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婚約の顔合わせから3週間が経った。
新学期からは、王都にあるフォトリーン王国立学院へ編入するよう公爵夫妻に頼まれてしまえば反論はできない。
「どうしたらいいのよ……」と、この先を考えて絶望いているとミアから「そう仰らずに」と窘められる。
「むしろ良かったではないですか?デビュタントダンスの件は今でも腹立たしいですが、同じ学院で過ごすことで何か進展するかもしれませんから!」
ミアは、明るく話しながら髪を櫛ですいてくれる。
兄弟のいない私にとって姉みたいな存在のミアも一緒に学院の寮についてきてくれたことに心強く感じている。
「……どうせ相手にもしてもらえないわ……」
今までのサイラス様を思えば、マーガレット嬢のことを一緒に思い出す。
きっとこの間のようにそっけなく怒るだけで、マーガレット嬢の傍を離れない結論が考えなくても出る。
そもそも学年が違うのに私が一緒に過ごせることがあるのだろうかと思考を巡らす。
ミアに私の声は届かなかったのか、頬をさらに緩めておしゃべりを続けている。
「噴水……いえ、恋に落ちて熱を出して帰ってきた日のお嬢様を忘れたことはありません!あの日に誓ったのです!この私の腕と知識をフル活用してでも成就するようお手伝いすると!!」
「はぁぁぁ……」
深いため息で否定の言葉を飲み込む。
あの顔合わせから1週間して、あんなに婚約に否定的だったのにも関わらず、正式な婚約が決まってしまった。
デビュタントを台無しにした相手との結婚に両親が何故同意したのか問いかければ、重々しい空気になって「娘の今後を思うと婚約の申し出を断ることができない父を許しておくれぇぇ」と、母に父が泣きついていた。
隣国との交渉を上手く行ってきた父とは思えない姿に今も驚きが隠せない。
そもそも公爵家から婚約の申し出とはいえ、あそこまで当人に拒否されたのだから、婚約を白紙にする方向が普通だと思う。
それなのに、公爵家の方の婚約する意思が固いなんて矛盾だらけで訳が分からない。
サイラス様がガゼボで強い拒絶をした後にエイデン様から「弟は、初恋の人を奪われたと思っているようだけれど、テオは、本当の恋を知らなかった己から目を背けて拗ねているだけなんだ。どうか許してやってほしい」と丁寧な謝罪をされた。
実際、従兄様が奪っているのだから、サイラス様の感情は何も悪いことではない。
だって、サイラス様が常に見つめていたのはマーガレット嬢。
それを本当の恋と言えなければなんと言えばいいのだろう。
考えても答えは出そうにないし、一生懸命応援し続けてくれたミアの嬉しそうな顔を見ていると何も言う気力が湧いてこない。
「お嬢様!今日もお美しいですし、フォトリーン学院の制服もよくお似合いです!!」
「……ありがとう」
身支度を整え終わると満面の笑みでミアが送り出してくれる。
『美しき華』なんてあだ名で社交界では好き勝手言われているようだけれど、本当の私には『好きな人に認識されない女』という方がピッタリだと思う。