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「ここが、サイラス公爵邸の庭園で1番見応えたのある場所です。父が母のためにグランディナ領の湖を模して造らせたそうです」
泉の横にあるガゼボに案内をすると、思いつめたグランディナ嬢の表情が少し和らいだのを感じる。
そよそよと吹いた風でグランディナ嬢の髪と泉の水が柔らかく揺れた。
それに合わせて、反射した光が優しくガゼボを満たす。
思わず、見惚れてしまった。
視線に気づいたグランディナ嬢は、不思議そうな表情に変わる。
「……お茶を用意せさます」
控えていた侍従にお茶を用意するよう頼む。
婚約が白紙になることを確信している俺は、久しぶりに上機嫌だ。
先程、見惚れたのも問題が解決しそうな嬉しさで質問するタイミングを失っていただけだと思い直す。
だって、この婚約の噂を聞いたマーガレットが屋敷に訪ねてきてくれればいいとさえ思っているから。
「……いえ、特にもてなしていただく必要はありません。父と母の話が終わるまでここにおりますので、サイラス様は自室にお戻りいただいても構いません。」
温度のない声音で断られ、思わず首を傾げる。
デビュタントの時は黙り込んでいたし、さっきの顔合わせでは穏やかに話していたたため、ハッキリと意見を言葉にされ驚いた。
「グランディナ嬢は、俺と婚約するために王都までお越しくださったんですよね?」
「……そう、ですね」
グランディナ嬢は歯切れの悪い返事とは対象に視線はどこまでも真っ直ぐだった。
思わず息をのむ。
一瞬吸い込まれそうな錯覚をしたと同時に……自分の鼓動は早まったことを不思議に思った。
言葉を続けようとしたら、グランディナ嬢が先に話始めた。
「サイラス様は婚約を希望しているようには思えません」
正論を言われて思わず固まってしまったが、俺は面白くて仕方がなく、上機嫌も相まって、俗にいう大笑いをしてしまった。
怪訝そうな視線を向けられれば向けられるほど笑いが止まらなくなってしまい、作り上げた『公爵家の王子様』の仮面も剥がれてしまったように思う。
「ハハッ……君は、素直な人だね。フフッ」
「……笑う要素はないと思いますが?」
グランディナ嬢に、プイッと顔を背けられ、こんなに笑ったのはいつぶりだったのか思いを巡らす。
「ごめんごめん」と謝っていると、ガゼボに近づく人影があった。