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カイルの考え方に置いていかれかけたが、気持ちを新たに向き直る。
「それこそ、テオ様とマーガレット嬢の問題です。何故そこでお従兄様が?」
カイルが、慕ってくれているからと言って、相手のために傷つける役を自分からするとは思えない。
ましてや、関わる人を選んで揉めないよう上手く立ち回るような節があるのに。
「そうかもしれないね。でもさ、2人が結ばれたら、シャーロットの想いはどこへいくの?」
「知って…た…の?」
驚く私の頭をカイルが優しく撫でる。
「俺は、カイル・クロフォードだよ?あのお茶会の時に傷ついた従妹の顔を見て気がつかないわけないでしょう?」
「……たとえ、例え、気づいたとしても、知らないふりをするべきでした!!」
カイルは子どもの頃、一緒に悪戯を成功させた時と同じ顔をしている。
テオ様を苦しめる原因を作ってしまったのは、私?という事実に血の気が引いていく。
「じゃぁ、例えば、2人の間に入る余地はないって諦めて、親に言われるまま顔も知らない人と結婚して、王都に来る度に2人を見て思い出す。そして、現実に絶望する。俺はね、大切な従妹には幸せでいてほしいんだよ。」
どこまでも無邪気に話すカイルに違和感をもつ。
カイルには何が見えていて、どこを見つめているのだろうと、考えたところで、カイルは薄く笑う。
「お従兄様?」
「シャーロット、貴族の結婚は家同士で行うものだ。だから、本人達の想いは尊重されない。俺の母さんはそれに堪えきれなくて家を出たくらいだし……でもね、俺は、初めて小さな従妹に会った時、君が幸せに生きていくためなら何でもしようと決めていたんだ。だからこそ、テオとマーガレットがちゃんと向き合えるよう手を打った。そして、君とテオの婚姻が決まった。デビュタントのことは腹立たしいけど、結果オーライではあるかな。」
「達成したよ」とでも言うようにカイルが元の笑顔に戻る。
何度も私のためと話していたけれど、マーガレット嬢と婚約をしたカイルはその家同士の結婚に含まれているように思える。
テオ様とマーガレット嬢とカイルの想いを無視して苦しめているのは、「私」で、テオ様に名前を呼んでもらえたことに浮かれている場合ではなかった。
私が、もっと早くテオ様を諦めなくてはいけなかったんだ。
「シャーロット……あ、クラウス!!良いところにいたー」
ここからが1番大事なところなのに、カイルが通りかかったクラウス様に声をかけてしまった。
「ちょ、お従兄様!?話はまだ……」
「カ、カイルさん!?どうされたのですか!?」
教材を抱えたクラウス様が呼び止められて驚いている。
話の続きをしようとするが、もう取り合ってもらえないことに気づく。
「うん。家の手伝いも一旦、落ち着いたからね。今日は復学申請に来たんだよ。」
「そうなんですね!専修科の先生達の会議も終わる頃合いだと思いますよ。」
「ありがとう。それで、君の妹にシャーロットを寮まで送るよう言われたんだけど、君に頼んでもいい?」
「いいですよ?シャーロット、この教材を置いてくるからそこで待っていてくれる?」
クラウス様の言葉に頷いた私は、カイルが軽く「お願いね〜」と手をひらひらさせながら学舎に入っていく姿を見送ることしかできなかった。




