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その十 再来する悪魔軍勢の巻

 クラークは、いつも通り事務作業を終えた後、リトルWDに霊感の制御を教えてあげたり、一緒に遊んであげたりしていた。

 周りでも、休憩になったWDたちが昼食を取ったり、友達と一緒に娯楽街に遊びに行き始めていた。

 みんないろんな表情をしている。ドゥームズと戦えるような、凄まじい力を持っているとは思えないほど、普通の女の子たちに見える。

 ずっと、そう言う日々を彼女たちに過ごしてほしいと思っていた。

 リトルWDたちも、テーカが作ってくれた昼食を食べに戻ろうとした。

(クラークさんも、一緒に食べませんか?)

「ああ、じゃあ、後でお弁当を持って行くよ」

 その返事を聞くと、みんなは笑顔になった。

(じゃあ、待ってます!)

 リトルWDたちは同時にお辞儀をして、トコトコと走っていった。

 今度は遠くから胸をドキドキとさせて、恥ずかしがりながら誰かがやってくる。

 待ってみると、ナナがお弁当を入れたバスケットを持って走ってきた。

「クラークさん!」

「ナナ? どうしたの?」

「クラークさんに、お弁当を作ってきたんですけど……お昼、まだですよね?」

「ああ。今から、リトルWDたちのところに行って、一緒に食べようと思うんだ」

「あ……そうでしたか……」(一緒に、二人っきりでまたお話したかったんだけどな……)

(ごめん。ナナ。君が僕のことを好きでいてくれるのはわかってるんだ。だけど、僕が君に務まるとは思えないし、人間とWDでは、どうすればいいかわからない。だけど、その思いには、いつかなんとかして、答えたい……)

「よかったら、みんなで食べない?」

「い、いいんですか⁉ はい、喜んで! えへへ……」

「カゴ、持つよ?」

「えへへ、じゃあ、お願いします……」

 クラークが彼女からバスケットを受け取ろうとした時だった。

 凄まじい悪寒。昔じかに感じた、懐かしい凍りつくような大量の悪意ある気配がした。クレヤボヤンスでその方角を見てみる。そこは、畑がたくさんある閑静な郊外の街。

(間違いない、ドゥームズの気配⁉   早く、みんなに知らせないと……)

 その察知、行動と判断は一秒にも満たなかった。

 クラークは受け取ったカゴを落としそうになったが掴んで、ナナに返した。

「ど、どうしたんですか……?」

 ナナが何か悪い事をしたのかと、クラークの顔を見ると、彼の顔は蒼白としていた。

「あ、あの……」(え、い、イヤだったのかな……本当は、ワタシと一緒にいるの……)

「ごめん、ナナ。先に行ってて」

 一言だけ残し、クラークは困惑するナナをおいて行って管制室にダーッと走っていった。


 ゴミや着替えで散らかり、もはや一人の少女の自室となった管制室。

 くたびれたジャージでノーパン姿のWDマグは、退屈そうにあくびをしながらお昼ご飯を買いに行こうとした。そこに、バンッと、ドアを開けてクラークが入ってくる。

「うわ、クラーク・ロジャースじゃん……え、えへへ、どうしたんです?」

「ごめんなさい、マグさん。調べてほしいことが……」

「なんだぁ……あ、えっと、ご、ごめん、今からランチだから……」(一緒に……)

「じゃあ貸してくれ!」

「……⁉ そ、それはダメ! もう、わかったよ……」マグは散らかった部屋のごみを押しのけて、コンピュータの前に寝転がった。「よいしょ、で、何調べれば……?」

「座標だ。通信できるか調べてみてくれ」

 マグは磁場や電気を操るエレキキネシスで手にビリビリと電気を発生させながら、コンピュータに触れて、クラークに言われた座標を調べる。

「あっれ? ここ周辺通信できない……え、ま、まさか……」

 マグは立ち上がって、大きなコンピュータに触れて調べる。そして、予想していたことが的中して蒼白とした。

「……う、ウソ。ドゥームズの通信妨害と同じ反応の波長⁉ あ、ああっ……」

「……ありがとう、司令官に知らせてくる」

「大丈夫、知らせた……」

「そうか、ありがとう……」(だけど、一体、誰が行かされるんだ?)

「あ、ああっ……」

 彼女から凄まじい不安と恐怖の感情を感じる。マグの方を振り返ると、彼女は恐怖のあまり、失禁してしまっていた。そして、ついに崩れ落ちるように座り込んでしまった。

「ああっ、大丈夫? マグさん……」

「だ、ダメ。わたしが、知らせたから、もし、みんなが、誰かが死んじゃったら……」

 すると、マグは泣き出してしまった。そんな彼女を、クラークはギュッと抱きしめた。

「大丈夫だ! みんなは強い! 絶対に死なない!」

 マグはその力強い声を聞いて、泣きながらクラークを抱き返してきた。

(大丈夫だ、大丈夫なはずだ……)

 その頃、連絡を受けた司令官は、直ちに編成部隊を向かわせる命令を下していた。

 アーセナル中にその編成されたWDたちの名が放送され、そのWDたちは緊張しながら装備を整えて、アーセナルの飛行場に向かった。

 それを聞き、クラークはマグに上着をかけてあげた後、彼女たちの元へ急いだが、間に合わなかった。なので、発進した戦術輸送機が見えるはずの港に急いだ。

 飛んでいく輸送機から感じ取ったのは、ナナ、スラスター、ブラスト、クランとウェイズであった。

 ブラストがきれいに掃除した輸送機の中で、みんなは不安な気持ちを押さえながら備えていた。スラスターは入念にバズーカ砲のチェックをし、クランとウェイズは寄り添い合い、ブラストはパワーを込めていた。そして、ナナは窓から遠ざかっていくアーセナルをボーっと見ていた。

「あ、クラークさん!」

 ナナがガラス窓から見て気づき、みんなもハッとする。港からクラークが追いかけて来て、堤防の端までたどり着いてしまった。そんな彼とともに思わず、みんなは一番後ろの窓まで走って、クラークの姿を超視力で捉える。

「クラークさん! い、行ってきます!」

 ナナは彼には聞こえないとわかっているのに、涙を流しながら言っていた。クラークは、テレパシーでその声を感じ取っていた。

「生きろ! 何でもいいから、生きろ! 待ってるから……」

 そのクラークの言葉はさすがに聞こえなかったが、自分たちを心配してくれているクラークを見ていると、ウェポンドーターズたちは泣きそうになった。

 クラークはその様子を感じ取り、涙をこらえて敬礼した。

「皆さん、敬礼です」

 スラスターが言うと、みんなはクラークに向けてビシッと敬礼した。

 そのまま、ウェポンドーターズたちを乗せた輸送機は現場に向かって行った。それを、クラークは肉眼で見えなくなるまで見送っていた。

 そこに片足に義足を履き、杖を突いて司令官が歩いてきた。

「大丈夫か?」

「……はい、司令官」

「もう、十数年ぶりだ。慣れていたはずなのだが、間が空くとやはり緊張する」

「……そうですか。やはり、司令官も、みんなが心配なのですね?  教えてください、いつ耐えられるようになったのですか?」

「わからん。今思えば逃げていただけなのかもしれん。だが、お前は耐えられるかもしれん。……今できることをやれ。いつまでも無力感に支配されるな」

「……はい」

 

