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午後の授業も終わり、生徒会室に向かいながら昼の出来事について説明してもらおうとルカに問いかける。
「さっきのあれは何だったんだ?」
「あぁー週末楽しみだね」
嬉しそうに答えるルカだが、やはり何を考えているのか見えてこない。
「どうしてあんな提案したんだよ?」
もっと明確に答えてもらおうと食い下がるが「うーん、その質問には答えたくないなー」と言ってルカは俺の瞳を覗き込んだ。
まるで挑発しているような姿の意味が分からず首を傾げれば、ルカは笑顔を作った。
「……だって、テオの婚約は「どうせ解消する」んだろう?」
「は?」
「お昼に言ってたでしょう?」
キョトンとした顔でルカが問いかけてくる。
確かに言ったが、それがルカと何の関係があるのだろうか。
それに、シャーロット嬢が社交界でこれ以上噂の的にならないためにも今は大人しくしておくことも必要なことのようにも思える。
困惑した俺は足を止めた。
振り返ったルカが珍しく真剣な顔をしている。
「ルカ?」
「テオは僕の大切な友人だから、特別に婚約解消を手伝ってあげようかと思って」
「……どういう意味だよ?」
「今日のテオは質問ばっかりだね?」
ルカの表情が気になって聞き直せば、今度は少し困った顔になった。
普段よりもクルクルと表情を変えるルカに戸惑って俺は何も言えなくなる。
そんな俺の姿を見たルカは、ため息を軽くついた。
「まぁいいよ。その求めている答えを今は教えるつもりないけど、大切な友人には特別にヒントをあげるよ。」
「ヒント?」
さっきからルカとはどこか会話が成り立っていないように思える。
答えを全部教えてもらおうとまでは思わないが、ずっとごまかされているような気がする。
そして、問い返せば、ルカは俺の方に一歩踏み出してきた。
「テオ、しっかりとその目で見定めて求めないとと何も手には入らないよ」
「は???」
ルカが何を言いたいのか分からない。
そのことが面白かったのかいつもの優しい表情に戻ったルカは俺の頬を摘んで笑い始めた。
「ふは、テオ!!そんな怖い顔すると綺麗な顔が台無しだよー?」
「何するんだ!」
抵抗すればルカはすんなりと手を離してくれた。
話の続きをしようとするが、「週末のために今日も生徒会業務がんばろうかー」といつもの調子でルカは先を歩き始める。
「あ、おい、ルカ……!!」と呼び止めるが、ルカは「クラウス、どこで寄り道してるんだろうね?」と話していた内容は終わりと区切りをつけるのだった。
俺は後に「婚約解消」を言葉にしてしまったことを後悔することになるとは、この時は思いもしていなかった。




