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「グランディナ嬢、編入を認める。それと、テオ・サイラスくんとの婚約が正式に決まったそうじゃないか。おめでとう」
フォトリーン王国立学院への編入手続きが終わると、学院長にお祝いの言葉をもらった。
「ありがとうございます」
正直、気が重いし、婚約が決まってから、編入試験やら寮準備で目まぐるしく、サイラス様本人とは会えていない。
ため息をつきたくなったところで、学院長室にノックの音が響いた。
開いたドアの先に柔らかい笑顔の青年が1人立っていた。
「入りたまえ」
「失礼いたします」
「グランディナ嬢、こちらはフローレス公爵家のルカくんだ。生徒会長として、案内を頼むよ」
「かしこまりました」
簡単な挨拶を終えると学院長室から早々に出され、学院内を案内されることになった。
フローレス公爵家と言えば、フォトリーン王国が建国される前から続いていることは貴族の誰もが知っている事実だ。
王国筆頭であるフローレス公爵家のご子息が学院に通っていることは有名なので知っていたが、まさか編入初日に会うと思っていなかった私は話しかけることもできない。
「君が、テオの婚約者になったんだね」
フローレス様は、柔らかい笑顔のまま率直な話し方をする。
身長は、サイラス様とあまり変わらないくらいで、少し猫っ毛なのか毛先がくるんと跳ねていて可愛く見える。
生徒会長として人気もあるようで、回廊を歩けば多くの生徒からの視線を感じる。
隣にいる私もその視線に晒され、落ち着かない。
「フローレス様、あの……」
「ルカ」
「はい?」
「僕の名前は、ルカ。君には名前で呼んでほしいな」
フローレス様に優しく微笑まれながら、名前呼びを許してもらったことをなかなか受けられずにいると「ダメ?」と寂しそうな顔をされてしまった。
断ることができない空気をひしひしと感じる。
「……わかりました。あの、ルカ様!先程からある皆様の視線にそろそろ堪えられそうにないです!」
「フハッ、シャーロット嬢は素直だね。君のおかげで学院生活が楽しくなりそうで、僕は嬉しいよ。これから、よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
どこかとても嬉しそうなルカ様に改めて挨拶を返せば、よく前を見ていなかった私が悪いのだが、人にぶつかってしまった。
「も、申し訳ありません……!!」
慌てて謝れば、怪訝な顔で立つサイラス様がいた。