 昨日までは平和だった田舎町。

 農夫がいつも通り畑仕事を終えて休んでいると、孫たちが遊んでいる声が聞こえてきた。

「あまり遠くに行くなよ」

「うん! おじいちゃん!」

 孫はまるで迷路のようなトウモロコシ畑をズンズン進んでいく。最初は楽しかった道だが、だんだん心細くなってきていた。

「おじいちゃん! 兄さん⁉ 姉さん!」

「お~い、こっちだ」

「兄さん!」

 声の聞こえた方に戻って行くが、誰もいない。もう一度声を張り上げようとしたら、どこからか視線を感じた。これは、家族の視線ではない。焦って走り出すと、トウモロコシ畑を出てしまった。トウモロコシ畑を振り返る。ガサゴソと音が聞こえる。

 トウモロコシをかき分けて姿を現したのは……人の形をした化物。ドゥームズ兵だった。

 怪物は、腰を抜かして後ずさりしている少年を面白そうに見ながら、槍を振り回していた。そして、その槍を少年に突き立てようとした時だった。

 カンッと、投げられた石がドゥームズ兵のヘルメットに当たる。石が飛んできた方を見ると、少年の兄と姉がいた。

 ドゥームズ兵は気に食わなそうに首を回すと、槍を兄妹に向ける。そして、その槍を輝かせて、戦車おも貫いてしまう破壊光線を容赦なく放った! 

 轟音とともに、砂煙が上がる。

「兄さん、姉さん!」

 その悲鳴を聞いて、ドゥームズ兵はせせら笑った。

 砂煙が晴れていく。そして、ドゥームズ兵はそこから現れた者に驚愕した。そこには、体中擦り傷だらけで、服をボロボロにして子供たちを庇ったウェポンドーターズ、ナナがいた。

 ナナはとっさの判断で二人を庇ってしまい、体中に痛みを感じていた。ダメージを負って息を切らしながらも、五体満足で立ち上がっていた。

(い、痛い……だけど、ワタシなら、大丈夫。三人を守る!)

「ここの住民は、誰一人、傷つけさせないから!」

 ドゥームズ兵はウェポンドーターズの姿を見て苛立ち、近くにいた少年を人質にとろうとした。しかし、その少年は宙に浮いてしまう。そして、彼は同じくらいの年齢と背丈の女の子のそばにフワフワと浮かべられてしまう。

「ブラスト! 来たの?」

「人を助けるなら先に言えぇ! 急に飛び出すからびっくりしただろぉ!」

「ご、ごめん……」

 驚愕したドゥームズも我に返り、再び破壊光線で攻撃する。しかし、ナナはパワーを込めた槍を回転させて、その光線をはじく。それを見たドゥームズ兵は突撃してくる。ナナは素早い反射神経で避け、体をひねって槍をドゥームズ兵の心臓に突き刺す。

 ドゥームズ兵は断末魔をあげて、青い体液を流しながら土に倒れた。

「あ、あなたたちは、ウェポンドーターズ⁉」と、姉の女の子は目をキラキラとさせていった。

「ふふん! あたしたちが来たからにはもう安心だぞぉ!」

「ブラストは、その子たちや街の人たちを避難させて! ワタシはスラスターたちに連絡して、ワームホールを探してくる!」

「わかったぁ! よし、お前らあたしに掴まれ、空を飛ぶぞぉ!」

「ま、待って!」と、石を投げた長男である男の子が、ナナの元に駆け寄った。

「どうしたの?」

「ありがとう。弟を、ぼくたちを助けてくれて……」

 すると、彼は泣き出してしまった。そんな彼を見て心が締め付けられるような感覚を覚えたナナは、彼の頭を優しくなでて言った。

「……うん。あなたも立派だったよ。これからも、二人を守ってあげてね」

「……はい」

「ほら! 行くぞぉ!」

 ブラストは自分に捕まる三人兄妹をテレキネシスで支えながら飛んで行った。助けてあげた子供たちは、ナナに手を振ってくれた。ナナも笑顔で手を振り返した。

 ナナはキリッと気持ちも表情も切り替えて、倒したドゥームズ兵を分析する。

(軽装、体格はやせ型。たぶん斥候。本隊はそのうち戻ってこないことを察する。今のうちに探さないと……あ、風化する……)

 すると、ドゥームズ兵の遺体は青や緑色の煙を発して、蒸発してしまった。こうして、彼らの体や兵器はすぐ消滅してしまうので、サンプルがなかなか取れないのである。

(子供を襲うひどいヤツ。だけど……ダメダメ、集中。きっと、この近くにワームホールがある)

 ナナはまるで自動車のような速さで走りながら、広大な農園の隅々を探す。そうしながら、いつ壊れるかわからない通信機でスラスターと連絡を取る。ドゥームズはあらゆる電波を妨害してしまい、軍の特注品でもすぐ使い物にならなくなってしまうのだ。

