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「ロレッタ!あの、おてんば娘だったシャーロットが美しいレディになったんだな!」
「えぇ、本当に!シャーロット、母は嬉しいですよ……」
「お嬢様、大変お美しゅうございます!これで、誰しもがお嬢様の虜です!」
涙ぐむ両親やミアを始めとした屋敷中の者達に「お美しくお育ちになられて……」と盛大に泣かれる。
幼い頃のお転婆具合を思い出すと、手をやかせてしまったなと少し反省した。
屋敷の前にサイラス公爵家の馬車が到着した知らせを受け、エントランスに向かうとさらに美しく成長したサイラス様が正装姿で立っていた。
「テオくん、大きくなったなぁ!突然の要請に応えてくれて嬉しいよ。ありがとう。」
「グランディナ辺境伯様、本日は、お嬢様のデビュタントおめでとうございます。」
大喜びで出迎えた父にサイラス様は、にこやかに挨拶をした。
想像よりも明るく見えるサイラス様に心のどこかで安心した気持ちになる。
もしかしたら、カイルとマーガレット嬢の婚約の件を私が勝手に気にしていただけかもしれないと思い、呼吸を整えた。
「今日は娘のエスコートを頼むよ!!」
「……お任せください。」
父の言葉に、サイラス様がニコリと微笑み返せば、母が「まぁまぁ本当に私の娘は見る目があるわ〜」と嬉しそうに頬を染める。
外見からはサイラス様だと分かるが、お茶会での冷たい印象をもっていた私は、あまりにスマートな応対に「誰?」と言いたいところを飲み込む。
そして、この居心地の悪い空気から早く抜け出したくなり「よろしくお願いいたします」と早々に馬車に乗せてもらうことにした。
涙ながらに見送る両親と屋敷を後に、城へ向かって馬車は出発した。




