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剣姫エルフの異世界放浪記  作者: へいほー
3/11

第2話 初めての外は危険がいっぱい






「マジ森。ガチ森」


翌日。

朝日が登ると同時に私はいつの間にか纏められていた荷物を渡され、村の外へと追い出された。

村を離れていく時に村の中から同年代の男たちの歓喜の声が聞こえてきた気がしたが……何かいいことでもあったのだろうか?


感動の別れも何もないあまりにも早いお別れだった。

まぁエルフにとって別れというのはそこまで気にすることではないのかもしれない。長生きしていればまた会えるわけだし。


とにかく私はなんとなく教えられた方角を渡されたコンパスを頼りに森の中を彷徨っている。


てかコンパスなんて便利アイテムがこの世界にもあるとは。

森の中を迷い続けて餓死、という最悪の展開だけは避けられそうだ。


手持ちには今後必要な非常食と衣服が数点、腰には父から餞別としてもらった鉄剣が一本。

まさに必要最低限の荷物しか持たされていない。


まぁ長時間……というか何十年、何百年かかるかわからない旅に出るのだ。身軽にしなければならないのは仕方ないか。


「んにしてもマジで森しかない」


見渡す限り森しかない。どこを見ても木、木、木。

村を出てもう数時間になるが人の気配どころか森が途切れる気配すら感じない。この調子だと数日は森に野宿するハメになる。


「素振りしたいけど……早く森でないと……非常食切れたらマジ死活問題」


水に関しては魔術で生成できる。自分の魔力で水分補給……できるが、自給自足なんだから総量変わらんくね?まさか無限に喉乾く?って思った。


まぁ結果としては杞憂だった。

とは言え魔力の回復量は少し減っている気がする。変換効率は悪くはないが流石に水分だけ無限ループ!とはいかないようだ。


「『獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす』とはいうけど、まさか樹海に放り投げられるとは思わなかったなぁ」


良い言い方をすれば可愛い子には旅をさせよって感じかもしれないが、これは遭難に近い。いや、コンパスあるから遭難はしていないけど現在位置分からないから遭難一歩手前って感じか。


なんとなく母からもらった羊皮紙でできた地図を開き、トボトボと歩く。


「えーっと、この先にあるのはマギア王国。人族の中ではそれなりに栄えてる国」


地図の端の方には母の手書きで『50年前の情報だから注意!』と可愛らしい書体で書いてある。

どうやら最近(と言って良いのかはよくわからない)嫁を見つけて帰ってきた村人が持って帰ってきた地図らしい。

最近は帝国のきな臭い動きもなかったので地図の更新はこれが最新だとか。

長寿種族ならではの弊害がここにきて出てるよ。

なんでこんな閉鎖的な場所に村を作ったんだか……。


「ま、深く考えても仕方ないか」


あの村を作ったのは長老たち世代のもうひとつ前の世代らしい。つまり何千年も前の世代だ。

前世の人類史全部遡れちゃうよ。

そんなの考えるだけ無駄ということだ。


「お母さん、良いこと書いてるじゃん」


地図の他にも別の羊皮紙が付属でついてきていた。

そのメモ書きによると、マギア王国は魔術が発展しているらしく、様々な分野での魔術革新が起きて国力をつけて行った国らしい。

ただし50年前の情報でもしかしたらもう無いかも?とか書かれていたが都合の悪いことからは今は目を逸らしておこう。


そのメモ用紙によるとマギア王国は貴族制の封建社会。

この森を抜けた先にはあるのはスペルドア辺境伯の領地になるという。

読み進めていくとめんどくさい情報もそれなりに出てくる。


「はぁ?入国には入国税が必要?お金なんてないよ?」


エルフの村には貨幣制度なんてものは存在しない。全て物々交換となっている。

一応、各家庭や村長の家に隠し財産があり、農作物が不作の際はそれを使って人族の国へ買いにいく手筈になっていたらしい。150年生きてきてそんなことは一度もなかったが。


