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「シャーロット。今日から同じ学院に通えるなんて嬉しいわ!!」
とりあえず、教室に辿り着いた私は、エイブリーに抱きつかれた。
「エイブリーと同じクラスで良かった」
ただでさえ気乗りしない編入と気まずい婚約話、さらに、回廊での出来事でいっぱいいっぱいになっていた私は、よく知る顔に心の底から安堵した。
同じ教室にいる他の生徒達は、私達を遠巻きにしていることが気になるが、抱きついていたエイブリーに「シャーロットの席は私の隣にしてもらったの」と窓際に案内をされ、聞くタイミングを失った。
窓から見える景色に驚いているとエイブリーが満面の笑みを浮かべていた。
「グランディナの湖と言えるほどの大きさではないけれど、綺麗な泉でしょう?」
「うん、綺麗……」
国境沿いにあるグランディナ領は、隣国との間にルーフエディスという大きな湖がある。
グランディナ領民達には広く親しまれており、隣国との貿易では大きな役目を持っている。
今回の編入による王都暮らしが決まった際、見られる機会が減ると残念に感じていた。
そういえば、サイラス公爵家にも綺麗な泉があったなと思いを巡らしたと同時にサイラス様に拒絶された記憶も一緒に思い出してしまった。
「ここの教室からは学院の泉がよく見えるのよ。シャーロットは実家を長く離れるのは初めてだから私からのお祝い!」
「……ありがとう」
エイブリーからの優しさに泣きそうになってしまう。
振り返ってお礼を伝えると、意を決した表情のエイブリーに「よく聞いて」と言われ、気を引き締める。
「いい?外を見つめすぎて、先生の話を聞いてなかったっていうのは、なしだからね!」
「……ふふ、エイブリー?私は子どもの頃のままではないのよ?」
「授業はしっかり受けてよね」と釘をさすあたり、『おてんば娘』だった頃を知っているだけあるなと思うが、子ども扱いされたことに拗ねてみる。
2人で笑い合っているところに「授業を始める」と教師が1人、入ってきた。
全員の出欠を確認し、授業が始まったー…
昼食時間になり、やっと終わった午前中の授業に「疲れた」と嘆けば、エイブリーに笑われた。
「でも、シャーロット、あなた凄いわ。初日とは思えないくらいに、授業についてきてたじゃない!」
「こんなに大変だなんて聞いてないのだけれど!?」
グランディナの授業も厳しいことでは有名だが、さらにその上をいくことに疲れ果てている。
エイブリーに説明を求めれば、「まだまだ序の口だから、お昼を食べて午後も頑張るわよ!!」と腕を引っ張られ、カフェテリアに連れていかれることになった。
混み合っているかと思ったが、落ち着いた雰囲気に驚く。
「この学院は、初等部から専修科まである王国一生徒が多いと言われる学院で寮もあるのよ?みんないろんなところでお昼の時間は過ごしているわ!例えば、寮に戻ったり、中庭で過ごしたり、カフェテリアもいくつかあるし、屋上も開放されているの。ちなみに、ここは他のカフェテリアより古くてあまり人も来ないからおすすめなの!」
一通り説明をしてくれたエイブリーが「味の保証はするわ!」とウインクをする。
「詳しいね」と返せば、何故か背後から肩に腕を回される。
前に立つエイブリーの表情が変わり、私の後ろから懐かしい声がする。
「エイブリー?それは、俺が教えてやったことだろう?」




