その十二 告白
クラークは、何となく三人が帰っていく様子を感じ取っていた。やはり父親には敵わなかったのかと思っていると、独房の扉が開いた。
「よし、こい。尋問の時間だ」
クラークが連れてこられたのは、戦争映画で見るような拷問部屋ではなく、刑事ドラマなどで見るような尋問室であった。特殊ガラスの向こうには、何人かの専門家や上層部の者たちがいた。
クラークはその気配を感じ取り、クレヤボヤンスで見て、テレパシーで聞いていた。特殊ガラスもヘルメットはもう意味をなさなくなっていたが、黙っていた。
「あいつがやってきたことを知らんのか。尋問も拷問も通用するとは思えん」
「だから、あれを使うんだ。見ろ、最新式だ」
すると、尋問官とウソ発見器をもった博士が入ってきた。
拘束衣で閉じ込めていた腕の片方だけを解放され、博士によってクラークの心拍数を図る装置を腕に取り付けられる。パソコンに、クラークの脳波データが映し出されたのを確認する。
「では、これから答える質問にはすべて、いいえと答えてください」
「……いいえ」
ビーっ! と、嘘をついたことを知らせる、大げさなくらい大きなサイレンがなった。
「……良好ようだ。始めていいぞ」
博士が確認すると、尋問官は続けた。
クラークはその間、今までの自分の行いを回想していた。順番は問わない。その質問から思いついた出来事であった。
「あなたは、クラーク・ロジャースですか?」
「いいえ」
ビーっ!
学校。その名を呼ばれてよく怒られたり、いじめられたりした。自分の名前ではなかったらと思った時もあった。
正確にはどうだったか忘れたが、自分の名前を卑猥な言葉とつなげていじめてきた子がいた。もう我慢ができなくなって彼女の名前を馬鹿にしたら、彼女を泣かせてしまった。演技だと思った。よく見たら本気の涙だった。自分にとって名前は腹立たしいものだったが、彼女にとって名前は重要だったのだ。
「クラークさん、あなたは男ですか?」
「いいえ」
ビーっ!
大学にいた頃、その容姿を女だと間違われて上流階級のエリート大学生たちに襲われたことがある。一人を思い切って殴ると、彼らは女でも男でもなく、化物を見るかのような目をして逃げていった。
何年かした後、その中にいた一人を街中で見たことがある。彼はすっかり立派になって、美人の妻とかわいい娘を連れて楽しそうに映画館に来ていた。ばったり目が合うと、彼は叫びだしそうなほど蒼白とした。その時は自分を襲った彼だとは思い出せなかった。被害者の自分にとっては忘れるような出来事だったが、加害者の彼には強烈だったようだ。
「クラークさん、あなたは軍人ですか?」
「いいえ」
ビーっ!
士官学校にいた時は海軍に入隊しようと思っていた。しかし、教官から集団行動に向いていないと言われた。そして勧められたのは、工作員やスパイであった。政府公認の大ウソつきにして殺し屋。数々の過酷な任務を行ってきたが、その手際の良さと痕跡の少なさ故に、世界各地にいるその類の者たちの中では全くの無名であった。
「クラークさん、あなたは人にない力を持っていると思いますか?」
「いいえ」
ビーっ!
自分の力を認めてくれた者たちがいて、彼らにある部隊にスカウトされた。ドゥームズのような脅威になりうる超常存在に対抗するための特殊部隊。
ある事件をみんなで解決した後、仲間たちと打ち上げをするはずだった。クラークは妊婦を助けるために遅れた。遅れてついてみると、待ち合わせたバーにはパトカーと消防車が止まっており、店と中にいた人たちは灰になっていた。狂ったカルト教団の一員が、黄色人のパブと間違えて放火をしたのであった。
それ以来仲間も相棒もつくらず、一人で任務を行うこととなった。
「クラークさん、あなたは人を殺したことはありますか?」
「……いいえ」
ビーっ!