メモによるとどれだけお金がかかるかは不明。

まぁ時が経てば物価や通貨価値なんてコロコロ変わる。前世の日本ですら数十年で物価は倍近く上がっているのだ。

経済状況がわからない国の物価なんてわかるかとメモ書きには書かれていた。


「んーっと、物価はわからないけどこの森周辺に出てくるレッドボアの牙があればどの時代でも大抵入れた?」


なんとも曖昧な情報。

まぁとにかく物々交換はしてくれるらしく、魔物の素材を関所で売って金にしろとのこと。

50年前の物価指数も書かれてはいたがまぁ当てにはしないほうがいいだろう。

とにかく面倒ごとは避けたい。魔物相手に私の剣術が通用するかはわからないが遭遇したら狩っておきたい。


色んなことを考えながら歩いてはいたが警戒は怠っていなかった。

前世でぼーっと歩くことは死んでしまうほど危険だということを痛いほど……というか命を賭して学んだのだから油断はしていない。


だからこそ、うっすらと気配を感じることができた。


「……ほぅ、これが魔物ね」


生き物の気配。獣臭、草木を押し開く音。呼吸音、足音。

静かな森の中ならば感じ取ることは容易であった。


羊皮紙をカバンの中にしまい込み、腰につけていた剣の柄に手を添え、立ち止まる。


「…………」


まだ場所を明白には感知できてはいない。

とはいえある程度の方向はわかる。

警戒レベルを引き上げながら、その方向へ視線を向けて目視で場所を確認する。


「異世界ではじめての魔物討伐……ワクワクしてきちゃった」


思わず笑みがこぼれてしまう。


殺気とまでは行かないが明確な敵意は感じる。

だが、命の危険を感じるほどの圧力は感じられない。


前世では私の剣術が……『神鳴流(しんめいりゅう)』が表舞台に出ることはなかった。

殺人を前提としている剣術が法整備された現代社会で表舞台に出ることはないのは仕方がないだろう。

お師匠のお師匠は第二次世界大戦の時に米兵を圧倒していたとは聞いていたがそれこそ何十年も前の話。


とにかく私はこの剣術を生き物相手に使ったことはない。


使う相手がいなかった。使う機会がなかった。


だが今は違う。

人相手ではないが、魔物相手に使うことは何も問題はない。

それが少し嬉しいのだ。


集中力を限界まで高めていく。

風の音が消え、小鳥の囀りさえも消えて、世界は私中心へとなっていく。


この瞬間が私はたまらなく好きだ。

斬ることだけに、意識の全てを注ぎ込む。

そうして使うことができる技が成功した時の、イメージ通りに行った時の達成感は私の心を満たしてくれる。


ガサッ


茂みをかき分ける音が聞こえる。

同時に赤い毛並みをした2メートルはあろう巨体が茂みから飛び出してくる。


大きな牙に、私の倍はある体躯。赤い毛並みはまるで幾千の獣を狩り尽くして染み付いた血液のようにも見える。


でも、遅い。


いつか見た雷鳴のようなお師匠の動きに比べれば遠く及ばないただの動物の動き。

獣の突進はいかにも殺してくれと言わんばかりの単純なものだった。


「――――ッシ」


鋭く息を吐き、剣を抜刀する。

どんな生物であれ首を切ってしまえば生きることはできない。


単調な動きに動きを合わせ、的確に急所を狙う。刃が獣の肉を削ぎ落とそうと鋭く光るがバチッと音が鳴り弾かれてしまった。


「――――お」


体勢を崩されかけたがそこまで柔な鍛え方はしていない。

すぐさま受け身を取り、同時に通り過ぎた獣との距離をとる。


「あー、魔力か」


この世界の生物は皆、魔力を纏っている。

魔力には一種の斥力のような反射作用が備わっており、物体や魔術を遮る一種の防具のような役割をしているのだ。

普通の獣ならば纏っている魔力は薄く、弓矢ですら倒すことができる。

