なんかもついでにしとこうと思いながら受付に向かって歩く。
漫画やアニメだとここで絡まれるのがお約束みたいなものだが、私のことをチラチラ見るだけで他の冒険者は話しかけようとはしてこない。
「らっしゃい。依頼かい?」
受付にはなんとも素晴らしい筋肉に包まれ、今にもはち切れそうなシャツを軋ませている2メートルはあろう巨体に、目元にある大きな傷で顔の厳つさを倍増させている禿げ……スキンヘッドのおじさんが立っていた。
「受付と言ったら綺麗なお姉さんじゃないのか」
「わりぃなおっさんで。受付に可愛い女の子おいたら冒険者に絡まれんだよ」
なるほど、確かにその通りだ。
でもここまで厳ついおっさんじゃなくても良い気がするが……気にしないておこう。この世界の流儀だと言うことで。
「んで、何の用だ嬢ちゃん。護衛依頼なら場所によるが相場は銀貨10枚だ。採取依頼なら何を採取してほしいか教えてくれ」
「ん?いや、依頼じゃないよ。冒険者登録をお願いしたいんだ」
「……嬢ちゃんがか?」
「うん」
話に聞く限り冒険者とやらは腕っ節に自信があったり、戦闘系魔術を得意とする人がなることが多いらしい。
私を見る限り依頼をしにきたと思っても仕方ないか。可憐な乙女だし。
「……確かに、俺じゃ手も足も出なさそうだ。よし、これに必要事項を記入してくれ」
私をじっくりと観察した後、何かを感じ取ったのか、少し納得のした表情を浮かべたおっさん。
可憐な乙女なんだから止めても良いじゃないかと思ったがなんか納得してくれたみたいだし、面倒な手間は省けたからいっか。
するとおっさんは受付の下から一枚の紙を取り出して私に渡してくる。
登録用紙のようで色々と項目を記入しないといけないみたいだ。
項目は以下の通り。
・名前
・年齢
・種族
・出身地
・扱う武器
・扱う魔術
・優先依頼
・非優先依頼
と意外と書くことが多い。
「代筆も可能だが……大丈夫か?」
「うん。問題ないけど……この優先依頼と非優先依頼ってのは?」
「それは紹介してほしい依頼として欲しくない依頼だ。俺ら冒険者ギルドの主な仕事は依頼の斡旋だ。基本的にはあそこに貼られてる依頼から選ぶのが基本だが……」
そう言っておっさんは両サイドの壁にある掲示板を指差す。
「ギルドからやってほしい依頼を直接言うこともある。……ま、言葉を濁して言ってるだけだ。要は得意分野を書いてくれれば良い」
なるほど。
おっさん曰く、依頼を効率的に消化するためのシステムだとか。
得意不得意と書くとプライドが高い一部の冒険者が素直に書かないことがあるので優先、非優先と表現しているらしい。
「ちなみにどんな感じに分類されるの?」
「細かい分類は決まってないな。大まかに分けると魔物討伐、採取、護衛の3種類だ。魔術が得意なヤツには家庭教師や生産業の手伝いなんかもあるぞ」
「ほへぇ」
「……分かってるか?でもあまり気にしなくても良い。最初は指名依頼なんてこないし、指名依頼は難易度も高いからな」
誰も依頼を受けてくれない漬け物依頼に対して行う緊急処置のための保険みたいなものらしい。
誰も手を出したがらない依頼は総じて難易度が高いので指名依頼へと送り込まれるという形だとか。
そのため、その冒険者の得意不得意を把握するために記入させているというわけか。
「ランクみたいのはあるの?」
用紙に必要事項を書き込みながらおっさんに気になることを聞いていく。
「あるぞ。冒険者の区分は下から初級、4から1級、特級と6段階に別れてる。依頼によってはそのランクに適してないなら受けれない。だが特級は……名誉称号みたいなもんだ」
「名誉称号?」
「あぁ。特級資格は貴族が冒険者になったときに与えられるランクだ。それだけ言えばわかるだろ?」
「あー……」
つまり、特級資格は貴族のお遊びに対する名誉勲章みたいなものか。
誰でもなれる冒険者に興味本位や遊びで登録する貴族は存在するだろう。
だが、貴族という人種はプライドが高いことが多い。そんな貴族様が平民と同じ位に立つなんてことは許さないだろう。
