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放課後になって生徒会室に集まった俺ら3人は過去の書類整理を始めた。
「今日さ、新しいカフェテリアにエイブリーとシャーロットと行ったんだけど、やっぱりいつもの所がいいねって明日は古いカフェテリアにいくことになったんだ。」
「そうなんだ?じゃぁ、僕も明日行ってみようかな。」
「え?」
「……その顔は何?」
「いや、お前来ると古いカフェテリアも混むじゃんか……」
お昼の出来事を楽しそうに話し始めたクラウスにルカが予想よりも食いつき、クラウスは困惑気味だ。
俺はなんとなく話を聞きながら書類に目を通すが、くるくると表情の変わるシャーロット嬢のことを思い出して頬が緩んでしまった。
咄嗟に口元を隠すと、満面の笑みでこちらを見ているルカと目が合った。
「テオ、何かいいことがあったのかな?」
「……うるさい。」
からかうように質問してきたルカは、悪友の1人だ。
フォトリーン王国立学院の入学は割と狭き門として有名なのだが、高等部に進学する直前に前例なく突然編入してきたルカは「変な時期に入ってきた元平民で公爵家の力で編入した」と変な噂を流された。
噂を聞いたプライドの高い同級生に「実力がないくせに生意気だ」と呼び出されて揉めていたところを助けに入ったら、何故最初からその力を見せなかったというほど、圧勝してしまった。
理由を聞けば「相手を見極めてから交渉しないとだからね」と笑ったのを覚えている。
その後、担任教師から「貴族男子として未熟すぎる」と散々叱られた挙句、強制補講で一緒にいることが増えて仲良くなった。
「それにしても、シャーロットがお前と婚約だなんてもったいない!」
向かいに座るもう1人の悪友クラウス・ミシェルが溜息混じりに呟いた。
クラウスは、初等部からの付き合いがある。
大抵のことは気にしないのとシスコンなのがたまに傷だが、よく周りを見ていてみんなに頼りにされている。
なんなら人生で初めての喧嘩をしたのはクラウスだ。
周囲の人間と馴染めず、マーガレットとばかりいた俺に居場所をくれたことには感謝している。
だが、人の神経を逆撫でするのが何故か上手いように思う。
「は???」
「……お前、そんな低い声出せたんだな?」
クラウスが驚いて身を引けば、ルカが隣でケラケラと笑っている。
友人達に遊ばれたような気がして、少し腹立たしさを感じる。
「失礼なこと言うからだろう?」
睨みつけるが、クラウスには効かないらしく、思い出を懐かしむように話続けた。
「いや、あの子はお前には本当にもったいないんだよ!!シャーロットとはグランディナ領へ家族旅行をした際に、出会ったんだけど、エイブリーと2人で遊ぶ姿は本当に可愛くてさ!今では、誰かさんのせいで『美しき華』なんて呼ばれちゃってるけど、可愛いおてんば娘だったんだ!エイブリーと一緒に「クラウスお兄様〜」ってくっついて歩かれたっけな〜」
なぜか嬉しそうに話すクラウスにイラつく。
「そんな話、聞いたことない。」
「いや、そりゃお前にこんな話したところで今まで興味なかったろう?フラメル嬢以外の話にお前が加わっていることに俺は驚いているよ。なぁルカ?」
俺の冷たい声音に慌てた様子のクラウスがルカに同意を求めた。
「えぇ?僕も知らなかったなぁー話してもらえなくて寂しいなー」
「おい!平然と嘘を言うなよ!俺、お前には話したことあるだろうが!!」
ルカとクラウスがいつものように戯れ始めたのを横目に、マーガレットを除いた女性についての話にあまり興味をもってこなかったことに改めて気づかされた。
考え込む俺に、ルカとクラウスは優しく話しかける。
「テオはさ、女の子の話になると上の空になるからね」
「それ以外は、よく聴いて覚えててくれるんだけどなー」
「……それは、今まですまなかった。」
友人達の話を聞かないというのは、人としてあまり良くなかったと反省する。
「仕方ないよ。体調を崩しやすい幼馴染みを気にかける気持ちも分かるし、君の隣には必ずフラメル嬢がいたんだから。」
苦笑いをしながら返答するルカに同意するようにクラウスが、大きく首を縦に振っていた。