「スラスター、こちらナナ。ドゥームズの斥候を倒した。きっと、この農園の近くにワームホールがあるから探してみるね」

「わかりました。そちらは任せます」

「うん! あと、斥候から助けた子供たち三人と、街の人の避難をブラストに頼んだけど、街のみんな全員を急いで避難させた方が良いと思う」

「そうですね。……ドゥームズがいるせいで、我々の通信機器もそろそろ限界です。クランとウェイズに頼みます。ワタシは空から偵察をします」

「わかった! 聞いてた? ブラスト?」

「おうぅ、聞いてたぁ……」

 ブラストが連れている子供たちが、急にブラストが話し始めたので驚いてしまった。

「なぁ、三人が変な目で見てるからさぁ……」

「あ、ごめん」

「では、ナナは引き続き捜査を。ブラストは住民を避難させしだいナナと合流、クランとウェイズは市に頼んで住民に避難指示を出してください」

「了解!」

「了解ぃ……あ、あのさ、独り言じゃないからさぁ……」

「では、二人とも、よろしくお願いします」

「はい!」

「はいです!」

 そして、二人は手をつなぎながら降下していった。

スラスターは風が舞い込むハッチから降りる前にパイロットに言った。

「では、また五時間ほどしたらお迎えをよろしくお願いします。また、周辺の公共機関からの連絡を待ってください」

「り、了解」

「では、出動します」

 スラスターはまるで家から出るようにハッチから出て、そのまま空中に立った。慣れた様子でそのまま空を駆け抜けて、ワームホールを探し始めた。


 ブラストは、先ほどの恐ろしい出来事を思い出してしまって泣いている三人を抱えて、街から避難させようとしていた。

「なあ……助かったんだから泣くなよぉ……」

「ごめん、だけど、怖かったんだ……」

「う、そ、そうだよなぁ……」

 すると、姉が何か思い出したかのように騒ぎ出した。

「おい、なんだよぉ⁉ 危ないだろぉ」

「待って! おじいちゃんもいるんだ!」

「えっ⁉ わかった、任せろぉ!」

 三人に教えてもらい、ブラストは子供たちの祖父の家に降り立った。

 すると、家から散弾銃を持って警戒した祖父が出てきた。

「なんだ、お前たちか⁉ よかった……」

「おじいちゃん!」

 三人は祖父に抱き着いた。孫たちはこれから一生に一度であってほしいが、凄まじい驚異の出来事を口々に話しだした。

「あの子とお姉さんが助けてくれたんだよ!」

「そうだ、ドゥームズ兵が来たんだ」

「逃げようおじいちゃん!」

「ああ。有線で聞いた。通信機器が利かなくなると言われてやっていたが、本当にこんな目になるとはなぁ……」

 長くなりそうなので、ブラストは口をはさんだ。

「ゴホン! ここは危険ですぅ! 早く、逃げましょうぅ。車か何かに乗ってくださいぃ、それごと安全な所に避難させますぅ!」

「き、君は……そうか、ウェポンドーターズか……」

「そうだぞぉ! だから、早く……」

「私が引退した後も頑張っているようで、孫たちまで助けてくれて感謝しています」

 そう言って祖父が懐から取り出してきたのは、兵士の認識証だった。

「あ……はいぃ!」

 ブラストは感動した感覚を覚え、敬礼をすると、彼も返してくれた。

(あたしたちのこと、感謝してくれている人たちはこんなにいるんだぁ……よしっ!)

「さあ、早く避難をぉ!」

 ブラストは四人と最低限の荷物を乗せた車をテレキネシスで持ち上げて、避難させた。


 クランとウェイズが市役所に行って事態を説明すると、職員たちは街中に張り巡らされた有線のネットワークを使って避難命令えを静かに下した。それにより、街から人々が少しずついなくなって行く。

「これで、有線を引いてくれた人たちは大丈夫なはず」

「え、有線使ってない人もいるの?」

「た、大変です! 避難しないといけないのに伝わってないです!」

「ああ、やっぱり、面倒くさがる人も多くて……」

「ウェイズ! みんなを避難させに行くよ!」

「クラン! みんなを避難させるです!」

 二人は同時に言って、笑い合った。その様子を見て、職員たちは少し困惑した。

「というわけで、皆さんも逃げてください!」

「この街のみんな、全員わたしたちが助けるです!」

「……あ、ありがとう」

 すると、二人は手をつないで外に出て、飛んで行った。

「なんだ、全然怖くないじゃないか」

「ああ。かわいい子たちだ。おれたちも、迷惑にならないように逃げよう」

 職員たちも急いで避難を開始した。


 街の境は、家族や友人を心配して戻りたがっている人々でごった返していたが、街の周りを警察や州兵たちが柵や戦車、ジャンボットで囲って隔離し、誰一人入れないようにしていた。そうして困惑する人々を抑えながら、避難してくる住民たちを待っていた。

「ここから先はドゥームズがいます! 立ち入り禁止です!」

「そっちに家族がいるんだ! 会わせてくれ!」

「おい、あれを見ろ!」

 人々が驚きの声を上げて、空を指さす。そこには一人の少女を先頭に、街の住民たちを乗せた自動車の大群がぷかぷかと空を飛んでした。

「皆さん、道を開けてください!」

 軍と警察の命令で道が開かれ、そこにゆっくりと自動車が着地する。そして、そこから恐る恐る出てきたのは、町の住民たち、大切な家族であった。

「パパ! ママ!」

 ナナが庇い、ブラストが避難させた子供たちは両親と再会して抱き合う。その祖父はまかせっきりにしてしまったことを息子とその妻に謝られるが、誰も悪くないと言う。

 周りでも様々な家族や友人たちが再会を果たしていた。

 その様子を見てブラストは安心し、お互いを思いあっている様子に感動を覚えた。

「では、後は頼みますぅ!」

「了解、お気をつけて」

 軍人にも感謝と驚愕の笑顔で見送られて、ブラストは励まされた。そのまま空を飛んでナナのもとへ向かおうとした。

「待って!」

 振り返ると、泣いている次男の少年がいた。

「あ、どうしたのぉ?」

「あのお姉さん、ぼくのせいで、ボロボロに……なって……」

「大丈夫だぁ。ナナはあんなんじゃやられないぃ! だから、みんなのところにいろぉ」

「うん。本当にありがとう、お姉さんに伝えてください。気を付けて……」

「おうぅ! じゃあなぁ」

 ブラストはまだ泣いている自分と同じくらいの背丈の少年の頭を撫でて、フワッと空に飛んで行った。


 スラスターは空から偵察をしていた。

 通信機を使おうとしたらノイズしか聞こえなくなっていた。

(……そろそろ限界ですね。それにしても、敵は斥候がやられたのに気づいて、備えてるのでしょうか? ですが、そのうち現れるはずです)

「みなさん、聞こえてますか?」

 ナナとブラストは、農園のそばにある子供たちとその祖父たちの家の前で合流していた。

「うん、聞こえる! 今、ブラストと合流したところ」

「うん! ナナと一緒だぁ!」

 クランとウェイズは郊外に向かって畑しか見えない田舎道を駆け抜けている。

「クランとウェイズ、今、郊外の人たちを救出しようとしているところ!」

「有線を引いてない人たちを助けに行くです!」

「わかりました。こちらは空から偵察していますが、全然見つかりません。通信機も限界なので、合流して探すことにしましょう」

「じゃあ、合流地点は、ワタシとブラストがいる農園のお家の前でいい?」

「そうですね、そうしましょう。クランとウェイズも住民を救出したら、地図に書いてあるシャスター農園に向かってください」

「了解!」

「了解です!」

 ウェポンドーターズはドゥームズに警戒しながら、合流を目指して行動を開始した。


 クランとウェイズは、有線が通っていない地域を駆け抜けていくつかの家を訪ねていたが、誰もいなかった。

「ここも、誰もいないようです」

「もしかして、みんな逃げられたのかな?」

「そうかもです。有線の人の誰かが知らせてくれたかもです」

「あ、ウェイズ、あれ!」

 見張りをしていたクランが、こちらに向かってくるパトカーを見つけた。尋ねていた家の前に止まると、武装した保安官が下りてきた。

「君たち、銃を置け! 早く!」

 クランとウェイズは、自分たちはこの機会を利用して強盗を働こうとする悪党だと、誤解されたことに気づいた。

「待ってください! クランはクランといいます、この子はウェイズです。クランたち、ウェポンドーターズなんです!」

「そうです! ここのみんなをドゥームズから助けに来たです! 助けに来たです!」

 そう言って、クランとウェイズは少しだけフワっと浮いて見せた。

「うわっ……⁉ そ、そうだったのか、すまない」と、彼は驚きながらも銃をやっと下ろした。「じゃあ、来てくれないか? みんな教会に避難しているんだ」

「そうだったんですか?」

「わかりましたです!」

 保安官は彼女たちをパトカーに乗せて、街にある教会に向かった。

 車の中でも、クランとウェイズは警戒していた。周りにはドゥームズもワームホールもない。田舎道と畑が広がっているだけであった。

「教会には、何人くらい避難しているです?」

「ざっと、十人くらいか? みんな高齢者だ」

「あなたが、避難させてくれたんですか?」

「いや。みんな自分からあそこに行っていたよ。懺悔しにな、多分、死にたがってたんだと思う」

「懺悔? 死にたがる? どうしてですか?」

「まあ、年を取ると色々なことを後悔する。しかも、いろいろなことを乗り越えてきたならなおさらだ。ここは竜巻も起こるし、不作に見舞われることもあったからな。そして、今回の相手はドゥームズだ。よりにもよって。それでもう長年の我慢の限界が来て、絶望したんだと思う」

