第1話 エルフって成長遅すぎない?
とりあえず3話は続けて投稿します。
異世界転生?だと思われる現象が起きて早くも10年。
私はようやく歩き回れるようになった。
え?遅くないかって?
仕方がないのだ。どうやらこのエルフという種族……成長がとんでもなく遅い。こんなに遅いことがあるのかっていうくらい遅い。
私の曖昧な前世の知識なら確か人間の赤ん坊ならば生後5〜6ヶ月ほどで寝返りをすることができる。
だが、エルフはどうやらかなりの時間をかけて成長をするようだ。生物として身動きが取れない時間が長いのはいかがな物かと思うが、そこは1年くらいで納得した。
てか納得しないとやってられない。発狂するわ。
とにかく歩けるようになるまでまさか10年もの歳月がかかるとは思いもしなかったが。
「あら、リア。どこ行くのかしら?」
「わぁ」
歩けるようになった私はとにかく動き回った。理由は棒状の物体を探すため。
剣が振りたい。私は10年の間、一度も剣を握ってないのだ。
前世の時間を含めたら剣を握ってない時間の方が長くなりそうでこれ以上我慢ならない。
だが、見た目はまだ一歳にならないくらいの身体。親に見つかってはすぐに捕まってしまう。
私の行動範囲はリビングと寝室から広がらない……。
「すぐにどこかに行こうとするんだから。誰に似てこんなお転婆になったのかしら?」
「うー!うー!」
ちなみに言語は流石に10年もあればある程度理解できるようになった。
流石に喋ることはまだできない。というか発音が難しすぎる。舌回らんて。
母に抱き上げられ必死に抵抗するが抜け出すことができなかった。
今日の探索は1ミリも進まなかった。
いつになったら剣を振ることができるのだろうか。
私は剣を振りたいだけなのだ。
「ミア!リア!ただいま!」
「あら、おかえりなさい。早かったのね」
「あぁ。スキューが上手く仕留めてくれてな。今日は猪鍋だ」
ご機嫌な様子で玄関を開けて入ってきたのは父のロア。
断片的な話しか聞いてはないが、父はどうやら狩人として生計を立てているらしい。
いや、生計というか聞いた感じだと村全体で完全な自給自足をしているようだった。
農家が野菜を育て、狩人が獣を狩る。
それを物々交換して食卓を豊富にしているようだった。最近になって離乳食が終わり始めて固形物も食べれるようになったからわかるようになっただけだが。
せんべいが恋しい。お師匠のお供物だったものが私のおやつだった。盗んだわけではない。食費や生活費を浮かすための苦肉の策だったのだ。許してくださいお師匠。
父のロアと母のミアがいちゃつき始めたら大体夕食の準備は遅れる。
お腹が減ったから早く作ってくれないかな。
そんなことを考えながら子供の前でイチャイチャする今世の両親を眺めながら私はぼーっとしていた。
◇
この世界に生まれて早くも30年。
前世の年齢の倍は生きたが身体はまだまだ幼い。
3歳くらいの身体……。薄々感じていたがどうやらこの世界のエルフは前世の人間の10分の1の成長速度と考えて良いだろう。
本当に遅い。遅すぎてこの数十年、ずっとイライラが募って爆発しそうだった。
だが、30歳の誕生日を気に庭までの外出を許可してくれた。
まぁあれだけ毎日のように外に出ようと画策すれば流石の両親も折れるというわけだ。
勝手に出ようとして玄関の扉に体当たりしたり、窓から脱出しようとしたり、魔法を使って飛び出そうとしたり……。おお、脳裏に両親の疲れた表情が目に浮かぶ。
あ、そういえばこの世界には魔法とやらが根付いていた。
いや、正しくいうと魔術か。
まぁ異世界人の私としてはどっちも同じようなものだが、暇つぶしに父の書斎に忍び込んで読んだ本には明確な差が書かれていたと思う。
なんでこんなに曖昧なのかって?
