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屋敷のベッドで目を覚ます。
まだ身体がだるくて熱いのを感じると、ミアの冷たい手が頬に触れた。
「お嬢様!ミアとの約束破りましたね。お熱が下がったら、1週間おやつは抜きですよ。」
「むぅ……分かったわ。でも聞いてミア!今日ね、素敵な男の子に会ったの!」
優しくしてくれたテオ様を思い出しては、胸が高鳴る。
「はい。それは何度もお聞きしました。後で、いくらでもご協力しますから、今はゆっくり休んでください。お薬飲めそうですか?」
「あのね、ミア。テオ様……じゃなくて、サイラス様は、マーガレット嬢がお好きみたい……」
温室で助けてくれたサイラス様だけど、マーガレット嬢にしか向けないあの眼差しと甘い声を思い出して胸がぎゅっと切なくなる。
こちらを見向きもしなかったサイラス様だけれど、優しくしてくださった。
私をあの美しいアイオライト色の瞳に映してくださらないだろうか。
ドキドキしている私は、きっと恋に落ちてしまったのだー…
「え……?あ、お嬢様?お嬢様!?」
サイラス公爵邸での出来事を思い出しながら、上がった熱に堪えきれず、7歳の私は意識を手放した。
それから、5年が経ちー…
従兄のカイル・クロフォードと一緒にサイラス公爵邸のお茶会へ招待された。
カイルは、エイデン様と同じフォトリーン王国立学院に高等部から入学し、乗馬部で仲良くなったようだ。
相変わらず、領内で過ごすことの多い私は、5年ぶりにサイラス公爵邸を訪れていた。
5年前、父にせがんでお礼の手紙を送ったが、特に返事はもらえなかった。
「返さなくていい。」と言われはしたが、助けてもらったお礼をどうしても直接伝えたくて、ミアに刺繍を習い、新しいハンカチもプレゼント用で作ってきた。
次会った時に、成長した姿を見てほしくて母の淑女教育も熱心に受け、今では合格点をもらえるようになった。
後は、サイラス様に会ってお礼とハンカチの返却とプレゼントを渡すだけ。準備は万端だ。
「シャーロット。緊張しているのかぃ?」
「いいえ。していません。」
カイルがからかうような視線を送ってくるので、毅然とした態度を心がける。
「そう?じゃぁなんで、戦地に赴く騎士様のような顔をしているわけ?」
「……どうして、エイデン様は従兄様とお友達になんてなってしまったのでしょう。不憫で仕方ありませんわ。」
笑い始めたカイルに対して、フンッと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「確かに、エイデンと僕は、真逆だからね。みんなに驚かれるよ。僕も同じくらい驚いているさ。それに、僕は可愛い従妹が拗ねた顔が大好きだからね。」と言って綺麗にウインクをしてくる。
これで、女の子達から人気があるのだから世も末ではないかと呆れてしまいたくなる。
エイデン様を実直で真面目なお方とするならば、カイルはお調子者といったところだろう。
ちなみに、カイルの扱いは骨が折れる。
それと良い関係が築けているエイデン様には人を魅了する力があることを暗示しているとも言える。
「今回のお茶会には、テオも参加するらしいから、サイラス兄弟を揃って見れるんじゃないか?」
「え?何故、従兄様がそのようなことを知っているのです?」
「テオに学院ではなかなか会えないけど、サイラス公爵邸によく遊びに行くから、会った時に聞いたんだよ。」
カイルの状況に内心では羨ましく感じながら、「そうですか」とそっけなく返事をして馬車の外へ視線を移すことにする。
「まぁ、今日は、辺境の地じゃ味わえない時間を楽しく過ごすといいよ。」
からかうカイルの言葉は聞こえないふりをして、私は瞼を閉じた。




