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「ごめんね。マーガレットとの婚約が決まってすぐ、父さんが新しく始めた事業の手伝いに駆り出されちゃて、忙しかったんだよ。届いてた手紙を読んだから、会いにきたってわけ。」
謝ってはいるが、カイルから反省している様子は見られない。
どこまでも楽しそうだ。
「では、お答えいただけるということですね?」
「いいよ。シャーロットのために答えてあげる。」
カイルは、昔から会話の主導権は譲らない。
それが時々、腹立たしく思うことがある。
「はぁ…… お従兄様、マーガレット嬢との婚約はどうゆうことですか?」
ため息をついて、冷静に話しかけるよう心がける。
こちらが、ヒートアップすればするほど、カイルにとっては、この上ない面白いことになってしまうからだ。
「さすが、シャーロットだね。合格。」
カイルが微笑むのを見て、呆れてしまう。
「ふふ、シャーロットせっかくの美しさが台無しだよ?あぁー分かったよ。それがさー、エイデンの親父さんから父さんに話が回ってきてねー。フラメル子爵家が商家とつながりのある家を探していたみたい。」
ひと睨みすると、カイルが観念したように話し始めた。
やっと本題に入れ、ホッとする。
「……では、親同士の決めた婚姻ということですか?」
「まぁ、そうなるね?」
「お従兄様、テオ様のお気持ちご存知でしたよね?」
「えぇー?知るわけないだろう?」
「お従兄様が知らないはずありません。ご存知でしたよね?」
カイルは、空気が読めないのではなく、読まないのだ。
そして、相手に真意を読み解かせなように何十もの鍵をかけている。
だから、テオ様の気持ちを知らないはずがないのだ。
マーガレット嬢と話すテオ様の悲しそうな苦しそうな姿を思い出して胸が苦しくなる。
あんなに幸せそうにマーガレット嬢と一緒にいたテオ様が、私の従兄のせいで辛そうなのは何故なのかずっと教えてもらわなければと思っていた。
「シャーロットはさすがだなぁ……もちろん知ってたよ?でも、あれは……そうだなぁ、おままごとの延長だよ。」
カイルは、簡単に淡々と答えた。
話の見えない私は、カイルが続ける言葉を聞くことに集中する。
「確かに2人は愛し合っていたかもしれないけど、あれは、終わりにするのを怖がっていただけだよ。ねぇ、シャーロット。愛の形って、どんな形をしていると思う?俺はね、形なんてないと思っているんだ。だって、愛って1つじゃないだろう?始まりもあれば、終わりだってある。そもそも愛する人って定義は何も恋した相手だけじゃない。家族だって友人だってその定義に含まれている。」
「……何が言いたいのですか?」
「俺のことを慕ってくれていたテオとマーガレットが前を向けるように手伝ったんだ。『公爵家の王子様』が子どもの頃の約束に囚われたまま自分の想いを見失っていた。あれはね、俺がシャーロットに抱いている感情と同じだったのに目を逸らし続けていた。マーガレットも同じ。あの2人は孤独になるのが怖くて一緒にいたんだよ。」
テオ様とマーガレット嬢の気持ちは、私から見たら本物だったのに、カイルには違く見えていたってこと?
「愛情の種類が違うから引き裂いた」という理由に私の理解は追いつきそうにない。