小学校を中退した後は、サーカスで脱出芸を披露して小遣いを稼いでいた。
団長に遊びに行ってもいいと言われ、一団が主催する移動遊園地に行っていたときに事件に巻きこまれた。逃げ惑う人々。そこら中から聞こえる悲鳴。そこら中で上がる爆発音と火炎。彼らの恐怖の気持ちに支配されそうになったが、押しとどめた。
そんな地獄のような状況の中で強烈な悪意を感じた。車いすに乗った男であった。何でこんなことをしたのかは、気持ちを感じ取って大体のことはわかった。しかし、許せなかった。気がつくと、スイッチを押してさらに強力な爆弾を起動させようとした男の頭に、レンガを叩きつけていた。
目が覚めると、初めてのクッション張りの部屋で、初めての拘束衣を着せられていた。脱出できたがしなかった。する気が起きなかった。今この時と同じ気持ちだった。
「クラークさん、あなたは自分が正しい人間だと思っていますか?」
「いいえ」
ビーっ!
南アメリカ大陸にある一部の州が、再び国として独立しようと紛争を引き起こした。それを鎮圧するために、合法的な暴力を求めたチンピラどもと共に、アマゾンに派遣された。そこでは数えきれないほどの敵兵を殺害した。正しいことだと信じて。
しかし、老若男女問わず、市民に対しても虐殺を行うよう命令をされた。正しいことだと思えなかったので、命令を拒否した。すると、隊長は自殺するようにと、拳銃を渡してきた。その銃で隊長の眉間を撃ち抜き、銃を放ってきた隊員たちを全員殺害した。逃げていった最後の一人は、後ろから頭にめがけて石を投げて殺害した。もう後戻りはできない。
生き血を浴びた殺人鬼の姿を見て怖がる市民を解放して、船で逃がした。
その後、おとなしく自首した。今までの行動から、精神疾患とみなされて何度目かの精神病院に入院させられた。クッション張りの部屋にいた時にクレヤボヤンスで見てみると、助けた彼らは、新天地で元気にしていた。
反省はしたが、後悔はなかった。
「クラークさん、あなたはウェポンドーターズが好きですか?」
「……いいえ」
ビーっ!
初恋もウェポンドーターズ。彼女はヴィクトリー。今も死んだことが信じられないでいた。もしかしたら、まだどこかで飛び回っているのではないだろうか?
「クラークさん、あなたは人間ですか?」
「いいえ」
ビーっ!
化物。そう呼ばれた。しかし、自分では人間だと思っていた。どんなに過酷な任務を遂行し、敵を大勢殺しても、称賛されることはあまりない。ただ恐れられる。思い返せば、子供の時からそうだった。よい成績をとったらロボットと馬鹿にされ、剣道の試合に勝った帰りに相手選手の親に銃弾を放たれたが避けて、殴り返したら化物と呼ばれた。
「最後に聞きます。クラークさん、あなたはドゥームズですか?」
「いいえ」
静寂。無音。
「ありがとうございました。今日はこれで終了します」
尋問官と博士は出て行った。
クラークは、再び独房に移された。その後、ヘルメットに故郷の光景を映し出した。
一方、本部の研究室。
エージェントの一人が研究者から、クラークの遺伝子調査に関する報告を聞いていた。
「奴が献血に熱心で助かったな。おかげで容易かつ一定量以上の血が手に入った。もっとも、ドゥームズの血が人間に輸血されるなど恐ろしいが。で、結果はどうだ?」
「……百パーセント人間ですね」
「……はっ⁉ そんな、バカな!」
「超能力は確かに持っているようですけど、WDの染色体や細胞の反応もありませんね。血液を熱したら、普通に蒸発しましたし。WDのものだとそうはいかないし、ドゥームズは血になった途端すぐ蒸発するはずですしね。そもそも、ドゥームズの血は青や緑なのに、彼の血液はしっかり赤いですし。それよりも、彼は複数のガンや病原体に対して抗体がありますね。こっちの方がすごいですよ、金になりますね。ホント」
「だ、だが、超能力者はWDどものような女しかいないはずだ! 生まれつきならなおさらだ! なんだ、サイボーグか? 奴が倒してきた化物のような、人外の類なんじゃないか?」
「……えっと。女しかいないっていう証拠もありませんよ。女性しか確認されていないだけで。もしかしたら、大発見じゃないですかね? 普通の人間じゃ彼女たちのそれには耐えられませんけど、彼ならいけるかも。これで子孫残して、超能力者を増やせますよ」
すると、他のエージェントが大慌てで研究室に飛び込んできた。
「クラークを解放しなけりゃならなくなった!」
「は? どういうことだ⁉」
「アーサー・ロジャース准将の命令で……上層部も承認済みだ」
「は? あの人が命令したのに!」
「ああ、あの准将にも人の心があったんですね。息子を気に掛けるとかいう……あの人の方を調べたいですよ、ホント……」
「黙れ!」と、何を言っているかわからないくらいの怒声で叫んで、エージェントはそばにあった安くも軽くもない機材の一つを悔しそうに叩き壊した。
「……新しいのが買えますね、ホント」
そうして、クラークは拘束衣と特製ヘルメットから解放された。
(ナナ、スラスター、ブラスト。ありがとう。しっかり伝えないと)
釈放のため、鋼鉄のドアが延々と続く監獄の暗い廊下を歩いて行く。自分が倒してきた悪党、化物たちが、そのいくつものドアの向こうから怒りと恨みの思念をよこしてくる。
(ふざけんな、化物! お前も同類だろうが!)
