12話
風呂で汚れを落とし、ばあちゃんの元へ向かう。縁側に座り月を眺めていた。
「ばあちゃん風呂ありがとう」
「いいさ、こんな時位しか使わないんだから」
「ばあちゃんは、何で俺を高校に行かせたの?」
「10代ってのは同世代で過ごした方がいいんだよ、友人や恋人と過ごす大切な時間だよ。傷つく事も傷つける事もある、大人になる最後の時間を大切にして欲しくて行かせたのさ」
俺は黙るしかなかった、学歴の為だと思っていたからだ。
最近まで会った事はなかった。父は実家の話は殆どしなかった。
廊下を走る音が聞こえ、男性が現れた。男性は慌てた様子だった。
「失礼します。時子様、Dランク鬼ダンジョンで氾濫の予兆が確認されました。協会より協力要請が来ました」
ばあちゃんが考え込む、氾濫とは内部のモンスターが異常に増えダンジョン外に溢れ出て来る事をいう。出て来たモンスターは人を襲うし繁殖もする。100年前ダンジョンが発生した時は世界各地で氾濫が起き、人が住めなくなり魔境となった場所も多い。
「鬼ダンだと5層だったね。倉本の部隊を内部へ、他は市民誘導とダンジョン封鎖。いきな!」
「さて俺も行こうかな」
「あんた行く気かい、他の子達はどうするんだい?」
「社会見学だ、中には入れない。涼子ちゃんは留守番」
「死ぬんじゃないよ」
「ばあちゃんより先には逝かないよ」
雫達と合流し氾濫の話をし、幸子さんの運転で現場へと向かう。湧き立つ心を抑え平静を装う。
「冬夜君、楽しそうだね。顔が笑ってる」
雫を抱き寄せキスをする「うふふ」と雫も笑う。
「竜也と朱音は外の手伝いを頼む、流石にDランクのダンジョンは早すぎる」
「分かった、死ぬなよ。まだ恩を返してないから」
ダンジョンに到着し倉本さんと合流する。倉本さんは真神家お抱え探索者でAランク、春休みに一緒に潜った中である。
「倉本さん、この2人を外で使ってください。俺と雫は中へ紫苑はどうする?」
「もちろん行くわよ」
「紫苑お嬢様まで行くのですか、佐藤を付けます無理はしないでくださいよ」
「佐藤忍です」
佐藤さんは20半ばの女性だった。ショートカットに黒装束、クノイチだ胸は控えめだけど。
50人くらいの探索者が集まっており、突入を待っていた。俺たちの他に10代はおらず30前後が大半なので、少し浮いていた。
「これより突入し、間引きを開始する。指揮はAランク倉本が取る」
「倉本だ、今日はよろしく頼む。偵察班の報告によると、3層以降で異常発生が確認されている。なので1、2層は全員で最短距離を駆け抜けて、3層からパーティ毎に分かれて殲滅を開始する。質問はあるか?」
隣にいたチャラそうな兄ちゃんが声を上げる。
「ガキが混じってるぞ」
「その子はWBだ問題はない、他が無ければ出発」
チャラい兄ちゃんが絡んで来るかと思ったが、ひと睨みしただけで離れていった。
1、2層は問題なく進み3層へ入りばらけて進む。俺は悪魔を模した魔導鎧を発動し纏う、雫と紫苑もそれに倣う。
ちなみに俺のが黒に赤いラインが入っており、雫が白に青ライン、紫苑は紫に赤いラインだ。
佐藤さんは初めて見るのか、びっくりした様だった。
「何ですかそれ?」
「魔導鎧って言う魔法で出来た鎧です」
佐藤さんは話を中断し身構える、どうやら来た様だ。収納魔法から大太刀を引き抜くと、隣を白い影が通り抜ける。
「いちば〜ん」
雫が4体の鬼に接近して収納魔法から大鎌を引き抜き一閃。4つの首が飛び黒い灰となって消える。
「次は私ね」
紫苑も走り出し後続へ襲いかかる、右手には太く歪なランスを持ち、左手には大きめのシールド。ランスで鬼を刺し次の瞬間、ランスの先端から爆裂魔法が放たれる。後ろに居た2体も巻き込んで黒い灰へと変える。
佐藤さんは唖然としていた。
「ゲームを参考に作ってみましたわ」