だが、稀に空気中に漂う魔素を過剰に取り込み、自身を強化し続ける獣がいる。


この世界の住民はその獣のことを魔物、と呼んでいるのだ。


魔力を多く取り込んだ獣は凶暴性を増し、ありとあらゆる身体能力を向上させ、骨格や牙の巨大化などありとあらゆる恩恵を得る。


この獣……レッドボアは魔力により変異してしまった猪の魔物というわけだ。


「魔力に対抗するには魔力をっと」


私は自身の纏っている魔力を剣の刃に沿わせるように纏わせていく。

この世界の魔物への対処法はこれを含めた2種類。

近接武器や投擲武器に自身の魔力を纏わせ、相手の魔力と中和し、無力化させる方法。

あともう一つは相手を上回る魔力の質での攻撃魔術となる。


残念なことに私には攻撃魔術は使えない。いや、使えないことはないのだが結構難しい魔術式を脳内や魔力で作った魔法陣で構築し、行使する必要があるのだ。

私はそんなことするなら剣を振った方が早いから剣を振るう。剣が好きというのもあるが。


「さてさて……次は外さないぞ」


レッドボアは足踏みを何回もして突進するタイミングを見計らっている。

一瞬の間、世界が静寂へと包まれる。


レッドボアが大地を蹴り出し、突進を始めた瞬間に私も同時に大地を蹴り出す。


「よっと」


空気を切り裂く音が後から聞こえ、レッドボアは私が通り過ぎたと同時に鮮血を噴き出しながら地面にそのままの勢いで倒れ込んだ。


「初戦闘としては上出来かな」


首を切り裂かれたレッドボアは徐々に瞳孔が開いていき、荒い吐息は徐々に小さくなり絶命した。


この世界に魔物に対する敬意があるかは分からないが彼は確実に私の糧となる。

そのことに感謝の念を伝えながら私は手を合わせる。


「ありがとう。……そしていただきます」


まぁメインは魔物の肉だ。

非常食はあるとはいえできれば温存したい。


この世界では魔物肉は結構一般的であり、強い魔物ほど美味いと父は言っていた。

取り込んでいる魔素量が多ければ多いほど美味いらしい。

どういう理屈かはよくわからないが、我々の舌には魔力を感じ取る味覚があるらしくそれが旨味となって感じるとかなんとか。


「内臓系は捨てちゃおうか。流石に寄生虫とか怖いし」


この世界にどんな寄生虫が居るかわかったもんじゃない。リスク管理はしっかりとしないと。


鉄臭い血の香りを我慢しながら水魔術を駆使して血抜きをしていく。


「噴出口を小さくして血管内に入れてっと、放水……だったっけ?」


父の手伝いで獣の解体方法はある程度の学んでいる。

とは言え何十年も前の記憶を呼び起こしながらの作業は少し時間がかかり、必要な肉と換金用の牙を手に入れる頃には陽は落ち始め、あたりは薄暗くなり始めていた。


血の匂いで別の獣が寄ってくる前に残った死体を軽く埋め、少し距離を取った場所で野営をすることに。

ギリギリ地面が見えるくらいの暗さまで落ちたところで崖下にわずかな窪みを見つけてそこを今日の野営地とした。


前世ならば火をつけるのは明るいうちにしなければ危険だが、この世界なら火付け魔術で1発。

ほんと便利な世の中だ。


「ふんふーん♪」


大した調味料はなく、質素な味付けとなるが致し方ない。軽く塩をまぶし、その辺で拾った木の棒に肉を突き刺して焚き火の遠火でじっくりと火を通す。


「いただきます」


しっかりと焼けたことを確認して軽く息を吹き熱を取ったら豪快にかぶりつく。


「んー!おいし」


人生初めての狩りで初めての魔物との戦闘だったが反省点はあった。

まず、首を裂く位置が悪かった。今回は持ち出せてはないが毛皮も重要な資金源となる可能性は高い。

もっと的確に急所を斬れていれば質の良い毛皮が取れそうだ。

あと、最初に魔力を纏わせなかったのとだめだ。