「そ、そんな……だ、ダメだよ……」

「そうです! 絶望することなんてないですです!」

「そうだな。君たちみたいな子たちがそばにいたら、違ったかもな。ドゥームズのような奴らを見ると自分たちの努力が無駄な気がしてくる。それでも何とかド田舎で頑張ってきたんだ。だけどよ、親不孝にも子どもたちはみんな都会に行っちまうし、それが原因で不愛想にもなっちまった。そんなだからな、みんなとも距離を置かれちまったのかもしれん。街の奴らも薄情なもんだ」

「だけど、保安官さんはみんなを気に掛けてたんでしょ?」

「そうです。保安官さんは優しいのですねです」

「そんなんじゃない」

 パトカーは順調に田舎道を進んでいた。


 一方、アーセナル。

 壁に囲まれた秘密基地に残っているWDたちはいつも通り訓練をしながらも、出動したみんなが心配で、あまり気乗りしないでいた。娯楽街にもWDたちの姿がなく、閑散としていた。

 クラークは彼女たちを心配しながら、マグの管制室の片づけを手伝ってあげていた。

「……ごめん、手伝ってもらっちゃって……」

 マグは普通の人には聞こえないくらい小さくて悲し気な声で言った。さっきからこんな感じであった。

「気にしないで」(そうだ、僕も何かしないと気が収まらないからこうしているのかもしれない。ごめんよ、マグ。たぶん、僕が今こうしているのは自分のためだ。自分が落ち着くためだ。そうだ、仕事だけど、みんなを戦地に送り出す理由を提示してしまったマグが一番苦しんでいる。そして、こうしたのも僕の責任だ)「マグ、休んだら?」

「……いい」

「心配なんだろ?  ナナたちが」

「……うん。心配、やっぱり」

「君が行動してくれなかったら、今頃あの街はやられていたかもしれない。それに、ナナたちは負けない。いつもあんなに訓練していたんだ。努力に勝るパワーなど存在しない」

「……だけど、わたしには無理だった」

「え?」

 クラークはハッとした。部屋に積まれていた資料をまた見てみる。感知した周波数の資料と記録。全て、ドゥームズの脳波を特定しようと頑張っていた証拠であった。

 機械が通用しないドゥームズに対抗するため、少ししか使えないエレキキネシスを使って、世界中のあらゆる電波やラジオをキャッチして練習していたのだ。

「……だけど、クラークさんに言われるまで、ドゥームズの居場所を察知できなかった」

「また、頑張ればいいよ。……あと、少しは外にも出よう。もしかしたら、他の子が何かコツのようなことを知っているかもしれないし。あと、そんなに根を詰めない方が良いよ。君が倒れたら大変だから」

「……はわぁ~……⁉ う、うん、えへへ、そうしてみる」

 そうボソボソとだが嬉しそうに言うと、マグは部屋から恥ずかしそうに出て行こうとした。

「どこ行くの」

「うっ⁉ ふうう……」

「ああ、わかった」

 すると、マグは顔を真っ赤にしてトイレにダァーッと走って行ってしまった。

(気にしてたか。……漏らしたところ)

 クラークは少し片付いた管制室を見てみる。ここから、マグはいち早くドゥームズを探知しようと頑張っていたのだ。

 世界中に張り巡らされているネットワークや電波のぽっかり空いた小さな穴を見つけて、その場所を特定する。その情報社会の隙間から、異世界からやってくる侵略者が現れるのだ。その所業は人類の最高峰の技術の結果である情報社会を破壊するかのように、人類の技術と頑張りを否定するかのように思えた。

 クラークは、突然ハッとした。

「何をやっていたんだ」(そうだ。僕も彼女たちを見守らないと)

「く、クラークさん、もう全部わたしがやるから……えへへ、ジュース持ってきたよ~……あれ?」

 そう言ってマグがやってきたが、クラークはある程度片づけていなくなっていた。

 クラークは、自室に戻って集中した。ドゥームズを感じた場所をテレパシーで探り、クレヤボヤンスで覗こうとすると、壁に突進したかのような凄まじい激痛を感じた。

(これが、あらゆる電波を阻害するドゥームズの脳波の影響か。何を言い訳している。僕が怖がっているだけだ。僕が彼女たちを思う気持ちは電波ではない、純粋な意志だ)

 その壁に精神で体当たりを続けているうちに、閑散とした田舎町が見えてきた。

(クランとウェイズを感じる。そして、もう一人……)

 こうして、クラークは痛みに耐えながら、アーセナルから少女たちを見守るのであった。


 クランとウェイズは保安官が運転するパトカーで、街から離れた場所に立てられた教会に辿り着いた。ここに高齢者たちが避難しているはずだが、とても静かだった。

「今助けるです!」

「まって、ウェイズ! 何か変!」

 クランが聴力を集中させると、ドドドと、かすかにバイクのエンジン音のような音が聞こえてきた。

「二人とも! 敵! ドゥームズが来るよ!」

 クランとウェイズはパトカーから外に出て身構えた。

 その時だった、悪夢の始まりを知らせる怪音が響き渡った。

 ドゥーム、ドゥーム、ドゥゥゥゥム!

 その音と共に、紫色の光を放つ円形状のワームホールが展開される。そこから、何十人ものドゥームズ兵、全てを踏みつぶす四本の足で歩く、凶暴なワニを彷彿とさせる戦車隊が、邪悪な笑い声と足音を鳴らして躍り出てきた。獰猛な悪魔の軍勢たちは、あっという間に教会、クランとウェイズたちを囲んでしまった。

 しかし、クランとウェイズは恐怖と不安の気持ちを落ち着かせ、人々を助けようと気を取り直していた。

「保安官さんは、パトカーの中にいるです!」

「ウェイズ、敵を教会から遠ざけるよ!」

「はいです!」

 すると、保安官がパトカーから出てきた。

「な、何をしているです! ダメです!」

 ウェイズが手を引っ張って引き留めようとするが、彼はそれを振り払う。そして、ドゥームズ兵側に立って、背を向けた。

「ど、どういうこと⁉」

「ど、どういうことです!」

 二人は同時に言った。今回は笑えなかった。

「お前らははめられたのだ、間抜け」

 その流暢なスペイン語は、ドゥームズ兵たちの方から聞こえてきた。二人の前に、二メートルほどの巨体のドゥームズがやってくる。ドゥームズナイト。この街を攻め込んだ軍団の隊長。

