29
笑っていたテオ様は受け取った書類を見て、慌てた様子で学舎に戻っていった。
私は、先ほどのことを思い出しながらその場に転がる。
嬉しさで叫び出してしまいたい気分だ。
「シャーロット!!ここにいたのね?探したのよ?」
探してくれていたエイブリーが私に近づき「ほら、淑女が台無しよ」と言いながら、制服についた芝を払ってくれた。
上の空の私は、夢じゃないと確認したくて口を開く。
「ねぇ、エイブリー、私、名前で呼んでもらえた……?」
「何言ってるの?シャーロットのことは昔から名前で呼んでいるわ。」
ふわふわと話す私に、エイブリーは呆れている。
「ち、違うの!!!テオ様に!!名前を呼ばれたのか聞いてるの!!」
咄嗟に説明しようと言葉にしたことで現実味が湧いてくる。
「し、知らないわよ!?どうしたのよ急に?」
「だから、テオ様に「シャーロット嬢」って呼ばれたの」
私の言葉を聞いたエイブリーは目を見開き、両手で思いきり私の肩を掴む。
「少し痛いな」と思いつつ、夢でないことを自覚する。
「待って、待って、シャーロットあんた、テオ様のこと名前で呼んだ?」
「あ、私、テオ様って呼べてる!?ねぇ!?」
「何があったの!?説明しなさい!!!」
はしゃぐエイブリーが、がしがしと前後に揺らしてくるので舌を噛みそうになると、午後の授業が始まるベルが鳴った。
放課後になり、「ゆっくり話そう」とエイブリーに言われ、寮に戻ることになった。
「今日は、なんか混んでない?」と外を見たエイブリーに問われ、同じ方向に視線を向ければ、予想外の人物が囲まれていた。
「お、お従兄様!?」
「え?カイル様!?」
デビュタント前から何度も手紙を送っていたのに、カイルは1つも返事を送ってこなかった。
その前まで定期的にこちらの様子を伺う手紙を送ってきていたのにもかかわらず。
「久しぶりだね。シャーロット、エイブリー。会えて嬉しいよ。」
ニコニコと笑顔を浮かべている様子は前回会った時とあまり変わらない。
さっきまで抱いていた嬉しい気持ちも冷めていく。
「エイブリー、先に寮へ戻ってもらってもいい?」
「え、だけど……」
「エイブリー、俺からも頼むよ。」
エイブリーは、私とカイルを見比べて頷くと「分かりました。カイル様、ちゃんとシャーロットを寮まで連れてきてくださいね!!」と張り切って寮へと向かって行った。
その姿に「元気だねぇ」と、呑気につぶやくカイルを逃さないように手を引いて人気のないであろう場所へ向かうことにする。
中庭の陰に来て、辺りに人がいないことを確認してから、ずっと聞きたかったことについて問いただすことにした。
「お従兄様!!何度もお手紙を差し上げましたのに!!どうして返事をくださらなかったのですか!?」
自然と声が荒くなる。
私の様子にカイルは、益々楽しそうな笑顔になった。
「わぁーシャーロット、怒っているね」
「怒っています!!!」
素直に伝えれば、カイルは満足そうに目を細めた。