(ここにいろ! そして死ね!)
(お前こそ地獄に行くべきだ!)
(てめぇは何でそこにいるんだ! 自分でもわかってんだろ! 自分が悪党で、怪物で、誰よりも、そうだ、ドゥームズよりもタチが悪い悪魔だとな!)
クラークはその怨念を心で受け止めながら、釈放された。
クラークはアーセナルに向かう飛行機に乗っていた。やはり初めてやってきた時と同じパイロットだったが、前と違ってクラークのことを明らかに恐れているのが感じ取れた。さらに前と違うのは、両脇に大男、周りに武装した精鋭部隊がいることだった。
「おい、ロリコンやろう、いや、ペドフェリアか? むさくるしいのは嫌いだろ?」
そう煽る隣にいる兵士に、クラークは無表情なのに圧力を感じる視線を向けた。それから、もう見張りたちは何も話さなくなった。
ある地点まで来ると、アーセナルに降下するためにパラシュートを渡された。
「……。あなたのをください」
「は? なんでだよ? 殺す気か?」
クラークはパラシュートの気づかないような壊れた個所を見せつけた。
「あと、この下はアーセナルじゃない。メェーン州のストーンタワーだ」
「……ちっ」
飛行機はおとなしくアーセナル上空に向かった。
そして、クラークはパラシュートを背負って降下する。風と重力を感じながら降下していく。すると、危機を感じた。
飛行機から発射された弾丸を素早くよける。飛行機から兵士たちが機関銃を放っていたのだった。クラークは地上に落ちていくスピードを調整しながら、弾丸を避けていく。
「おい、あれも寄こせ!」
すると、兵士たちが取り出したのは、バズーカだった。兵士たちは躊躇なくそれを発射した。
(そんなに、僕のことが嫌いなのか)
「クラークさん!」
可愛らしい声が聞こえた。すると、その声の持ち主はクラークを上空で抱き上げ、バズーカから避けさせた。地上に落ちる前に、ビームを撃ってバズーカ弾を爆発させる。
「ちっ! 撤退するぞ!」
飛行機はそのままクラーク暗殺をあきらめ、基地に戻って行った。
なびく美しい髪、細くて柔らかく、優しいのに力強い腕。そして、可愛らしくもたくましい表情。
「……ヴィクトリー?」
逆光で見えなかったが、それがなくなるとナナのふくれっ面が見えた。
「……ナナ! ありがとう。助けてくれて」
「む~! ワタシのこと、ヴィクトリーさんと間違えましたね! あんまりです! ふ~んだ!」
そう怒ってプイとそっぽを向いたが、目を細く開けて、クラークがどんな顔をしているか面白そうに見ようとしていた。
「ナナ。ありがとう」
「ふふ。いいですよ。ワタシも、クラーク司令官にはたくさん助けられましたから」
「僕、まだ司令官じゃないんだ」
「ふふ、知ってますよ。だけど、絶対司令官になってもらいますから!」
アーセナルに降りると、ウェポンドーターズたちが嬉し涙を流しながら笑顔で駆け寄ってきて、クラークを囲んだ。
「み、みんな……」
「おかえりなさい、クラークさん! し、心配したんですから……」
「く、クラーク……ぐす、あたしは、し、心配なんてしてないからなぁ!」
「クランたち、クラークさんに感謝してます! ありがとう!」
「ありがとうです! そして、これからもよろしくですです!」
「ウフフ。みなさんもこの子たちも、私も、あなたの帰りを待っておりました」
リトルWDたちが、テーカの後ろから出てきて、みんなで抱き着いてきた。
(おかえり……パパ……)
「ま、あんたならどっか行くわけないって、ビチャンたちはわかってたからさ~」
「ぐす、嬉しいのに、涙が……う、うえ~ん……」
「……ブツブツ……」(……もう会えないんじゃないかって心配だったっすけど、そんなことなかったっす……寂しかったっす)