今回はあの程度の魔物だったから試してしまったが、もっと危険な魔物ならあの一撃で剣が折れていたかもしれない。


刀を折るのは剣士の恥。刀を折ったら孫とはいえ折るぞ。


お師匠に耳にタコができるほど何度も言われていた。

何を折るのか怖くて一度も聞けたことがなかったが、とにかく次からは常に魔力を纏わせた状態で戦うことにしよう。


刀折る、ダメ、絶対。


だがいつまでも鉄剣というのも如何なものか。

できれば日本刀がほしい。……この世界にあるかは不明だが探すことも今回の旅の目的に加えておこう。


「……婚約者かぁ」


旅の目的ついでに思い出してしまったことを憂鬱に考えながら私は私は深くため息をついてしまった。












村を出て早くも3日が経った。

ずっと森の中を歩いていたので結構クタクタになって一生森から出られないのでは?と不安に思っている頃に、ついに木々の途切れ目が見えてきた。


「お?おお?」


少し早歩きになり、駆け足気味に森を駆けると木々に遮られることがない広い草原へと辿り着いたのだ。


「よっしゃー!ようやく森を抜けれたぁ……」


コンパスを見るのを忘れて気がつけば逆走していたり、レッドボアに何度も絡まれ返り討ちにしたりと色々とあったが3日をかけてようやく森を脱出することに成功した。


あたりを見渡せそうな丘の上まで登ると同時に少し強めの風が私の髪の毛を靡かせた。


「……おぉ、これが、異世界」


この世界に生を受けて早くも150年。

最初は家の外にすら出れなかった。

私の行動範囲はリビングの窓から見える、森の景色。

成長するにつれて庭に出れるようになり、村中を歩き回れるようになった。


だが、その度思うのだ。この世界は実は前の世界と同じで人類に発見されてないだけの秘境なのではないかと。

長閑な村の景色は150年間変わることなく、時間の流れを感じさせず、私が異世界にいるという実感を持たせてはくれなかった。


しかし、今目の前にどこまでも広がる平原は、ようやく私に異世界を実感させるものだったと言えるだろう。


「……うん。広い」


どこまでも地平線の彼方まで続く平原。その先に見えるうっすら雪化粧を被る神々しい山々の頂き。

こんな絶景はおそらく地球のどこを探してもないのかもしれない。


世界は広がっている。私の知らない世界はずっと地平線の彼方まで続いているのだ。


興奮がおさまらない。剣と共に生き、剣と共に過ごしてきた私はこの景色を見てこなかった。


「村を出てよかったかも」


あのままずっと村に居続けていたら、私は永遠と寿命が尽きるその日まで剣を振り続けていただろう。

少し傍迷惑な伝統だと思ったが、それも今となっては悪くないのかもしれない。


この世界を生きよう。

剣と共にこの世界を生きて生き抜いて、高らかに宣言してやるのだ。


私はこの世界で生きたんだって。













「これは非常食節約して正解だった」


森を抜け、コンパス頼りに歩き始めて3日。

この世界での魔物は森に生息していることが多いようで、食糧源となる魔物は平原に出てから一切姿を見せなくなった。


たまに牛のような野生動物は見かけるが、魔力に敏感なのか、私が視線を向けた瞬間に何処かへと逃げ出してしまう。

寝るのにあまり警戒しなくて良いのは助かるが、なにか物足りなさを感じてしまうのだ。


「森を抜けてからマギア王国までかなりの距離はあるとは思ったけど、こんなに時間がかかるとは……」


まぁ非常食にはまだまだ余裕はある。

焦らず着実に歩みを進めよう。


とは言え暇なものは暇。何もない平原を歩くだけでは腕が鈍ってしまうので、前世ではできなかった素振りをしながら進んでみたり、魔力纏の効果範囲を薄く広げて索敵できるようにしたりと、できる限り有意義に時間を浪費するようにした。


