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向かって1番近い席に座ろうとするとルカが「シャーロット嬢の隣に座ってもいいかな?」と丁寧に話しかけ、その場所にルカが座った。
わざわざ選んで座ったルカに違和感を覚えつつも俺は、クラウスの隣に座ることにした。
それぞれ、最近の学院生活について話つつ食事を始める。
俺は黙々と食べながら、ずっと目の合わないシャーロット嬢に話しかけるタイミングを探すが見つからない。
そもそも話す内容も特に思いつかない。
シャーロット嬢は話しかけられて答えているが、この間のような笑顔は見られない。
心がざわつくような気がしつつも、関わろうと思っていなかった気持ちがそれを隠す。
考え込んでいれば、声をかけられた。
「あれ?テオ?」
「え、マーガレット……?」
いつもならすぐ気づけるのに近づかれていることに気づかなかった自分自身に驚く。
マーガレットは自然に俺の横に座った。
「お友達が今日はここに来たいと言ったから一緒に来たところなのだけど、席が空いてなくて別々に食べることになったの。一緒にいいかな?」
甘えたように同席を求めるマーガレットに戸惑いを覚える。
返答に詰まっているとルカが「それは仕方ないね」と言って同席を認めた。
「……同席を許してもらえて良かった……それにしても、男同士のお話と言ってたのに、女の子もいるのね?」
一瞬、不服そうな視線を俺に向けてから口を尖らせたマーガレットに慌てたクラウスが話を続ける。
「これは!そう!たまたま席が空いてなくて困ってたから、偶然居合わせた俺が妹達に声をかけたんだよー」
「な?な?」とクラウスが妹とシャーロット嬢に目配せを送る。
「そうなんですの。助かりましたわー」
「……え?えぇ、ありがたいお声がけでした。」
明るく返答するクラウスの妹に小突かれたシャーロット嬢は小さい声で答えた。
シャーロット嬢は先程からどこか心ここにあらずといった様子だ。
「そうなんだ?じゃぁ、私も混ぜてもらえて嬉しいわ。」と言ったマーガレットがいつもより近い距離にいることを不思議に思っていると、ルカがシャーロット嬢に話題を振った。
「シャーロット嬢は今週末の外泊申請を出すって話してたけど、もしかしてフォトリーンフェスティバルに行くの?」
今日のルカはシャーロット嬢とクラウスの妹に会ってからいつも以上に穏やかに話していることに気づく。
そして、シャーロット嬢とルカの距離の近さに違和感が一層強まった。
最初の席の違和感よりずっと前から感じていた第1の違和感は、ルカの「シャーロット嬢」呼びだ。
ごく一部の親しい友人以外、みんなファミリーネームが主なルカが名前で呼んでいる。
編入生を気にして声をかけているレベルを超えてはいないだろうか?
昨日、質問しようとしていた答えに近づいているような気もする。
「はい!せっかくなので王国一と名高いお祭りに行ってみたくて。エイブリーと一緒にと思っていたのですが、用事があるようで」
「ごめんね。毎年お祭りの日は、必ず家族で集まるようにと、お祖父様とお祖母様から言われていてどうしても行けないの」
「それは残念だね。じゃぁ、代理として僕が一緒に行ってもいい?」
「え!?」
今の会話のどこにルカが行く要素があるの分からず、思わず声を出してしまった。
全員からの視線を受けながらも俺は、仮にも他人の婚約者をデートに誘うルカの考えを探ろうとしたが、相変わらず真意は見えない。