彼女たちから、喜び、感動、個々人様々な愛の感情が伝わってきた。
「……みんな、僕のことをそんなに、心配して、くれたのか」
「そうですよ。だから、もう無理はしないでくださいね?」
「ナナ……だけど、みんな。僕は君たちのためならどんな無理もするよ。だけど、また必ず帰ってくる。だから、君たちも死なないでくれ。いや、僕が死なせない」
「クラークさん……わかりました。もう、いろいろ凄すぎです。あなたが無理しないように、ワタシたちはもっと強くなりますね!」
みんなも、その気持ちは同じであった。みんな、クラークのことが大好きだった。
「……何より、助けてくれてありがとう。ナナ、ブラスト、スラスター、みんな」
そのクラークの優しい声を聞くと、みんなは泣きそうになったが我慢した。
クラークと再会をしたのち、またみんなは訓練や授業、任務に戻って行った。またすぐ会えるのに、もう名残惜しそうに振り返ってくる子たちもいた。
「いるよ。大丈夫だから。無理しないで」
「はい!」
そう元気に返事をしてスラスターは駆けだしていたが、ブラストはチラチラと振り返っていた。そして、笑顔を返して空に飛んで行った。
みんながいなくなると、ナナが恥ずかしそうに、軍服のすそを引っ張ってきた。
「どうしたの?」
「えっと……ん……クラークさん、少し、お話したいことがあるんです」
「……ああ」
クラークには、察しがついていたが、しっかりと彼女から言葉を聞きたかった。
二人は、誰もいない海岸にやって来ていた。そこから見た夕日の沈む海は、ソートグラフィーで映し出した時に思い出した、故郷の海から見えたのとそっくりだった。
「クラークさん、もう、わかってると思いますけど……」
「……ああ。僕にも、君たちとは少し違うけど特殊な力がある。そして、それで君たちの心を覗き込んでしまったことが多々ある。だから、君が僕をどう思っているかも知っている。ものすごくうれしい」
ナナは目をキラキラさせて、またモジモジと恥ずかしそうに言った。
「クラークさん……ワタシも、そう思ってもらえてうれしいです……だけど、その……」
「……ナナ」
「ごめんなさい、ワタシ、あなたに心の中に語り掛けてもらった時に、つい、気になっちゃって、あなたの心を覗き返してしまいました。ほ、本当に、ごめんなさい、ひどいですよね……」
「僕もみんなの、君の心を見た。僕の方が悪い」
「クラークさんは悪い人じゃないです! もう、自分の事を責めないでください……」ナナは、クラークを思うと涙が出ていた。(クラークさん、ワタシ、あなたが今までどんな気持ちでいたか、知ってしまいました……それで、わかっちゃったの……)「クラークさんのことは大好きです! とっても大好きです! ……だ、だけど・・・・・・ワタシじゃ、あなたを支えきれません……ワタシじゃ、あなたの、心を、愛情を満たせません……それに……」
「ナナ! 僕なら……」と、クラークはナナを抱きしめようとしたが、立ち止まってしまった。これ以上ないくらい、自分の手が震えている。「ぼ、僕は……あ、ああっ……」
(ああ、そうか。ナナが気づけたのに、僕自身が気づいていなかったなんて……)
「そうだ、ナナ。僕は、愛されることが怖い。慣れてないんだ。憎まれることの方が慣れている。だけど、愛のすばらしさは知っている。そして、それが突然なくなる恐怖はもっと知ってる。だから……僕は……」
「ぐす……ううっ……クラークさん、ワタシは、一生、たぶん、あなたを支えられて満たせる人にはなれないと思います。だけど好きだって、愛してるってことは知っていてほしくて……」
「ナナ、僕はもう十分……」
「やめてください! 苦しいんです……わかりますよね?」
「……ああ」