おっさんの表情を見ると大体わかる。たぶん、相当苦労している。
「一応、特級には無制限の依頼受注とどんな依頼でも受けれるっていう特別仕様だが……残念ながら誰もこの制度を有意義に使ったことはない」
うっわぁ。
「基本的には初級から1級までの5段階だ。たまーに偉業を成し遂げて特級資格まで昇り詰める猛者がいるけど、それはつまり爵位を貰うってことだから冒険者の仕事はしなくなる」
「え?冒険者でも爵位貰えるんだ」
「あぁ。ごく稀だがな。相当な功績……どデカい魔鉱石の鉱脈見つけるとか、戦争で多大な功績を残すとかだ。もはや冒険者は関係ない功績だ」
そこまでくると冒険者は関係ないのはその通りだな。
戦争になれば徴兵に紛れ込むか衛兵に名乗り出れば良いだけだし、魔鉱石の鉱脈探しなんてそれこそ気になる場所を掘れば良いだけ。
それに爵位をもらってもその代限りの名誉爵位なので子供にも受け継がせることはできないとのこと。
メリットとしては貴族年金が支給されたり、税金の控除などがあるらしい。根なし草の冒険者にはあまり関係ないか。
「よし、書けたよ」
「おう……嬢ちゃん、剣士なんだな」
「うん」
内容としては剣を使い、魔術は使わない。
魔力纏の副効果に身体能力の向上があるがあくまでそれは基本的な技術の一つだし、戦闘には魔術は使わないので間違いではないだろう。
優先依頼は魔物討伐、採取、護衛。
非優先依頼には盗賊討伐と書いておいた。
「護衛はやるのに盗賊討伐はしないのか?」
「自分からは倒しに行きたくないかな。……面倒だし」
盗賊退治は経験済みだからこその考えだ。
飛んでいった首を拾うのって結構大変なんだよね。
向こうから攻撃してきたら仕方ないけど、こっちからわざわざ倒しに行こうってのは面倒くさい。
「そうか。探すの大変だもんな。わかるぜ」
「そうそう。どっか飛んでいくし」
「飛んでいく……?まぁ、そうだな」
首を探す大変さはおっさんも理解してくれた。
……なんか噛み合わない気がするが気にしない気にしない。
そんな雑談をしていると職員記入欄を書き終わったおっさんがテーブルの上に魔術式が書き込まれた板のようなものを取り出してくる。
「ここに手を当てて、魔力を流してもらえるか?」
「……?わかった」
手のひらを板に乗せて魔力を流す。
魔術式が光ると、手を離すよう言われる。
「これは?」
「ギルドカードに嬢ちゃんの魔力を保存するのさ。ほれ、できた」
光った魔術式の上に1枚のカードを上に置くと光は消え、おっさんはそのカードを私に渡してくる。
「ギルドカードだ。身分証明にもなるカードだ。この国にはないが国によっては身分を証明しないと入国させてくれない場所もある。無くすなよ。無くしたら再発行に金貨1枚かかる上に登録したギルド支部でしか再発行できないから気をつけろよ」
冒険者ギルドは世界中にあるから身分証明を発行する国際的な機関としても機能を果たしているらしい。
意外と信頼が厚い大企業なんだな。
仕組みとしては結構単純で、このギルドカードは縁に魔鉱石が加工して付けられており、魔道具の一種とのこと。
冒険者ギルドで魔力をギルドカードに登録して、身分を確認する際には本人の魔力とギルドカードに登録された魔力を照らし合わせて確認を取るらしい。指紋みたいなもんか。
ちなみに再発行に金貨1枚とはぼったくりじゃないか、と思ったがおっさん曰く、不正登録や偽造防止のため。登録したギルド支部でしか再発行できないのもそのためだとか。
「登録料に銀貨2枚だ」
「金取るのか」
「当たり前だ。慈善事業じゃねぇんだぞ」
そりゃそうか。
私は荷物から先ほどハウルさんから貰った金貨を取り出そうとするが、やめておいた。
一から全てを始める前提で村を追い出されたのに偶然稼いだこのお金を使うのは少し違うと思ったからだ。
「ねぇ、魔物の素材の買取ってしてくれる?」
「魔物素材があるのか?大丈夫だぞ」
私は道中狩ったレッドボアの牙を取り出してテーブルの上に置く。
「レッドボアの牙か。全部で……16本。状態も良い。全部で銀貨4枚だ。全部売るか?」