私も流石に30年も生きれば言葉は完璧に聞き取れ、拙いとはいえ喋ることもできる。
だが流石に文字は無理だった。
辞書のような本はあったが辞書って文字が読める前提なのよね。文字を覚えるには読み聞かせをしてもらうしかないのだが……この家には絵本とやらは存在せず、訳の分からないミミズのような文章がつらつらと並べられた本しかなかった。
とにかく私は暇つぶしに文字の解読を始めた。
父や母にさりげなく文字の意味を聞いたりしてそれを覚えながら解読していく。
両親は天才だとかなんとか言ってたが魔術とか魔法とか正直いうと暇つぶし程度の片手間だ。
とにかく剣を振るために……いや、剣が振れるようになるまでの暇潰しが欲しかっただけなのだ。
「リア、お母さんは洗濯物を干しておくから、庭から絶対に出たらダメよ」
「はーい」
早速私は裏庭の影に隠している木の棒を拾いに行く。
剣というには些か不恰好。というか本当にただの木の枝だ。
母からもらったいらない衣服の切れ端を枝に巻いて剣に似たててるだけの棒状の物体。
でも、私はこれが欲しかった。
苦節三十年。前世では剣を振る時間の方が長かった私が剣を振らない時間の方が長くなってしまった。
木の棒を持ち、瞼を閉じる。
風に木々の葉が擦れ流れる音。わずかな木漏れ日が肌を温める感覚。
それらを忘れた頃に剣を振り上げ、振り下ろす。
「わぁ!?」
しかし木の棒の重さが思った以上で地面スレスレに止めるはずの木の棒の先端が地面に突き刺さり、その反動で思わず重心がズレ、足がもつれる。
「うわ〜……マジか」
こんな姿をお師匠に見せたらすぐさま怒号が飛んできてしこたま怒られてしまうレベル。
「流石に30年のブランクはでかい……」
何度も何度も剣を振るうイメージトレーニングはしてきたが身体が未熟な上にブランクがかなり長い。
「これは……修正が大変だぞ……」
身体の成長と共に感覚はかなり変わってくる。
前世は数ヶ月単位で変わる程度だったのでその都度修正すれば問題はなかった。
だがこの身体……エルフの身体はその成長がとんでもなく遅い。
10年の時間をかけてゆっくり成長するのだ。
つまり、身体に慣れてきた頃に修正をしなければならない。
10年スパンで慣れきった形式を変えていかなければならないのだ。
「うっわぁ……」
思わず苦笑いが込み上げる。
でも、それはつまり、10年単位で修行を変えれるというわけだ。……案外悪くないかもしれない。ちょっと楽しみかもしれない。
あぁ、こんなことにすら喜びを感じるほど私は剣に飢えていたのだ。
とにかく今は剣を……今は木の棒だが、触れれることを喜ぼう。
だって、剣を振るのは楽しいのだから。
◇
「――――っふ、はっ!」
鋭く息を吐き、木製の剣を振るう。
この世界にエルフとして生まれ変わって早くも100年……くらい。
50年を超えた頃から自分の年齢を数えるのも面倒になってきた。
村のみんなが自分の年齢を正確に覚えてないのも納得してしまう。
前世の年齢の何倍も生きてしまえばそうなるのも仕方ない。
私はこの数十年、毎日のように剣を振り続けた。
身体も成長し、前の世界でいう10歳くらいにはなったと思う。
50年目くらいで木の棒では満足できなくなったので父と協力してただの木の棒を木製の剣へと削り出した。
その時に初めて子供らしいワガママを言ったおかげか、父は大層喜んでいた。
「――――ふぅ……」
ある程度振り終わり、腰につけた手拭いで額の汗を拭い取る。
それにしても剣は飽きない。
多分私は前世であの時死ななくてもこの生活を送っていたかもしれない。
そう思えるほど、ずっと剣を振り続けている。
だがそろそろ変化はほしい。贅沢を言えば対戦相手がほしい。
「リアー!そろそろご飯よー!」
「はーい」
母の呼びかけに反応し、今日の素振りは終了。
軽く息を整えて裏庭に併設してある井戸から水を汲んで桶に移す。
桶に向かって最近覚えた湯沸かしの魔術を使い、暖かくなったお湯で軽く身体を拭く。
この世界にはお風呂という文化はない……というわけではないが、基本的には身体を拭くくらいしかない。
お風呂を沸かすには燃料もしくは魔力が必要。だが、この世界の住人はお風呂に対してそこまでの魅力を感じないらしい。汚れたなら拭けば良いじゃない理論みたいだ。
まぁ前世の世界でもお風呂に毎日入る文化があるのは日本人くらいと言われていた気がするし仕方ないと言えるだろう。
とはいえ魂は日本人。リラックスできるお風呂には未練は感じる。