「だけど……」ナナは涙をぬぐい、俯いたクラークに歩み寄る。「クラークさんを少しでも幸せにできたらなって、思ってます。みんなもです。みんなも、あなたのことが大好きです。ワタシだけがあなたを幸せにできなくても、みんなでなら、あなたのことを幸せにできると思います」
「……え?」
「だって、ほら、こんなに女の子がいっぱいいるんですよ! もう幸せでしょ!」
「……いや、そうだけど……あ」
「し、幸せなんじゃないですか! ふんっ! もういいです!」
そう言って、ナナはプイっとそっぽを向いてしまった。
「ナナ。僕も君の愛には答えられないかもしれない。僕もずっと怖がるかもしれない。だけど、支えようと思うよ。君の思ったような形じゃないだろうけど、君を愛してる」
「……クラークさん……」ナナは振り返って涙をぬぐって、笑顔で言った。「わかりました。満足してあげます。ワタシはとっても強いですから」
「ナナ……」(最悪だ、僕は。なんだ? 無理してでも答えるべきだったんじゃないか? だが、ウソをついて何になる? それで本当にこの子を幸せにできるのか? いや、そんなことを考えている時点で言い訳なんじゃないか? そもそも何しにここに来たんだ? 彼女たちを支えるためだろ? 愛し合いに来たわけじゃない。愛を探しに来たんじゃない。彼女たちのためなら何でもするために、ここに来たのだ)
「その代わりに……ワタシのハジメテ、受け取ってくださいね?」
「ナナ……?」
ナナは目をつむり、つま先を伸ばして……キスをしてきた。クラークはナナが楽になるように少しかがんで、ただそれを優しく受け入れていた。
「……ん……やっぱり、背高いです……キスする時どうしようって思ってたんですけど……え、ああっ⁉ いや、さっきのは……その……ううっ……」
「ナナ、よかったよ」
「……ううっ……恥ずかしいです……あの、二回目も受け取ってくれますか?」
「……いいよ」
そう優しく言われると、ナナはうっとりとした様子で、クラークに再び唇に口づけした。
「ん……」(わぁ……やわらかい、あったかい……なんか、幸せ……どうしよう、やめられない、ごめんなさい、ワタシだけ、なんか……だけど……)「クラークさんっ……⁉」
ナナはクラークを砂浜に押し倒して、馬乗りになって貪るようにキスをしていた。
(はっ! わ、ワタシ、何を……⁉)
「あ、ああっ……ご、ごめんなさい……クラークさん……」
「……えっと、うん」
ナナは息を整えると、やっと自分がクラークに馬乗りになっているのに気づいた。
「ひぅ⁉」(こ、これって、まるで……)「あわ、わぁ……」
ナナは顔を更に真っ赤にして目を回し、クラークに倒れ込んでしまった。クラークは優しく彼女を受け止めて、両手で抱きかかえた。
クラークはナナを抱えながら、砂浜を歩いて帰っていく。
ナナは気がついても、クラークから離れようとしなかった。
「クラークさん……大好きです……」
「ありがとう」
「もうちょっと、こうしていていいですか?」
「いいよ」
ナナはその優しい返事を聞くと、もっと身を寄せた。
(今日だけは、いいですよね? クラークさんをひとり占めして……)
「うん」
「クラークさん」
「なに?」
「やっぱり、まだ、ヴィクトリーさんのこと好きですか?」
「……もう、すんだことだ」
「……クラークさん、もし、寂しくなったり、つらいことがあったら言ってくださいね?」
「ナナ……」
クラークは、思わず立ち止まってしまった。今まで、ナナやウェポンドーターズたちが自分にしてくれたことを思い出してしまった。
(みんな、生きている。優しくて、いい子たちだ……僕が、守らないと……)
「……ありがとう。あんなに優しくされたこと、久しぶりだったんだ」