そんなことをしていると気がつけば森を抜けてから5日目のお昼ごろ。

平原のど真ん中に走る茶色い畦道。


「おっ、これは」


あたりに看板らしきものはないが、馬車が通ったであろう轍があったり、明らかに人為的に整備されている道だ。


「ってことはここが街道か。ということは……向こうがマギア王国?」


地図とコンパスを見比べて西の方に続く道はマギア王国に繋がっていると確信を得る。

村を出て1週間近く経ってようやく人の痕跡を見つけることができた。

少し嬉しさを感じつつ、街道沿いにマギア王国へと軽い足取りで歩き続ける。


「んにしても、この街道を見る限りやっぱり文化レベルは中世くらいなのかな」


勉強が得意ではない私はどの文化レベルが中世期にあたるのかなんて見当もつかない。

だが、父や母の話を聞く限り前世のような科学文明を持っているわけではなさそうだ。


「ま、この世界には万能物質魔力くんがいるからねぇ」


そう、前世の科学者が喉から手が出そうなほどほしい物質。それが魔力だ。

どういう原理かは全くわからないがこの魔力とやらはありとあらゆる物質や現象に変換することができる。

それを行使するにはもちろん膨大な知識量……つまり具現化するための魔術式が必要となる。

私としてはあまり興味はない。剣さえあれば良いのだから。


そんな魔力による魔術理論が世界を統べれば科学技術なんてものを発展させるより魔力の研究をした方が発展につながるというものだ。


にしてはこの世界は文明レベルは高くならない。


それはきっと、魔術理論の秘匿や魔物の存在が大きいかもしれない。


魔術は扱えば扱うほど武器となり兵器となる。既得権利者は魔術理論を秘匿し、富を独占。国も国外へに技術の流出がないように黙認する。……まぁ資本主義や特許権なんかの考えが浸透していると考えればマシな部類かもしれない。なんでもパクられたらそれこそ開発意欲とやらも無くなってしまう。