せっかく長生きする種族なのだからそのうちお風呂を作るのも良いかもしれない。……いや、自作は面倒。誰かに作ってもらおう。
「ただいま」
「おかえりなさい、リア。もう少し待ってね」
土間で忙しなく動く母を見ながら食卓へと付く。
いつもはいるはずの父がいないことに少し違和感を感じ、キョロキョロと探す。
「―――そうか、まぁその辺りも含めてまた長老達と話し合おう。あぁ、わざわざありがとう」
声が聞こえたのでそちらの方へ視線を向けると、父の仕事仲間であるスキューさんと父が玄関で何かを話していた。
少しため息をつき、少し険しい表情で父はいつもの定位置へと座る。
「どうしたの?」
「ん?あぁ……また帝国の方がきな臭いみたいでな。森の警備強化した方がいいんじゃないかって話をしてたんだ」
「またなの?まったく、懲りないわねあの国は……」
話を聞いていたのか、本日の晩御飯を持ってきながら母は呆れた表情を浮かべ、机の中央に置かれた鍋敷の上に鍋を置いた。
今日の献立はシチューのようだ。うまそう。
「帝国ってこの前もなんかしてなかったっけ」
40年ほど前の記憶を呼び起こしながらシチューを器に移し、父へと渡す。
「おお、ありがとうリア。……人族は30年ほどで世代交代だからな。どうせまた権力争いだろう」
「ふーん」
30年で世代交代?短いんだなぁと思ったが、よく考えれば当たり前か。
私たちエルフの平均寿命は約900歳に対してこの世界の人族の平均寿命なんて長くて60歳くらいだ。
現代日本の平均寿命が80歳と考えたら医療技術が発展していないこの世界ではその程度が関の山だろう。
もちろん、文化レベルを考えると30歳くらいが平均寿命でもおかしくはないが、この世界には前世にはない治癒魔術という便利術理が存在する。平均寿命引き上げには貢献してるだろう。
私も随分とエルフに染まってしまった。
「最近の人族は魔術技術も発展してエルフと変わらない魔術技術を持つようになった。……長老連中がエルフの魔術は世界一と叫ばなくなったのはありがたいがな」
「ボケてるだけでしょ」
少し不機嫌そうに母はズバッと物申した。
まぁ私も同じこと思ったけど。
「この前は被害なかったけど、今回は大丈夫なの?」
「大丈夫だろう。この森には魔物もいるし、帝国領土までそれなりに距離がある。鉄や魔鉱石もある程度取れるが、わざわざ攻めてくるほどの価値はない」
「へぇ……」
魔鉱石?なにそれ?この100年で初めて聞いたわ。
また雨の日とか剣が振れない日に調べてみるか。
「何をするかわからないからな。警戒はしとこうって程度だ」
それにしても父はフラグを立てるようなことを言ってくれる。
襲われることはない?まぁたしかにメリットは帝国にはないが、エルフには美男美女が多い。奴隷にするために!とかで攻めてきたらどうするんだ。私だけ生き残って復讐だ!とか前世のクラスのオタク連中が話していた内容によくあった展開なんだが?
そりゃあ今の生活を破壊されるようなことがあれば私は復讐するけどさ……流石にまた両親と死に別れとか嫌だよ。
「まぁ心配するな。何があってもお父さんが守ってやる」
そう言って父は私の頭を優しく撫でる。
そういうのがフラグって言うんだよ父よ……。
◇
さらに年月は進み50年ほど経った。
父のフラグは回収されることはなく、帝国とやらは何もしてこなかった。
なんだよ、心配しただけ損した。
とは言え私もついに成人と呼ばれる歳となった。
エルフの成人年齢は150歳。身体つきは人間の15歳と大して変わらない。
ちなみに150歳と知ったのは前日だった。
母が教えてくれた。
流石母。自分の年齢は誤魔化したりすっとボケたりするくせに子供の年齢はしっかりと覚えてらっしゃる。
そうそう。日課の素振りも流石に変化があった。
ここ20年ほどで流石に素振りや型の練習だけでは物足りなく……というか飽きてしまった。
そりゃあそうだ。
100年も同じことしてれば飽きもくる。逆に100年近く飽きずに同じことを繰り返してた方がおかしいのだ。
そこで私はお師匠から受け継いだ『神鳴流』に更なる改良を加えることにしたのだ。
まずは新しい型の開発……となったがかなり苦戦した。
そもそもお師匠が伝えてくれた『神鳴流』は完璧に近い。というか完璧。
人をいかに刹那の間に効率よく確実に殺せるか、という剣術なのだから完璧でなくてはならなかった。
この剣術を昇華させるために私は足りない脳みそをフル回転させて、10年という長い……いや、そうでもないか?そこそこ短い期間か?
