21
「クラウスお兄様!!?」
エイブリーが「シャーロットに馴れ馴れしくしないで」と私の肩からクラウス様の手を退かそうと躍起になる。
クラウス・ミシェル様は、ミシェル伯爵家長男でエイブリーの兄だ。
「妹よ。兄は、シャーロットと久しぶりの再会をしたのだから、少しくらい許してくれてもいいと思うけど?」
「何言ってるのよ!いつもは生徒会で忙しくて相手もしてくれないくせに!!」
飄々とかわすクラウス様にエイブリーは食ってかかる。
小さい頃は、よく遊んでもらっていたが、クラウス様がフォトリーン王国立学院の中等部に進級してからはなかなか会えずにいた。
背が高くなっていて一瞬誰だか分からなかったが、あの頃と変わらない笑顔を懐かしく思う。
「やぁ、久しぶり!シャーロット!!」
「お久しぶりです。クラウス様、お元気そうで嬉しいです」
挨拶をするとクラウス様は口をあんぐりと開いて、エイブリーに「本当にあのシャーロット?」と失礼なことを聞いている。
エイブリーが誇らし気に「そうよ!!あのシャーロットよ!!」と返すものだから、失礼な態度に「兄妹そっくりだな」と思うのだった。
結局、3人でお昼を食べることになった。
「シャーロット、昔みたいに『お兄様』って呼んでもいいんだよ?」
「……クラウスお兄様、今更そう上手くはいきませんわよ?」
子どもの頃の呼び名を思い出したクラウス様の提案をエイブリーが私の代わりにバッサリと否定する。
エイブリーとクラウス様の懐かしいやりとりに思わず笑ってしまう。
「それにしても、テオはフラメル嬢と婚約すると思ってたんだけど。まさかシャーロットのデビュもごっ!?」
「クラウスお兄様!!」
エイブリーが慌ててクラウス様の口を押さえたが、ほとんどしっかりと聴こえてしまった。
クラウス様は「しまった」という表情をしながら「すまない」と謝る。
私も同じようなことを思っているところがあるため、「気にしてません」と小さく首を振った。
そして、学院に来てからずっと疑問に思っていたことをエイブリーに問いかける。
「もしかして、クラスの人が私を遠巻きにしてるのはそれのせい?」
エイブリーは、クラウス様に「余計なことを言わないで」と釘をさしてから、私に向き直る。
「シャーロット。デビュタントの後は大人の仲間入りになるから、大抵の人に噂がつきまとうものよ。それに、社交界デビューした生徒達は面白おかしく噂話を好き勝手しているだけだから、気にしない方がいいわ」
編入許可後の学院案内中の視線や教室に入ってからの視線、遠巻きにされていた様子に納得する。
これからの学院生活に不安を感じていると、見かねたクラウス様がパンッと手を叩く。
カフェテリアに響いた音で静寂が訪れた。
「学院の生徒の多くは貴族だから、どうしても噂がつきまとってしまうけれど、シャーロットには、ここでの生活も楽しんでほしいと思ってるよ。テオとのことも力になれることがあれば協力するから」
クラウス様に「1人じゃないよ」と言ってもらえたようで、胸が温かくなるのを感じる。
「……クラウスお兄様もたまには良いことを言いますわ」
先程までクラウス様に怒っていたはずのエイブリーは尊敬の眼差しを送っている。
デビュタントに失敗してしまった私は、正直、領地で静かに暮らすだけだと思っていたのに、親元を離れて新しい生活が始まった。
編入試験も寮の準備もあの短期間で行うのは大変だった。
合格してもサイラス様に喜ばれることはなく、むしろ「関わりたくない」と嫌われていることを自覚した。
距離が近くなったからこそ、見て見ぬふりをしていた埋められない差を虚しく思う。
だから、ミシェル兄妹が優しく接してくれることに今の私は感謝の気持ちでいっぱいになっている。
味方がいるだけで、心細さも薄れることを知れたことに「ありがとう」とお礼を伝えた。