「す、スペイン語?」

「ドゥームズが、人間の言葉を話したです!」

「んん? 通じなかったのか? このクズども」

 今度は英語で言ってきた。その言葉を聞くと、ドゥームズ兵たちは笑った。

「フッフッフ。お前らの無駄に多い言語を理解するのは苦労したぞ。だから、全部覚えてきた。困ったら全部やる。これに限るな。それにしても、こんなに言葉が多いようでは仲良しごっこをするのも苦労するだろうな。だから協調性が生まれず、同胞にも裏切られるのだ」

 クランとウェイズは、身の毛がよだち、体が震えた。

「だ、騙したのですか?」

「クランたちを……教会のみんなは?」

「だから言っただろう。お前たちははめられたのだ」

「あなたには聞いてないです!」

「保安官さん! あなたは、ご老人や街の人を気に掛けられる良い人だったはずです! どういうことなのですか!」

「うるさい、黙れ! 馴れ馴れしんだよ! 気色悪い!」

 保安官の言葉を聞いて、二人は心臓を潰されたような感覚がした。

「そ、そんな……です……」

「フッフッフ。やはりウェポンドーターズといえど、ただのお人好しのお子様だったというわけだ。それに比べて、こいつはよくわかっている。大切な両親と住民を守るために、我々の方についたのだからな」

「え?」

「え、です?」

 すると教会からゾロゾロと、罪悪感にさいなまれて俯き、虚ろな顔をした住民たちが出てきた。

「すまない、二人とも。みんなを守るためだったんだ」

 自分たちを売った住民たちを見せつけられ、保安官の言葉を聞き、クランとウェイズは愕然とし、地面に座り込んでしまった。そして、体を震わせながら、抱き合った。

「あ、あんまりです……」

「この街を、狙ったのは、最初から、クランたちを殺すために……」

「ん? お前らなどついでだ。わざわざ殺すほどの価値などない。本命は訓練だ。いずれこの星を侵略するため、ここにいる可愛い生徒たちを成長させるためのな。殺戮と破壊の訓練だよ。それはそうと、見込みのない落ちこぼれのガキを殺してくれてありがとう」

 教官のその言葉を聞くと、ドゥームズ兵の新米たちは大笑いした。


 その頃、ナナ、スラスター、ブラストは農園で待っていた。

「二人とも、遅いですね……」

(三人とも! クランとウェイズが危ない! 教会に行くんだ!)

「え⁉ クラークさん⁉」

「な、なんだぁ⁉ クラークの声が……なんか、勇気が湧いてきた……」

「……行ってみましょう。あの声は、クラークさんです!」

「……うん。どういうことかわからないけど、きっと、クラークさんが見てる」

 三人はその声を信じて空を飛び、高速で走り、教会に向かった。


 ドゥームズたちが囲む、教会の前。

「さて、お前たち。訓練の時間だ。こいつらと街で、たっぷり殺戮に慣れておくといい。ウェポンドーターズの殺し方の実戦も忘れずにな」

 その言葉を待っていたと、ドゥームズ兵たちは武器を抜き、戦車に轟をあげさせた。

 住民たちは恐怖でどよめき、蒼白とさせる。

「そ、そんな! 約束が違う! WDの誰かを連れてきたら、逃がしてくれるはずだ!」

「ん? お前などが交渉できる立場にいると思っているのか? よし、みんな見ていろ。手本を見せてやる」

 すると、ドゥームズナイトは剣を抜いて、保安官を斬り裂こうとした。

(ああ……保安官さん、死んじゃうです……痛いだろうな……です……)

(何もしたくない、何も信じられない……誰も救えない……)

(二人とも、このままではみんな殺されてしまう)

(クラークさん……わたしたち、もう、戦えませんです)

(クラークさん……わたしたち、何のために生まれてきたのかな? 裏切られるため?)

(違う!)クラークの声が、頭の中に聞こえてくる。(君たちは、二人が出会い、愛し合うために生まれてきた。やつは、君たちみたいな人たちの絆を、引き裂こうとしているんだ。頼む。君たちみたいな人々を、君たちが救ってくれ)

 その間、一秒にも満たなかった。クランとウェイズは立ち上がり、高速で走り、その風圧でパトカーを吹き飛ばして爆発させた。クランとウェイズはパワーを集中させた両手で、素早いうえに岩おも両断する巨大で鋭い刃を受け止めて、保安官を守った。

「き、君たち……なんで⁉」

「ほう、そこまで間抜けだとはな!」

 ドゥームズナイトが合図をすると、二人に向かって槍から破壊光線が放たれる。二人は悲鳴を上げて、地面に打ち付けられた。しかし、体の痛みに耐えながら、立ち上がる。

「ほう、まだ肉体を保っていられるのか」

 その様子を見て、住民たちは自分たちの過ちを思い知り、罪悪感、自分たちが忘れ、彼女たちが覚えていた慈愛の行動に涙を流していた。

「もういい、逃げろ! あんたらなら逃げられるはずだ! あんたらを裏切ったんだ!」(畜生、何をいまさら俺たちは言っているんだ。こんな小さな女の子たちに痛い思いをさせて、生贄にして、のうのうと生きようとして……)「おれたちに助ける価値なんてない!」

「助ける価値がない人なんて、いない! です!」

「そう、クランたちは、この街のみんなを守りに来たの!」

「その通りですです!」

 クランとウェイズは住民たちを逃がそうと、ドゥームズ兵たちにパワー弾を放っていく。その様子を見て、人質の住民たちを殺そうとしたが、ウェイズが放つほぼ無限に近い連射パワー弾を身に受ける。

「なんだ⁉ よわっちいぞ! ただ連射するだけじゃねぇか!」

何発かは耐えたドゥームズの鎧だったが、怒声と共に強力になったウェイズのパワー弾の連射についに貫かれ、倒れていった。

「な、なにっ……⁉」

「みんな、逃げてください、です!」

 保安官が悔しがりながら住民たちを逃がそうとするが、そうはさせまいとドゥームズ兵がせせら笑いながら襲い掛かる。そんなドゥームズ兵をクライの二丁拳銃が貫く。

 クランとウェイズは自分たちに集中し始めて破壊光線を放つドゥームズたちの攻撃をよけながら、少しずつドゥームズ兵たちを葬っていく。

「クラン、敵はこちらに集中し始めたです!」

「うん、ウェイズ! 二人ならみんなを逃がせそう!」

 クランが飛び回って破壊光線をよけ、二丁拳銃から弾丸を放つ。ジャンプして着地しながら弾丸を放って敵を葬ろうとする。そこを狙って破壊光線を放とうと上を向いたドゥームズ兵はがら空きになり、ウェイズの機関銃から放たれる連射パワー光線に貫かれていく。

「二人ならできる!」

「二人ならできる、です!」

 二人は同時に弾丸を放ち、ついに数十人もの悪魔を撃破していた! 