いけない、いけない。時間感覚が完全にエルフに染まってしまってる。
とにかく、それなりの時間をかけて私は魔術との組み合わせによる進化した『神鳴流』を完成させたのだ。
魔術に関しては興味本位兼雨の日の暇つぶしに勉強していたからそこそこ使えていたから、時間がかかったのはこの発想に辿り着くまでと言うところだろう。
閃いてからは意外と早かった。
この世界の魔術を剣術にはめ込み、術理を考え、村で暇そうにしていた男子をボコボコにしながら完成……とまでは程遠いが近づけて行った。
ちなみにボコボコにした男子たちからは何故か恐れられるようになった。そんなに痛くしたつもりはないし、傷は治癒魔術で治してあげたのだが……なぜだろう?
「成人おめでとう、リア」
「ありがとう、お父さん」
「あのお転婆娘が成人とは……嬉しくも思い、不安でもあるよ」
不安要素なんてないでしょ。
「さて、成人になったことでここでリアに残念なお知らせがある」
「残念なお知らせ?」
目を閉じて、躊躇うように父は数秒黙り込む。
何が残念なのか気になるところ。早く話してくれませんかね。
「……エルフにはとある伝統がある」
「伝統?」
険しい表情で父は話し始めた。
「それは……婚約者探しだ」
「はぁ?」
意味がわからない。
「エルフは長寿。長ければ1300歳まで生きることもある。それはわかるな?」
「まぁ、うん」
いつまで経っても両親が若いままで村の長老たちも顔ぶれは一切変わっていない。
だが1300年も生きることあるの?エルフ長生きしすぎじゃない?本当に人類?いやエルフか。人類じゃなかった。
「長い寿命というのは時に繁栄を望まなくなるのだ。同じ場所で同じことを繰り返し、その現状に満足し、結婚や子作りすら面倒になりやめてしまうエルフも昔はいたそうだ」
昔は居たって……エルフの昔って何千年前だよ。
「そこで我々エルフ族には成人した若いエルフに外界の知見を学び、刺激を得てもらい、さらに言えば婚約者を見つけてくるという伝統が根付いたのだ」
「……えぇ」
まぁたしかに私はこのままだと結婚どころか友達すら作らず剣を振り続けていたかもしれない。
「でも、なぜ婚約者探し……?」
「近親婚を避けるためだな。この世界中には様々な森や秘境にエルフの集落が存在する。村に篭っていたら近親者ばかりになってしまう」
「あー……」
近親婚はたしかによろしくない。
近親者だけで子供を作るとその子供には先天性疾患などを持った子供ができやすかったり免疫力が低い子供が生まれたりと良いことはない。
「ちなみに母さんとは旅の最中に出会ったんだ」
「すぅっごいアプローチだったのよ」
少し照れながら母は乙女のように顔を赤く染めた。
ここで惚気んな。
「ち、ちなみにどうやったら帰ってこれるの……?」
「知見を広げ、相手を見つけるまでだ。知見を広げる……に関しては個人の自由だな。他種族の文化は刺激的で得るものはこの森に住むよりも圧倒的に多い。問題はその先だ」
「……まさか」
「そうだ。……結婚相手を見つけるまでリアはこの村の敷居を跨ぐことは許されない」
「……マジか」
結婚……結婚……!?