そして魔術を使えば使うほど魔力は周囲に放出される。放出された魔力は魔素へと変換し、魔素は獣に定着して魔物へと移り変わる。

大規模な魔術実験をした国が放出した魔素のせいで大量の魔物が発生して滅んだ、なんて記述は父の書斎の本に幾つも書かれていた。


「発展を望めば星はそれを拒んでくる。前世と大して変わらないような」


前世でも発展を急いだおかげで地球温暖化や砂漠化などさまざまな問題が浮上していた。

人々の生活を豊かにする技術は将来を生きる子どもたちの未来を脅かす脅威にもなる。


難儀なものだ。


でも、今の私にできることはないし、この世界の発展を異世界の技術で進歩なんてことは考えてはない。てか、そんな知性は持ち合わせてはいない。

せいぜい火は酸素があればよく燃える程度の知識だ。


そんなどうでも良いことを考えながら歩いていると、後方から猛スピードで近づいてくる物体があることに気がつく。

薄く広げた魔力纏は大体300メートルまで広がっている。

放出しているわけではないので維持も楽で索敵能力も高い。意外な場面で実証できて私は満足。


そんな感動を覚えながら後ろを振り向くと目視でも確認できるくらいの土煙を舞い散らしながら一台の馬車が走っていた。


「おぉ、馬車だ」


前世では見ることのなかったまさに中世の産物。

少し感動を覚えながら広げた魔力纏……長いので索敵魔術とでも名付けよう。その索敵魔術に新たな反応が見れる。


その馬車を追従……いや、追跡するような形で後を走る10匹ほどの馬。

馬車が馬に追いかけられているとは考えにくい。

精度がまだまだ低い索敵魔術に意識を集中させると追いかけている馬には人の形をした者たちが乗っていることがわかる。

手には……武器かな?鉄剣のような何かを持っている。


「面倒ごとに違いない」


まさに面倒ごと。

索敵魔術に集中していたらいつの間にか追いかけられている馬車が私の近くまで来ていた。

御者の少し年配の男性は慌てた様子を隠しきれていない。

何か叫んでいるようにも聞こえるが、ここからでは聞こえない。


そうこうしているうちに、馬車は追いかけられていた複数人に追いつかれてしまう。

馬車を牽引する馬と人を1人しか乗せていない馬では速度が違うのは仕方ないか。

追いかけていた方の1人が馬上から矢を放ち、御者が操っている馬の1匹の太ももに矢を命中させた。


おお、びゅーてぃふぉー。

流鏑馬?とやらなのか、かなり難しいと思っていたが流石現地人。綺麗に馬の足を止めた。

足を射抜かれた馬は速度を落とし、何故か私からほんの数メートル離れた場所に停車してしまった。


「なぜだウーマよ」


馬が私に巻き込んでくれと言っているような気がして馬刺しにしてやろうかと少し眉を顰めた。


「クソ……!た、旅の人!手を貸してはくれぬか!私はスペルドア家の執事、セルタインと申します!せめてお嬢様を領地まで――――っが!」


私と目が合った執事は全てを言い切る前に周囲を取り囲んだ男の1人が放った矢が喉に突き刺さり馬車から転げ落ちた。


う……目の前で人が殺された。


流石に動揺が隠せなかったが、逆に剣士の血が沸々と湧き上がってくる気配も感じれる。


少し唖然としていると馬から降りた風態の悪い男たちが馬車の中から2人の女性を引き摺り出した。


「やめて!セルタイン!返事をして!セルタイン!!」


「あんまり暴れるんじゃねぇぞゴラァ。へっ、意外と楽な仕事だったな」


なんだか私がいなくても事が進みそうな気がする。

さて、執事と名乗った1人は殺され、中から出てきた2人も今にも殺されそうな現状。


助けるか否か。


正義感溢れる漫画の主人公ならば助けるのが当然とばかりに動き出すだろう。

だが、私はそんなお人好しではない。


この2人を助けたことによって獲れるメリットはあるのだろうか。


スペルドア家といえばこの先にあるマギア王国のスペルドア辺境伯の家名だ。

ここで助ければそれなりの報酬も手に入れることができるだろう。でも、それがあの自称執事がついた嘘であれば?