 ドゥームズナイトはその様子に、苛立ちが隠せなくなっていた。

「何をしている、戦車を使え!」

 クランとウェイズが破壊光線をよけている隙に、戦車からさらに強力な、鋼鉄も蒸発させ、地面をガラスにしてしまうほどの光線が放たれた! その光線は二人に命中し、二人を吹き飛ばして地面に叩きつけた。

「く、クラン、大丈夫ですか……です……?」

「う、ウェイズ……ごめん……はっ⁉」

 クランとウェイズは、その光景に驚愕した。あんなに倒したはずのドゥームズ兵たちが、続々とやってきたのであった。

「フッフッフ。よく頑張ったが、お前たちのパワーでは、我らドゥームズの治癒能力には敵わなかったようだな」

 クランとウェイズは絶望した。そんな彼女たちを更に追い込む光景が見えた。保安官と住民たちは逃げきれず、蘇生した兵士たちに捕まっていたのだった。

「そ、そんな……です……」

「ううっ……もし、ヴィクトリーさんだったら、勝てたのかな……」

 その名を聞くと、ドゥームズナイトは恐怖で息をのんだ。

「そ、その名を口にするな! ……は、ハッ! うぬぼれにも程があるな! 我らを殺したいのなら、バラバラにするか、さらに強い威力の力を放てるようになることだ!」

「教官、あれを⁉」

「ん? ……おい、避けろ!」

 すると、火薬を使っていない、バズーカから放たれたパワーによる爆発が、ドゥームズ兵たちの何人かを治癒できないほどの威力で吹き飛ばし、消滅させていった。

 その隙に、保安官、住民たちが急に宙に浮かび始め、どこかに連れて行かれた。天井を見ると、住民をフワフワと浮かばせている腕を組んだブラスト、先ほどバズーカを放ったスラスターがいた。

「ふん! あたしたちがいる限り、誰一人死なないぃ!」

「ブラスト、皆さんをお願いします。クランとウェイズを救出したら私たちも向かいます」

「おう! まかせろぉ! みんな、掴まれぇ……!」

「捕まる所なんてない……っ⁉」

 そう言う間に、住民たちはテレキネシスでブラストに安全な所まで運ばれていった。

 ドゥームズ兵たちは獲物を取られて、怒りの叫び声をあげていた。

「いいぞ、その怒りを空にいるあいつらと、奴らにぶつけてやるのだ」

「そうはさせない!」

 砂煙をあげながら、高速でナナがやってくる。彼女に向かってドゥームズ兵が破壊光線を放つが、全て避けられ、回転させた槍ではじかれてしまう。

「このクソが!」

 ドゥームズ語で罵声をあげ、槍で突っ込んでいくドゥームズ兵。しかし、ナナの前に次々と貫かれ、首を飛ばされて消滅していく。

 ドゥームズナイトは、その様子に恐怖を覚えながらも、武術家として感心していた。

(なんだ、あの女! 心臓を一突きしただけで、回復が間に合わないほどのパワーを流し込んでいるとでもいうのか⁉ いや、違う、単純に、やつのパワーが強く、弱点を正確に狙っている! それだけ、それだけに凄まじいぞ!)

 そして、ナナはクランとウェイズの元に辿り着いた。

「二人とも、大丈夫?」

「うん、クラン、ウェイズがいれば平気!」

「はい、です、わたしはクランがいれば平気です」

 ぼろ布になってしまった服を着た、痛々しい生傷を負わされてしまった二人は、いつも通り笑い合った。

「ふふっ! さあ、捕まって! 行くよ!」

 クランとウェイズを背負い、ナナは再び高速で走った。

 その三人を守るため、スラスターは向かってくる戦車の軍団に何発もパワーバズーカを放つ。

「くっ⁉」(こんなに撃っているのにやられない。しかし、ある程度兵士たちには効いています。見たところ、連携もあまりとれていないようですね。しんがりはできそうです)「三人には追い付かせません!」

「あたしもだぁ!」

 そこに、住民を避難させ終わったブラストが飛んで戻ってきた。そして、戦車をテレキネシスで浮かべて、ひっくり返してみせた。

「うう、やっぱり重いぃ……」

「大丈夫ですか?」

「ああぁ! みんなもちゃんと送り届けた! 少しでもドゥームズの数を減らしてやる!」

「ええっ⁉ それするならワタシたちを助けてよ! まあ、いいや。行くよ!」

「うん! ヴァージンロードだよ!」

「ナナはわたしたちのウェディングカーです!」

(……ま、いっか。今日くらい!)

 そして、クランとウェイズを背負ったナナは、さらに高速で走った。

 怒りと殺意、憎悪の声をあげながら攻撃するドゥームズだったが、彼方まで行ってしまった三人と、空から撃ってくるスラスターに苛立ちを覚えていた。

(はぁ? なんだ、こいつらは⁉ こんなに強いなんて聞いてないぞ! 空を飛びながら、あんな強力なパワーを放ってきている⁉ どんな集中力だ! あのチビも、攻撃力がないくせにあんな応用が利くのか! 生意気だ! まて、ここで奴らを殺せれば、大手柄だな!)

「フッフッフ、張り合いがあるな、これは!」

「畜生! なんだあいつら! 教官! あんなカス共今日はほっといて逃げましょうぜ!」

「あん? 何を言っているのだ、貴様⁉ 女とヤリたくないのか⁉ とっとと戦え!」

 すると、ドゥームズ兵たちはさらに猛進を続けた。

「まずいです! このままでは、街の外に……」

「なんとかして食い止めるぅ!」

 スラスターとブラストは、軍勢を食い止めるために粘る。しかし、疲れが見え始めていた。

(フッフッフ。では、今のうちだ……)

「教官、どこに⁉」

 ドゥームズナイトは兵士たちを置いて、ある兵器を取りにワームホールをくぐった。

 ついに、スラスターとブラストは息を切らして地上に降りていた。

「ハァハァ、もう、これ以上は……」

「む、無理だぁ……」

「二人とも! 避けて!」

 ナナの声が聞こえた。すると、ナナが高速では走ってきて、二人を突き飛ばす。すると、三人がいた所に火の玉が命中し、業火が上がった。

「な、なんですか⁉」

「フッフッフ。どうだ? 最新のクロスボウの威力は?」そこには、毒々しく光る矢を装填した身の丈ほどはあるクロスボウを持った、ドゥームズナイトがいた。「それ、もう一つ、いや、もう二発いこうか⁉」

 すると、四発の連続ですさまじい威力のクロスボウをドゥームズナイトは撃ってきた。避けてきた方向に正確に撃ってきたが、何とかよけていた。

 そんな彼女たちに、さらなる苦痛が襲い掛かる。

「ぬあああああっ⁉ 頭が、痛い、痛いです……二人とも、大丈夫ですか?」

「い、痛い……体が……熱い、な、なに、これ……」

「ダメだぁ……痛い、熱いよぉ……」

 三人の体に異常がみられていた。体が燃えるように熱い。そして、凄まじい頭痛。

「フッフッフ。こいつの真の威力が出始めたようだな。怖がらせたいから教えてやろう、このクロスボウから発射された矢による爆炎の毒だ。こいつが誤射で地面に当たって爆発するたびに、空気中に毒素が蔓延しているのだよ。たとえ当たらなくとも、お前たちに凄まじいダメージを与えることができるというわけだ」

