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「……ウィリアム、少し時間を作っていただくことは、可能か?」
「あ、あぁ!もちろんだとも!」
空気が凍りつくような閑談が落ち着くと、辺境伯夫妻は、父と母に話の申し込みをした。
辺境伯様が、俺の態度の悪さに「この縁談はやはりなかったことにしたい」という話になれば計画通りと言える。
「テオ、シャーロット嬢に庭園を案内してきなさい」
「分かりました」
父と母に向けて満面の笑みを送ると呆れた視線を返された。
「……では、参りましょうか?」
笑顔を作って手を差し出せば、ぎこちなくグランディナ嬢の手がのせられる。
両親と辺境伯夫妻の視線を感じながら、部屋を退室した。
先程まで、明るく振る舞っていたグランディナ嬢は思いつめた表情に変わったように思う。
「……案内はしますが、特にエスコートは必要ありませんね?」
笑顔で問いかければ、「はい」とだけ小さく返事をして俺の後ろをついてくる。
今のこの状態に文句のひとつでも出てくるのではないかと予想していたが、何も言ってこない。
どちらも会話がないまま庭園にある泉に向かって歩くだけだった。
公爵家の人間として、政略的婚姻が必要なのは理解している。
頭では理解しているつもりだ。
サイラス公爵の名を継ぐ長男のエイデンは、昔から両親の理想のままに育ってきた。
それに比べ、次男である俺はそんな兄を横目に割と自由にさせてもらっていたように思う。
だから、エイデンがこの先、政略結婚をしたとしても俺には関係ないと思っていたし、公爵家を継がない俺は初恋の人であるマーガレット・フラメルと結婚できると考えていた。
しかし、マーガレットはカイルと婚約をした。
よく遊んでくれていた兄の友人であるカイル・クロフォードには今も苛立ちが隠せない。
近くで俺の想いを知っていたはずなのに、何故?
子どもの頃、マーガレットと「大人になったら結婚しよう」と約束したことがある。
それから、父に結婚を認めてもらうために、フォトリーン王国立学院への入学も決め、真摯に取り組み、社交界では人当たり良くいられるよう心がけてきた。
そうしてつけられたあだ名がグランディナ嬢の言った『公爵家の王子様』。
兄のように完璧でいられるよう目指したし、当たり障りなく誰とでも関係を築けば、マーガレットとの結婚に有利だと考えていたから、妥当なあだ名だと思っている。