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仁中圭衣②

 圭衣と付き合って三ヶ月が過ぎる。クリスマスがやって来たので、たいしたことはできないけれどデートでもしようかと鷹座駅横のファッションビル『VVVIROW』に足を運んでいる。寒い。ファッションビルは寒々しくて、圭衣を隣にくっつけていてもまだ肌寒い。


 圭衣は背が高くて、今日はおめかししているのか靴の底も厚めなので、並ぶと僕より長身になってしまいイマイチ格好がついてないかもしれないが、まあ気にしない。僕の身長が一七〇ちょっとなのは気にならない。


 クリスマスじゃなくって、厳密に言うとクリスマスイブなんだけど、どちらにせよファッションビルは大混雑している。が、そんな人混みの中に僕は感じるものがあり、目を凝らす。最初は自分が何に反応したのかわからなかった。そして、人混みの中に千衿を発見した際にも、けっきょくどうしてピンと来たのかがわからないままだったんだけれど、ともかく千衿も僕に気付き、目線と目線がぶつかり合う。人混みの中、射線が通る。


 千衿が先に声をかけてくる。

「リョート!」


 あ、千衿に圭衣を見られてしまう……なんか居心地悪いな、とそわそわするのも束の間、僕は千衿の隣に知らない男の人を見とめてしまう。


 千衿は既に圭衣の姿に気付いていたようで、近づいてきて僕に「デート?」と訊いてくる。


 そんなあっさりと訊かれても挨拶に困る。僕は千衿に圭衣のことは話しておらず、なんだかとても、しくった!って気がしていたのに。千衿は全然普通そうだし、反対に、僕に男を見られることも意に介していなさそうだ。


 当然のように「誰?」と圭衣が僕に問う。


「中学のクラスメイトです」と千衿。


「…………」

 クラスメイト。クラスメイトかあ……と、その表現になんだか落胆するけど、意味深な言い方をされてもそれはそれで困るので致し方ない。というか、ここは普通に千衿が気を利かせてくれたのだと感謝すべき場面だろう。


「あたしらもデート中だよ」と千衿が教えてくれる。


「大学生ですか?」


 と僕は尋ねるが、「タメだよ」と千衿彼氏に笑われる。


 千衿彼氏は体がゴツくて、ちょっと金髪で、大学まで探しに行かないとなかなか見つけられそうにない風貌をしていた。竜宮高校にはこんな男子がたくさんいるのか。喧嘩が強そう。僕はこの人から名字を連呼されても、たぶん殴りかかることはないだろう。


 千衿にこんな厳つい彼氏が出来ていたのも衝撃だけど、千衿がそれを報告してくれなかったことがとにかくショックだった。でも僕も報告していなかったし、しかも今日バレてしまった。いろいろとショックだった。千衿が何も気にしていなさそうなところも。もう、何もかもが。


 千衿は今日、この筋肉質な彼氏に抱かれるんだろうか?と考えると、心臓に無数の小さな穴が開いたような気分になると同時に下半身がイライラしてくる。千衿の育ち盛りの体はこの男に美味しくいただかれるのか。


 僕の方は、このあと圭衣をいただく予定もないし、期待も特にして来なかったんだけど、無性にこのモヤモヤを発散したくなる。ちなみに僕はまだ圭衣の裸を見ていない。千衿はもう彼氏に裸を見せているかもしれない。ああ。


 しばらく立ち話をしてから、それぞれのデートに戻る。僕は千衿のデートの様子を覗き見たかったが、圭衣がいるため断念し、自分のデートに集中する。


 千衿のことが今でも好きで忘れられない……というほどではなかったはずなんだけど、千衿にも彼氏がいて、クリスマスを楽しんでいるんだという、そういう生々しい現状を見せられると、なんともやるせない気持ちになる。


 千衿達と別れるや否や、圭衣に問い質される。

「あの子と付き合ってたでしょ?」


「付き合ってないよ」と僕は正直に答える。ため息混じりになる。


「好きだった?」


「クラスメイトだよクラスメイト」


「ふうん。メチャ綺麗な子じゃん」


「圭衣も綺麗だよ」


「嘘ばっかり」


 けっきょく僕は圭衣に何を求めていて、圭衣は僕のどこが好きだったのか、わからないままだけれど、わからないままに交際は一年続き、そろそろ高校三年生で大学受験に集中しないといけないなあという頃合いに別れ話が出る。


 VVVIROW内の食べ物屋でランチをしていたときに、前触れもないまま「別れて」と言われる。いや、前触れは実はあったのかもしれないけど、あんまり察知できていなかった。


 拒む空気ではなかったし、僕は聞き分けよく「わかったよ」と返す。「友達としてはいられるんでしょ?」


「いられるよ」


「……ちなみになんで別れたいの?」


「他に好きな人が出来るかも」


「うーん、っていうか、じゃあ、どうして俺はその人に負けちゃったのか聞きたい」


「そういうところだよ」とまた言われる。


 いつ言われたんだっけ?と振り返ると、告白されたとき、僕のどこが好きなのか尋ねたら、そんな返事をされたんだった。そういうところってメチャクチャ便利な言葉だな。どういうところだよ。何も言ってないじゃないか。僕もいつか使いたい。でも、僕はわりとはっきり言いたい性分なのでなかなか使いどころがないかもしれない。


 はっきり言ってしまう、というのが冷たく感じられるんだろうか?

「俺って冷たい?」


「冷たいっていうか、なんなんだろう。『寂しい』?」


 寂しいっていうのは圭衣の感想だろう。僕が冷たいから圭衣は寂しく感じるということ? だとしたら僕はやはり冷たいのだ。

「嫌だ、やっぱり別れたくない!って駄々捏ねても、うるさいだけでしょ?」


「思ってないじゃん」


「いや、思ってなくはないよ。圭衣と別れちゃうのは寂しいって思ってるよ」


「でも駄々を捏ねるほどじゃないでしょ?」


「や、捏ねないようにしてるだけだよ」


「捏ねないように自分をコントロールできるんだったら、ホントは別に駄々なんて捏ねたくないんだよ」


「…………」


「まあ、駄々捏ねられてもうるさいだけだけど」


「そだろ?」


 そうして別れ話に決着がつく。食べ物屋を出ると、そのまま僕と圭衣はそれぞれの足でそれぞれの家へ帰る。僕の隣に空間が出来てしまい、圭衣が言うような寂しい気持ちと、反対に、ちょっと気が抜けたような感覚が、両方同時に生まれる。僕の隣にはいま誰もいないけれど、逆に、今なら誰をここに立たせても問題ないってことなのだ。可能かどうかは別として。

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