僕の自殺を止めてくれた彼女を、今度は僕が救いたくて3
「ねえ、明日一緒に水族館行こうよ」とわと出会った翌日、それは突然のラインだった。
「なんで?」
「えー別に理由なんかないよ」
「ただ一緒に行きたいって思っただけ」
「一緒に行ってくれなきゃ自殺しようとしてたことバラしちゃうぞ」
すっかり弱みを握られてしまった。ばらされるのも面倒くさいし、他に予定もなかったので僕は「分かった」と返事をするしかなかった。
「あーいたいた!」
次の日、都内の水族館で待ち合わせているととわがこちらに駆けよってきた。
「ごめーん、メイクに時間かかっちゃって」
白のワンピースをひらひらとさせながらとわがこちらに駆けよってきた。
「ほら、行こ!」
昨日見た格好とはまた違い、清楚な雰囲気のとわに思わず見惚れてしまっていた。
とわの呼びかけにハッとし、二人で水族館の中へと歩いていく。
「この魚なんだろうね」
「…さあ」
正直僕はそこまで魚に興味がないのでよく分からない。
「あははー変な魚ー」
それでもとわは楽しそうだ。
そんな彼女の笑顔を見ていると僕まで明るくなるような、そんな気がしてくる。
「この子達ってさ…幸せなのかな」
「え?」
とわがふと神妙な面持ちで呟く。
「だってさ、この子達ってずっとこの水槽の中で生きてるんでしょ?退屈じゃないのかなって」
どこか、水槽の魚が自分のように思えてくる。この狭い水槽で見世物として生かされる日々。
自由なんか、どこにもない。
「あっ!向こうにペンギンいるって!見にいこ!」
僕の手を引っ張ってとわはペンギンコーナーへと小走りで向かうのであった。
「親子かなー?可愛いー」
そう言いながらとわはパシャパシャと写真を撮っている。
ちょいちょい
その様子を遠目で眺めていると、とわが手招きをしてきた。
「ねっ、せっかくだからさ一緒に撮ろうよ」
自撮りポーズをしながらとわはなぜか笑顔だ。
写真かあ、本当はあんまり好きじゃないんだけどとわの無邪気な笑顔を見ているととても断れる雰囲気ではない。
僕はしぶしぶとわの隣に並ぶ。
「そこじゃ写らないよーほらほら、もっとこっち寄りなよ」
ち、近い!とわと密着しそうな距離に僕は戸惑ってしまう。
女の子とこんなに近づいたことなんか今まで一度もない。
そんな事は知らないとわはお構い無しに近づいてくる。
「はいチーズ」
ドキドキしすぎてそれどころではなかった。
「今日は楽しかったね」
気づいたら夕暮れ時になっていた。
正直、最初はあんまり乗り気でなかったが、時間はあっという間に過ぎた。
帰りの駅へと歩きながら、今日の事を話す二人、傍から見れば初々しいカップルに見えるだろう。
「なんか疲れちゃったね」
そう言って無邪気な笑顔を見せるとわは、この都会の人混みの中でも一段と輝いて見えた。
そんなとわに僕はまた思わず見とれていた。
「ねえ…ちょっと休んでかない?」
いつの間にか僕たちはラブホ街に迷い込んでいたようだ。
「い、いやでも…そういうのはもっと関係ができてからじゃないと…」
「私は別にいいよ」
それは、真っすぐに僕の目を据えた真剣な表情だった。
「でも…」
「ねえ、別にいいでしょ」
とわは僕の手を引っ張りホテルに入ろうとした時、
「やっぱ、ダメだよ」
僕はとわを静止して立ち止まる。
「…なんで」
とわが怒ったように、不機嫌そうに尋ねる。
「だって僕はとわさんの事を何も知らない。それなのにそういうことはできないよ。もっと、自分の事を大切にしなきゃダメだよ」
僕は、思っていることを正直に、素直に言葉にした。
「…分かった。」
とわがどんな表情をしていたかは分からない。
「今日はありがとね、楽しかったよ」
少し気まずいまま僕はとわと駅で別れた。
とわと水族館に行った次の日に、僕はとわとの関係が壊れてしまったのではないか、そう心配していたが
ピロリん
とわからまたラインが送られて来るのだった。