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父が応接室の方へ移動するのを見送ると、笑顔を崩さないエイデン様が「シャーロット嬢、今日は天気が良いので、庭園に遊びに行きませんか?」と提案してきた。
隣にいるテオ様は、相変わらずどこかをぼんやりと見つめて上の空だ。
「お外!?」
「もしかして、お部屋の中の方が……」
「いえ!お外へ遊びに行きたいです!!」
王都にいる間、父が仕事で忙しかったため、屋敷の中で過ごすことが多く、外遊びをしたいと思っていた。
庭園に向かう道中で、エイデン様が簡単に自己紹介の続きをしてくれる。
「僕は、12歳で、今はフォトリーン王国立学院の中等部に通っているんだ。ちなみに、9歳になったテオも今年から同じ学院の初等部に通っているよ。」
フォトリーン王国立学院は、優秀な人材が多く通う学院として王国内では有名だ。
「お2人ともすごいですね」と返せば「シャーロット嬢はグランディナ領ではどのように過ごしているの?」と話をふられる。
「私は、領内の子達と木登りやかくれんぼをして遊ぶことが多いです!」
「シャーロット嬢は、木登りができるの!?」
エイデン様に驚かれ、言ってはいけなかったかもしれないと母の顔を思い浮かべる。
だって、「どのように過ごしているのか」と聞かれたら「遊んで過ごしていた」事実しか話せないのであるから、仕方ない。
領内に戻ってから、母にこの話がバレないように気をつけようと思うのであった。
その後、エイデン様は、12歳ということもあり、兄のように案内をしてくれた。
テオ様は、出会った時から遠くを見つめるばかりでやっぱり目が合わない。
「シャーロット嬢、僕達だけだとつまらないかと思って、幼馴染みの女の子を呼んだんだ。」
エイデン様が、侍従に少女を連れてくるよう指示を送る。
「テオと、同じ歳の子でフラメル子爵家の娘なんだ。母がフラメル子爵夫人と学友で幼い頃から一緒に……」
「マーガレット!!」
エイデンの説明の途中、甘い声が耳に届くと同時に、隣にいたテオ様が少女に走り寄っていく。
「テオ!!」
少女も嬉しそうにそれを待っていた。
先程まで、遠くを見つめ、表情が変わらずに口を開かなかったテオ様は、心底嬉しそうに少女をエスコートし始めた。
それも、完璧な所作で。
「グランディナ様、初めまして。フラメル子爵家の娘マーガレットです。お会いできて光栄です。」
「あ、えっと、初めまして。シャーロット・グランディナです。」
状況に置いていかれて、ぎこちない挨拶を返すと、テオ様に思い切り睨まれる。
その時、初めて見えたテオ様の瞳は、アイオライト色をしていて、綺麗と思うと同時に恐怖を感じる。
「テオ。女の子にそんな視線を送ってはいけないよ。」
エイデン様に窘められたテオ様はマーガレット嬢に視線を戻すと、既に私への興味は微塵もないようで、それからは目が合うことはなかった。