「む、無理だよ!!」
私は勢いのまま机を強く叩き立ち上がる。
「うむ……それは痛いほどわかってる……。年頃の娘が年がら年中剣を振り、挙げ句の果てには村中の男子を剣で叩きのめしている……最初は可愛い娘を嫁になどやれるか!流石俺の娘!とは思ったが、年々それは嫁の貰い手はいるのかと不安に変わって行った……」
そう、私は前世を含めて今の今まで恋愛らしい恋愛を一度もしたことがない。
なぜなら私の恋人は剣であり、生涯の友として、伴侶として剣に生きて、生き続けた悍ましい成れ果てなのだから。
「わたし!自分より弱い男なんて嫌だよ!?」
「問題はそこなのか?そもそもお前より強い男がいるのか些か不安なのだが……?」
「そもそもどうやって生活するの!?私一回も働いたことないよ!?」
それも問題。
前世では両親とお師匠の遺産で食い繋ぎ、今世では両親に養われてきた。
働いたことなど一度もない。約160年間ニートなのだ。熟成されたプロニートなのだ。
そもそも働く暇があるなら剣を振りたい。
やったことといえば母の家事の手伝いを少しと魔物の解体をちょっとだけ教えてもらっただけ。
料理に関しては今世では一度もやっていない。
最後にした料理は150年前。もう歴史の教科書に載るレベルの大昔なのだ。覚えてないって。
「女性エルフは治癒魔術や薬学を学んで治療院や薬剤所で働いたりするのが一般的ね。……リアはまぁ、その、ね?」
「ね?じゃないよ!?治癒魔術はともかく薬学なんて教えてもらってない!」
「まぁそこは問題ないだろう。リアは強い。なぜかわからないが我流の剣術も習得している」
我流だと思われてたのか。
いや、たしかに私は今世で剣術を学んだことはないし前世のことも両親には話してないからそう思われても仕方ないか。
「世界は1番繁栄している人族中心の文化だ。人族には『冒険者』と呼ばれる職業……まぁ一種の何でも屋だと思ってくれ。それに就けば資金面は問題ない」
冒険者……?なにそれ?何でも屋?なんかろくな仕事じゃない気がする……。
てか命懸けじゃないのそれ?それを愛娘に薦めていいの?
「まずは冒険者ギルドに登録して依頼をこなして日銭を稼ぐんだ。父さんはこれで50年は生活したぞ」
なぜか誇らしげに父は胸を張った。
50年も日銭暮らしとは……?
「冒険者の依頼は街の雑用から魔物討伐、盗賊退治まで多岐に渡る。ちなみにワイバーン退治は儲かるぞ。ワイバーンで稼いだ金と素材で母さんに結婚指輪を作ったのは良い思い出だ」
「風の魔石でできた指輪はエルフの憧れなのよ〜」
「は、はぁ」
「あぁそれとリア」
「まだあるの……?」
もう勘弁してほしいのだが……。
「婚約者に人族はおすすめできない」
真剣な表情で父はそう言い放った。
なんで?と思ったがよく考えればたしかにその通りかもしれない。
人族は寿命がエルフと比べ10分の1になる。
「察しの通り人族と我々エルフでは生きる時間が違う。生き別れは確定的だ。……それに愛した者が老いて死んでいくのは少々堪える」
「まぁ……たしかに」
「それに生まれてくる子供もハーフエルフとなる。ハーフエルフの寿命は長くても600年だ。下手したら子供にすら死に別れてしまう」
「うへぇ……」
それは堪える。500歳で子供を授かったとしてもどっちかが先に寿命で先に行ってしまう。
なんなら老老介護みたいな悲惨な結末も存在するということなのか……。それはたしかに嫌だ。
「そうなれば子供が独り立ちしたタイミングで子供とはそこで生き別れしたほうがいいとまで言われている」
「……人族以外の寿命ってどうなの?」
そもそも人族とエルフ以外に種族っているの?その辺の常識すら知らんのだが。
「獣人族は人族と変わらない。同じようにおすすめはできないな。我々と同じ寿命と考えるならドワーフ族か龍族、翼人族、魔族ってところだろうな」
この世界そんな種族いるのかよ……。初めて知ったわ。
「でもまぁ……エルフ族以外はおすすめはできないな」
「え?どうして?」
「ドワーフ族の男性は恰幅のいい女性が好みだ。あまり太ることがない細身のエルフ族は好みに合わない。断られるのがオチだ」
わぁーお。なんで理由だ。
「魔族はそもそも体の形態が違う。なので子供もできなければ恋愛対象にすらならない。魔物から派生した種族と言われているからな。ちなみに人族と常に敵対関係だ」
なぜに……。まぁそこは深い歴史があるのだろう……知らんけど。