 その自慢げに話す言葉を聞いて、三人は痛みのほかに恐怖を感じた。

(そ、そんなぁ……あたしたちに、毒はぁ、通じないはずなのにぃ……)

(あんなの、こ、こんな状態でどうやって倒せばいいのですか? うう、もう無理です……)

「……二人は、逃げて」

 苦しみに耐えながら立ち上がるナナのその言葉を聞いて、スラスターとブラストは驚愕し、首を振った。

「ダメです! ナナも逃げましょう!」

「だけど、ここで誰かが逃げたら、街の外に……」

「来るぅ!」

 今度はブラストがテレキネシスでひっぱり、ナナとスラスターを矢から守った。ブラストは頑張り過ぎたせいで、ついに気絶してしまった。その小さな体の彼女を、ナナとスラスターが受け止める。痛々しいブラストを見て、ついにスラスターは泣き出してしまった。

「ブラスト⁉ う、ううっああ……」

「フッフッフ。黙って覚悟の言葉を聞いていようかとも思っていたが、途中でイライラして撃ってしまった。本当に癪に障る奴らだ」

 ナナは、苦しみに怒りで耐えながら、再び立ち上がった。

「逃げて、スラスター。ブラストを連れて……」

「な、ナナ……で、できません……立てない……痛いです……」

「わ、わかった……待ってて……あいつを、殺してくるから……」

 そのナナに、勝機を見て回復して戻ってきたドゥームズ兵たちが、何発もの破壊光線が浴びせる。彼女の体は壊れなかったが、凄まじい激痛が走る。

「ぐああああああっ⁉」

 そして、ついにナナは力尽きて倒れてしまった。

「な、ナナ? いや、イヤです……イヤ……」

「フッフッフ! よく戻ってきた貴様ら! よし、奴らを残忍に殺してしまえ!」

 そして、大喜びでジリジリとドゥームズ兵が迫りくる。

 スラスターは恐怖で震えながら、ナナとブラストを抱き寄せる。

「あ、ああっ……」(イヤです……いつもだったら、みんなと訓練したり、遊んだり、楽しい日常を送っていたはずです……ごめんなさい、ナナ、ブラスト、わたしがリーダーとして不甲斐ないから、こんな目に合わせちゃって……ああ、クラークさん……撫でてほしかったな……)

 すると、頭痛と体の熱さが激しくなってきた。

「ぐあああああっ⁉」スラスターも、ついに体を地面に倒してしまった。「う、ナナ、ブラスト……」

 それでも、スラスターは二人の手を握っていた。

 痛みで体を動かせないブラストは、スラスターの手のぬくもりを感じていた。

(あぁ……スラスター……泣いてるぅ……クライみたい……あ、あの子、あたしがいなくてもちゃんと寝られるかな……)

(今は無理だ!)

 クラークは、必死に再びテレパシーを送ろうとしていたら、急にできたので自分でも驚いてしまった。

(く、クラーク!)

(ブラスト、立ってくれ! 君は、もっとすごいことができる! 君は戦車を持ち上げ、人々をたくさん運んで助けてきた。君は、まだたくさんの人を助けられる。毒なんかに負けるな。大きいものが持てたなら、小さいものだって持てる!)

「う……」

 ブラストの小さな体は立ち上がった。そして両手の指を、何かをつまんでどこかに移すように動かす。

 その様子を見てドゥームズ兵たちは滑稽だと思って笑い、ドゥームズ語でまくし立てた。

「うお、ふ、ふあははははっ! 何してんだあいつ⁉」

「やられ過ぎて頭がおかしくなったのか?」

「それとも、誰かにその手を取って助けてもらえると思ってるのか?」

「もっとも、そんな小さな手じゃ何も掴めねぇだろうがな! ふはははは……ぐおっ⁉」

 突然、ドゥームズ兵の何人かが苦しみながら倒れ始めた。

「ん? 貴様ら、下がれ! 毒を受けた奴らは薬を早く打て!」

 ドゥームズナイトたちは、ブラストたちから少し距離を取って警戒した。

(う、うまくいったぁ……あたしのテレキネシスじゃ、テーカやマグみたいに細かいことはできないと思っていたけどぉ……あたしたちの体内と空気中の毒を外に出して、奴らに向けてやったぁ……)

 しかし、その高度な技を行うと、ブラストはまた地面に倒れてしまった。

「う、ど、どうしようぅ……クラークもう動けないよ……」

(ああ、後は二人がやる)

 ナナとスラスターは、体の苦しみがなくなったのを感じ、ハッとして蘇生した。

「え、え?」(あれ? く、苦しくない……⁉ どういうことなの? そうか、やっぱりワタシたちには毒が効かないんだ!)「ふふん! ワタシたちの体はやっぱりすごい!」

 その言葉を聞いて、起きてブラストを抱き寄せていたスラスターは怒った。

「違います、ナナ! ブラストが頑張ってくれたんです! 高慢な態度は控えてください!」

「え⁉ ご、ごめん! ブラスト。ありがとう……」

「き、気にするなぁ……だけど、あたし……」

(ブラスト……あ、ありがとう……)

「う、うん。クラーク……」

 すると、ブラストは体力とパワーを回復するために、ついに疲れ切って眠ってしまった。

「ぐすっ、ううっ、ブラスト……」

(ナナ、ブラスト、奴らは体勢を整えてまたこちらに向かってくるはずだ。……戦える?)

「ぐす、はい。ブラストが頑張ったんです! 戦えます!」

「私もです。クラークさん。指示をお願いします!」

 すると、血が流れるような音が二人の頭の中に響いた。

「く、クラークさん?」

(大丈夫だ、ナナ。二人とも、僕も手を貸す)


 その頃、ドゥームズ兵たちはあっという間に態勢を整え終えていた。

 兵士の一人が、手鏡のような道具で毒が空気中に溶けて無力化したのと、ブラストが眠りについたのを確認した。

「毒がなくなりました。ウェポンドーターズも一体沈黙しています」

「よし、戦車隊の方はどうだ?」

「今到着しました!」

「よし、よくやった。やはり持ってこられるものも全部持ってきて正解だったな」(この街を支配するのも、人間どもを殺戮するのも、あのクソ忌々しいウェポンドーターズたちがいる限り無理だ! まず奴らから肉塊にしてやる! そうすれば食って寝るだけでいい生活が待っているはずだ!)

「教官、本当にまだやるのですか……」

「あ、またそんなことを言うか⁉ 貴様らはあんな矮小な奴らから逃げるほど腰抜けなのか? 今までの努力を、あんな小娘共に否定されたままでいいのか?  このままおめおめと帰って恥をかいてもいいのか⁉ この丸々太った腰抜けども!」

 その言葉を聞くと、グワッと怒りが沸き起こってきた。

「ああそうかい! やればいいんだろうが! クソ!」(畜生、いつも偉そうにしやがって……)

 自分たちがこんな目に合っている八つ当たりをしてやろうと、ドゥームズ兵たちは武器を構え始めた。

「全軍、進め!」(フッフッフ、簡単な奴らだ)

 ドゥームズの大軍は、たった三人の少女を殺すために進み始めた。

 ナナとスラスターは武器を構えて、大軍を迎え撃とうとする。

「クラークさん、ワタシたち、勝てるかな?」

(勝たせる。僕の指示に従ってくれ)

「……はい。クラークさんのために頑張ります!」

「わかりました!」

(よし、突撃!)

