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僕の自殺を止めてくれた彼女を、今度は僕が救いたくて4

「ねえ、今度さ、勉強教えてよ」


水族館の次は勉強か。


そういえばもうすぐ期末テストの時期だ。


自慢じゃないが勉強は得意だ。というか、僕には勉強しか取り柄がない。


まあ、その勉強も第一志望に落ちてこうして今の学校に進学したわけなんだけど。


中学時代は親からあらゆる交友関係や娯楽を制限され、先生からも大いに期待されていた。


僕はプレッシャーに耐えながら必死に努力した、しかし、結果は不合格。


それ以来、親は僕に期待することはなくなった。「お前は役立たずだ」と言わんばかりに。


ああ、気分が悪くなってきた。


気づくと自己嫌悪に陥る、僕の悪い癖だ。


「いいよ」


「じゃあ明日私の家にきて~」


えっ


驚きでしばらく固まってしまった。


どこで勉強するかまでは考えていなかったが、まさかとわの家とは。


てっきり、図書館とか、喫茶店だと思っていた。


そんな訳で僕はとわの家へと行くことになったのだ。




翌日、とわから送られた住所の元へ向かい、僕は空を見上げていた。


そこには都内でも屈指の高さを誇るタワーマンションがそびえていた。


ずっと見上げていると首が痛くなりそうだ。


僕が口を開けてマンションを眺めているその隣を犬を連れた貴婦人が建物の中へ入っていく。


「すごいところに住んでいるんだな…」


聞いた話ではとわはここに一人で住んでいるらしい。


僕は口を開いたまま中へと入るのだった。




インターホンにとわの部屋番号を押すと、


「はーい、あっもしかして優斗くん?今開けるね!」


そう彼女の声が聞こえ、扉が開く。


僕はそのままエレベーターで彼女の住む部屋へと上がっていく。


「あがってー」


「お、お邪魔します。」


外見に劣ることなく、部屋の中も圧巻であった。


長い廊下が部屋の数を物語り、広々とした印象を受ける。


とても女子高校生が一人で住むような部屋とは思えない。


「こっちの部屋だよ!」


そんな事を思いつつ、僕はされるがままにリビングに案内された。


リビングもまた豪華であった。


部屋の真ん中には二人は余裕で座れるくらいの大きな革張りソファがあり、その前にはガラス張りのテーブルが置かれている。キッチンは対面式になっており、最新式のIHコンロで食洗器まで付いている。壁には大型テレビが掛けられている。


とわはソファに遠慮なく座り、隣に座るように手招きする。


僕も隣に座るのか、相変わらずとわの距離感は近い。


僕はとわと少し距離を置いて座った。




勉強は主に僕がとわに教えながら始まった。


失礼ながら、とわはそこまで頭が良くないのかもしれない。


しかし、僕に熱心に質問をし、一生懸命考えていた。


「この問題はこの公式を使うといいよ」


「あっなるほど!」


大げさに手を叩くリアクションをするとわ。


その姿もどこか可愛らしい。


「ねえーこの問題はどうやるの?」


そう質問しながらとわの顔が近づき、思わずドキッとしてしまう。


「ご、ごめんちょっとトイレ借りてもいい?」


「ん、いいよ」


照れているのを隠すようにトイレに逃げてしまった自分が恥ずかしい。




トイレから帰る途中、他の部屋のドアが少し空いているのが目に入った。


勝手に他人の部屋を除くのに罪悪感を抱きつつも、好奇心に負けてしまい部屋を覗いてしまう。


その部屋の中を見て、僕は思わず声が出そうになるのを抑えながら後ずさりする。


ピンクを基調とした可愛らしい女の子の部屋には似つかない、大量の薬の空き瓶、何かに使ったであろう注射器が無尽蔵に散らばっていたからである。


明らかに異常な光景だった。


「トイレお借りしました」


「あっおかえりー」


僕は何事もなかったようにとわのいる部屋へと戻ったが、それでもさっきの光景が忘れられなかった。


疑問を抱きつつ勉強を再開しようとすると、


「ねえ、さっきさ。私の部屋見たんでしょ?」


突然の質問に戸惑ってしまう。それに、僕が部屋を見たと確信しているかのような口ぶりだ。


僕が戸惑っていると、とわはいきなり僕をソファに押し倒そうとしてくる。


とっさの事に驚きつつも、僕も負けじととわを押し返そうとするが、返しきれない。


とわは僕よりも身長は高いが女の子だ。僕の方が力はあるはずなのに。


いや、違う。とわは本気で僕の事を押し倒そうとしている。


どこかで冗談だと思っていた僕は本当に押し倒されてしまった。


そのままとわは僕に馬乗りになる。


とうとう捕まってしまった。


そしてとわは上着を脱ぎ始めた。


僕は目を逸らそうとするが、視界の端にとわの腕が入る。


彼女の腕は手首から肩の近くまで、おびただしい量のリスカ痕が残っていた。


驚きつつも状況を把握する。とわは、僕と性行為しようとしている。


「やっぱり、ダメだよ、こんな」


「…何?また説教するの?」


とわは明らかに不機嫌そうに言い放つ。


「説教じゃないけど…」


「じゃあ何?」


「でも、間違っているよ」


「そう…君なら、私の痛みも、傷も分かってくれると思っていたけど、違うみたい」


吐き出すようにとわは言う。


「けど、苦しんでいる人は見捨てておけない」


「綺麗ごと言わないでよ!」


僕の言葉が気に食わなかったのか、とわは怒りを露わにする。


「だったらさ、私の痛み分かってくれるよね」


そういってとわは引き出しからカッターを取り出し、それを僕に放り投げる。


「リスカ、してみてよ。私の事を助けたいならさ。」


「えっ…」


「やってみせてよ、私の痛みを感じてよ」


とわは、真っすぐに僕を見据えて言う。


とわは、僕にリスカを要求している。


彼女の痛みが分かるなら。


彼女の事を救いたいなら。


どうすればいい。背中に汗を感じる。


「…」


とわは黙って僕の事を見つめている。


沈黙が訪れる。


僕は、僕は、


どうしたい?


答えは、分かっている。


僕は、迷わず自分の手首を切った。


赤い鮮血があふれ出る。


痛い


痛い


痛い


痛みで世界が支配される。


「こんなことで君の苦しみが全部分かるわけじゃない。でも、これで君の事を救えるのなら、少しでも君の苦しみや痛みを、分かってあげたい!」


僕は再びカッターを手首に当てた。


「もうやめて!」


とわは僕の手を制してそのまま抱きついてきた。


「ごめんね、ごめんなさい…」


そのまま泣き出す彼女を、僕はカッターを捨てて、優しく抱きしめてあげることしかできなかった。


それでも、かける言葉が見つからなくても、とわの体温を感じると、一つになれた気がした。


そしてもう一つ、彼女もまた、どこか闇を抱えていることに、そしてそれは、僕と似たような物なのかもしれないと。




「私ね…死にたいなって思っていたの」


泣き止んだ彼女は、抱きついたまま呟いた。


「そんな時に、君と出会って、この人も同じなんだって。もしかしたら、私の事を分かってくれるんじゃないかなって、勝手に期待していたの。」


心の中を吐き出すように、彼女は丁寧に言葉をつぶやく。


僕は何も言えず、黙ってとわのことを抱いていた。




「ねえ…私の事…」


とわが僕の目を見据えて言う。






「殺してくれない?」

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