「翼人族と龍族は……言語の壁が厚い」
「げ、言語!?」
「なんだ?リア、言語の壁がないと思ってたのか?」
いや、待て待て。よく考えればその通りだ。
種族が違えば文化も違う。文化が違えば扱う言語も変わってくる。
「翼人族と龍族の使う言語は少し特殊でな。発音が特殊すぎてかなり難しい。龍族が使う龍神語には龍族特有の発音器官が必要だからそもそも喋ることすらできない。翼人族はあまり他種族との交流がない上にかなり高圧的だ。常に馬鹿にされてるように感じる。言語に関してはまぁ……向こうがこっちの言葉使ってくれれば問題ない」
「ち、ちなみに人族の言語は!?」
そこが1番の問題だ。
生活圏を人族中心に生きるならば言語の壁は厚すぎる。
ただでさえこの世界の言葉を覚えるのに数十年の月日を費やしたのだ。
今更新しい言語を覚えるなんて100年くらいかかりそうで怖すぎる。
「それは心配しなくても良い。エルフ語と人語はかなり近い。長老連中が使ってるのがエルフ語だぞ。俺たちが使ってるのは人語だ」
「そっかぁ……はぁ、よかった」
思わず安堵の息を吐いてしまう。
もし言葉が通じなかったら私は残り1000年近く誰も住んでいない森で剣を振って生きる覚悟すらしていた。
てか長老たちが使ってたあの訛りに訛りまくったのがエルフ語だったのか。
あまりにも訛りすぎて最初は聞き取れなかったのは今でも思い出せる。……いや、今でもほとんど聞き取れないけど。
「ごほん……とにかくリア。お前は聡明だ。話すのだけは時間がかかったが、物分かりもいいし、剣術も才能に溢れている。……本音を言えば可愛い娘を追い出すようなことはしたくない」
「お父さん……」
「だが、いつまで経っても独り身なのも困る。早く帰ってこいとは言わない。自分の目で信頼できる伴侶を見つけてきてくれ」
嬉しい気持ちが心の底から湧いてくる。
両親からの愛情を感じることは前世ではなかった。
幼い頃に死別してしまったから。
私の家族は物心ついた頃からお師匠だけだった。でも、お師匠も私が10歳の頃に病気で亡くなった。
でも……この世界には、今世には私を愛してくれる家族がいる。
こんなに嬉しいことはない。
「ありがとう……お父さん、お母さん。今まで育ててくれてありがとう」
父はグスッと鼻を啜りながら涙を見せないように横を向く。袖で涙を拭き取りながら私を見つめ返す。
「明日出立だ。立派になって、立派な旦那を見つけて帰ってこい」
「うん……――――え?あした?」
「あぁそうだ。誕生日の翌日からリアはこの村の敷居を超えてはならない決まりだ」
「――――えぇ……」
感動的だった。だったのだが、急すぎて私の涙は引っ込み、ため息が漏れ出してしまったのであった。
裏設定的な補足説明的なやつ。
ミア
主人公リアの母親。年齢は190歳(リア出産時)
エルフの中では結構な若ママ。
実はロアに一目惚れしていたが逆に猛アタックさせたやり手な魔性の女。
腰ほどある長い銀髪をハーフアップにしている。翡翠色の瞳は村中の男を虜にしてるとかなんとか。
基本的に家で家事育児を担当。最近の趣味は自家菜園で野菜を育てること。
魔術オタクで自宅に独身時代に買い集めた魔導書がたくさんある。
ロア
主人公リアの父親。年齢は210歳(リア出産時)
弓の名手で弓を持たせれば彼の右に出るものはいないと言われているが本人はそんなことは思っていない。
ミアとは旅先の治療院で出会い、最初はそうでもなかったがミアの手腕により見事にベタ惚れにされたちょろい男。
金髪を短く切り揃え、意外と口は小さい。
エルフの村に帰ってからは村の狩猟頭として村の肉事情を支えている。村の防衛も担っており意外と重要な立場。
妻ミアと娘リアを愛し、リアが婚約者を見つけたら『俺を倒したら娘をやる!』と言いたかったが娘の条件に合う男なら絶対勝てないので諦めた。儚い夢だった。
この世界の言語事情
人族が使う人語が一般的な共通言語。他にも地方によっては方言のような形で広まっている最もポピュラーな言語。
龍族は龍神語を使い、翼人族は天神語を使う。
人間にはない発音器官を使うので人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族には発音は不可能。聞き取ることはできる。
ドワーフ語とエルフ語は人語がめちゃくちゃ訛ってるだけでなんとなく意味は理解できる。使うのは老人が多い。