「うんお願い」
レッドボアの牙が16本で銀貨4枚ということは1本当たり銅貨2枚と鉄貨5枚。
ってことはもし入国税を払うことになっていれば……レッドボア1匹に対して牙は2本生えてるから……銀貨5枚払うのにレッドボアを追加でもう1匹狩らないと入れなかったってことか。
あの辺は平原が続いてて魔物が少ないし、遠出する費用も考えるとマリンを助けてて本当によかった。
冒険者登録に何週間もかかるところだったぜ。
「肉や皮はないのか?あったらプラスで買い取れるが」
「いやぁ、旅の途中に出てきた奴らを狩っただけだから埋めてきちゃった」
「それなら仕方ないか」
肉と皮も持ってきたかったが、残念ながらどれくらいかかる旅か分からなかったので埋めてきたのだ。
「あ、あとお金を預けても良い?」
「良いが……そこから払えば……って、なんだこりゃ」
お金が入った麻袋をおっさんに手渡して中身を確認したところで動揺を隠せなかったのか唖然としていた。
そりゃ金貨が100枚以上入ってるのをポンっと渡してきたらびびるか。私でもびびる。
「えーっと……金貨120枚だな。田舎もんかと思ったがどうしたんだこんな大金」
120枚も入ってたのか。こんな金額をさらっと出すってところがさすが貴族様って感じだ。もうマリンに足を向けて寝れなくなっちゃう。
「ま、ちょっと人助けしたらこうなってね。使う気はあんまりないから預けておこうかなって」
「ちょっとの人助けで貰える量じゃねぇと思うが……ちなみに冒険者ギルドには金利なんてもんはねぇぞ?面倒だがこれだけの金額なら商人ギルドに預ければ金利が付くぞ」
「金利システムまであるのか……まぁ、気にしないよ。面倒だし」
「そうか」
しかし、たまに前世のようなシステムや発明品を見かける。
マリンが言っていた勇者召喚とやらが影響しているのだろうか。
実際、この世界にはコンパスもあれば時計や太陽暦だって存在する。
地球と星が違うのになんで太陽暦を採用しちゃったのだろうか。まぁそこそこ似ているから問題は今のところないんだけどさ。
「よし、ギルドカードに情報を登録するから貸してくれ」
「ほい」
ギルドカードを渡して先ほどとは違う魔術式が書かれた板に乗せて魔術を発動させるおっさん。
このギルドカードはキャッシュカードの役割もあるのか。マジで無くせないぞ。
「本人でしか引き出せないから安心しろ。ただ、マギア王国外だと引き出せないから気をつけるんだな」
それは安心。
「王国外は引き出せないの?」
「通貨が違う上に税金もかかるからな。国外に出るときはある程度引き出してからその国の関所で両替するんだな」
異世界だから気にしていなかったが当たり前か。
言語は同じとは言え通貨は統治している国によって変わる上に物価も変わる。
円安ドル高みたいな現象もあるのだろうか。いざという時に備えて安定性が高い国の貨幣を集めておくのも重要かもしれない。
「あ、ちなみに簡易宿泊所って開いてる?」
「ん?あぁ、開いてるぞ。それも目当てか」
「うん。宿が空いてなくてねぇ」
「2階に上がって受付にギルドカードを見せれば案内してくれる。他に聞きたいことはあるか?」
「いや、大丈夫!分からなかったらまた聞く!ありがとね!」
「お、おう」
ようやく寝泊まりする場所は見つけれた。随分と時間がかかってしまった。
晩御飯は……非常食の干し肉で我慢するか。異世界ご飯はまた明日にしておこう。今日は流石に疲れた……。
裏設定的な補足説明的なやつ
リアは物価が上がったと勘違いしているが実際はそこまで変わっていない。
貨幣として使われている金は値段が下がることがないことが原因。
ただ入国税が倍になっただけ。帝国との関係悪化と新皇帝即位が関係している。
リアの異世界転生系の知識について。
前世ではサブカルチャーには全く触れてこなかったが、教室ではぼっちを貫いていたので机に突っ伏してクラス中の色んな人の会話を盗み聞きしている。
剣が振れないのでそれしかやることがなかった。勉強はしなかった。