もしかしたらあの野蛮人どもは犯罪者を追う騎士団かもしれない。そして、名を騙った執事たちは偽物で重罪人かもしれない。


私はこの世界のことを何も知らない。右も左も分からない赤子同然の存在。

長い間生きてきたが私は見た目相応の田舎者に過ぎないのだが……――――


「お頭!この旅人、エルフの女ですぜ!」


「本当か?……へっへ。良い拾い物もしたなぁ」


私を見つけた野蛮人どもは私を見るなり下品な笑みを浮かべこちらに敵意を向けてきた。


「……自分に降りかかる火の粉くらいは払わないとね」


索敵魔術を魔力纏まで縮小し、全身を魔力で覆う。


「ねぇそこのお嬢ちゃん。コイツら殺しても罪にはならない?」


少し大きな声で強張り動けなくなっている身なりのいい少女に私は声をかける。

涙をこぼしながら女性は激しく頷いていた。


「はぁ?お嬢ちゃんが俺らを殺すぅ?エルフの女が威勢の良いことを言うもんだ」


1人の男がゆっくりと歩きながら私の方へと近づいてきた。


……なんだコイツ?隙だらけじゃないか。


前世より肉弾戦闘が激しいはずのこの世界でなんでこんなに隙だらけに歩み寄れるのか。

あまりにも間抜けな姿に少し拍子抜けしそうになりながらも剣の柄を握る。


――――集中。


男が私の間合いに入った瞬間、私は強く一歩を踏み出し剣を抜いた。


「へ?」


呆けた表情のまま男の首はポトリと地面に落ち、鮮血を撒き散らす。

返り血がかからないように少し横に避け、頭が無くなった胴体が地面に倒れ込むのを横目で流し見る。


「まさかここに来てはじめての殺人とはねぇ……」


人をはじめて殺した。

殺しても問題ないほどのクズらしいクズだったが罪悪感を感じるのではないかと少しだけ恐れていた。


でも、剣を握った私には関係ないようだった。


今の私は歓喜と期待に震えている。


この日初めて、私の剣術……『神鳴流(しんめいりゅう)』が真価を見せつけるのだから。


「な、コージ――――がっ」


仲間の首が急に跳ね飛ばされたことに動揺している隙をついて私は一瞬で一番近い男との距離を縮めた。瞬きをさせる暇も与えずもう一度首を一刀。

返り血を浴びないようにしっかりと斬り方も気をつけた。


なんだろう、身体が軽い。

魔力纏の副次効果である身体強化が身体に馴染んでいくのがよくわかる。


剣を強く振るって刃についていた血液を払う。


「ほら、かかってきなさい。……私を楽しませて」


「く、クソ!!魔術だ!!魔術を使え!!」


お頭と呼ばれていたボスらしき男が叫び周りの野蛮人どもも魔術式を展開した。


「――――っ」


剣士の前で魔術を使うなんて愚策にも程がある。

魔術を使うには多少のタイムラグが存在する。0.5秒にも満たない僅かなものだが、剣士ならばその間に10回は殺せる。


「ぐあっ!」


「がっ!」


魔術を発動しきる前に2人の急所を的確に切り裂く。

首から心臓が大量の血液が噴き出してくる。


「やれ!!構うな!」


ボスらしき男は殺された部下共々私に向けて魔術を放った。

良い判断だと思う。仲間の犠牲ありきの作戦だが、私に一撃与えるならば一番効果的だろう。


でも――――


「剣士に対して魔術は愚策なんだよ」


私に向けられて放たれた複数の火の玉。

見れば見るほどあまりにも拙い魔術だ。


私は火の玉を剣で軽々と切り裂き、爆風に紛れて直進する。


「はぁ!?ま、魔術を斬っ――――っが!?」


魔術が斬れないなんて誰が決めたのだろうか。てか、自分達の魔力纏が通じてない時点で力量差くらいわかるものではないのかね。


「ディゴス!クソ!化け物か!?」


可愛い乙女に対して化け物とは酷い言い草だ。


「残り5匹」


ボスらしき男の目を見つめながら私は剣を構える。


お師匠は昔言ってたな。

戦う相手の目は必ず見るんだと。


最初は理解できなかったが150年経ってようやくその意味が理解できた。

人の瞳は相手の心情を映し出す鏡だ。


目から伝わってくる動揺と恐怖。それらを認識することができた。


人の心理の風上に立て。心理が上回れば技も上回ることができる。戦いは戦う前から始まり、戦う前から勝敗が決まる。


この世界に生まれて本当によかった。


前世では成長のしようがなかった。でも、この世界なら強くなれる。どこまでも、その頂きに手が届く。


私は笑みを浮かべ強く踏み出す。


「クソが!!全員で囲って殺しちまえ!」


残念ながらこれがボスらしき男の最後の言葉だった。






裏設定的な補足説明的なやつ





リアは軽度の方向音痴。

地図やコンパスなどのある程度の情報があれば迷わないがなかったら森から出ることはできなかった。


料理の腕は前世の一人暮らしで自然と磨かれていたが、150年間料理しなかった影響はでかい上に前世のような文明の利器はないので焼く、煮るくらいしかできない。

食べれれば何でもいい、食べれるだけありがたい、と思っているのであまり食に対して固執はない。だが米と味噌汁は恋しいとは思っている。

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