 そして、最初にナナが真っ向から突撃した。

「フッフッフ! 気でも狂ったか? 撃て! 撃ち続けろ!」

 ドゥームズは突撃してくるナナに正確に照準を合わせ、撃ち抜こうとした。しかし、どういうことだろうか、ナナは完璧によけて、全く当たらない。

(ナナ、上だ!)

 ナナは、上から串刺しにしようと突撃してきた兵士の攻撃をよけ、その心臓を正確に突きさした。

(後ろ)

 不意を突こうとしたドゥームズ兵を突き刺す。

(今だ、まっすぐ走れ!)

 ナナはそのまま高速で戦場を駆け抜けていく。

(戦車だ、飛べ!)

 ナナはすさまじい脚力で戦車を跳びぬける。

(真下にパイロット! ここからなら貫ける!)

 そのまま急降下し、戦車を槍でパイロットごと貫き、戦車を倒して消滅させた。

「うん! クラークさんとワタシ、強い!」

(よし、そのまま走り抜けろ!)

「はい!」

 ナナは自信満々にそう言って頭の中に聞こえるクラークの優しい声に導かれながら、戦車や兵士の槍から発射される破壊光線をよけ、戦場を駆け抜けていく。

 

 ブラストを安全な場所に移して戻ってきたスラスターは、突撃して敵を倒していくナナの姿に驚愕していた。

(ナナ、クラークさんの指示があるとはいえ、あんなに強かったのですか……)

(スラスター、君には戦車をやってもらおうと思う。バズーカの弾って持ってる?)

「はい、一応」

(よし、それを地面に浴びせ、砂煙をあげるんだ!)

(そしたら、視界が見えなく……いえ、クラークさんの指示があれば!)

「わかりました!」

 スラスターは、地面にパワーを込めたバズーカ弾を放ち、モクモクとした砂を巻きあげ、煙を引き起こした。すると、ドゥームズたちの視界が奪われてしまった。

(よし、今だ)

 スラスターは砂煙に紛れ、密かに突撃して行く。

(戦車だ! 撃て!)

 スラスターは至近距離まで近づき、バズーカからパワーを放って戦車を大破させた。すると、戦車と中にいたパイロットは断末魔をあげて蒸発し、緑や紫の霧となって漂って行った。そのまま隣にいる戦車を倒し、その次も、次から次へと倒していく。戦車たちは近くに敵がいるとはわからず、遠くを撃っている。その流れ弾はさらにたくさんの砂煙をあげてスラスターを隠し、戦車は彼女の強力なパワーによるバズーカ弾の餌食となって行く。そうして倒された戦車やパイロットの悪霊のような霧が、兵士たちを腹立たせ、統制が取れなくなっていく。

「畜生! なんであんな奴に殺されなきゃなんねぇんだよ! おれたちはヴィクトリーに勝てるくらい強く訓練されたんじゃなかったのか⁉」

 すると、またどこかで爆発音がなり、戦車と兵士の霧が発生した。

 砂煙と同胞の悪霊たちのなかから、スラスターが現れる。

「撤退してください。これ以上あなた方も犠牲は出したくないはず……」

「死ねや!」

 ドゥームズ語のその一言とともに、破壊光線が放たれる! 

(避けろ!)

 ドゥームズの言葉はわからなくても、罵声をあげているのはわかったスラスターは、クラークの指示で避けられた。

「あ、危ない所でした……ありがとうございます」

(……ちょっと調子に乗ってたよね?)

「ち、違います! ……う、ちょっとだけです」

「なにぺちゃくちゃしゃべってんだ? おれにはこれがあるんだぜ?」

 そう言って、小型ワームホールから取り出してきたのは、自分を、何よりもナナとブラストを苦しめた巨大毒ボウガンであった。

「あ、うわはぁ……⁉」

「うひゃひゃひゃ! 青ざめたな! そのまま死ねや!」

 そして、そのボウガンから、当たれば痛み、当たらなくても苦しめられる、身の丈ほどの長さと太さの毒々しい光の矢が発射された。

(どうしよう、当たったら死んじゃう、当たらなくても毒でやられる!)

「く、クラークさん!」

(スラスター。ナナも言っていたろ。君は、ウェポンドーターズだ。あんなもの、受け止められる。普通の銃弾や、弓矢よりは遅い。ならば……)

(……やってみます!)

 その間、一秒にも満たない。

 覚悟を決めたスラスターは、バズーカを置いて身構えた。そして、寸前のところで避けて矢の脇に回り、パワーを込めた両腕で羽交い絞めをするかのように巨大なそのエネルギー体の矢をキャッチして受け止めた! 

「はぁ⁉ そんな馬鹿な⁉」

「うおーっ!」

 そのままスラスターはパワーで矢を折ろうとする。すると、バキッという音と共に矢は折れ、地面にもスラスターにもあたらず、そのまま蒸発していってしまった。

「このクソが! 死ねっ⁉」

 しかし、ドゥームズ兵はボウガンごとスラスターにパワーバズーカを貫かれ、毒の矢は発射されることはなかった。

(すごいよ、スラスター)

「ありがとう、ございます。次は⁉」

 スラスターは気持ちを切り替え、また霧と砂煙の中に紛れていった。


 ドゥームズナイトは、圧倒的物量を誇るはずの自分たちが押されていることに苛立ちを覚えていた。

「フッフッフ。全く笑えな過ぎて笑えて来る。おい、あれの準備を……」

「あのクソアマ! 来やがったぞ⁉」

「なに⁉」

 前を見ると、ドゥームズナイトがいる本陣めがけて、槍を振り回しているナナが突撃してくるではないか! 

 罵声を発しながら破壊光線を放つドゥームズ兵だが、それをナナは回転させた槍ではじき返したり、避けたりしながらどんどん近づいていく。

「クラークさん! ワタシ、あいつを倒します!」

(わかった)

 ナナは、ドゥームズ兵を蹴って飛び越え、ドゥームズナイトの前に着地した。

「もう撤退するか、正々堂々勝負してください! ワタシが勝ちますけど!」

「はっ、ぬかせ!」

 ドゥームズナイトは巨大な槍をワームホールから取り出し、ナナを素早く突いてくる。

「う、うわぁ⁉   」(は、早い⁉ どうしよう、貫かれちゃう……⁉)

(距離を取れ)

「はいっ……!」

 ナナはジャンプしてドゥームズナイトと距離を取った。

「クラークさん、あの人、ワタシより強いです。ど、どうすれば……」

 そんなことお構いなしに、ドゥームズナイトは筋力を活かして高速で突撃してくる。何とかよけたが、凄まじい威力で地面に大きなひびが入った。

「どうした? 勝つのではなかったのか?」

「くっ……⁉」ナナは勇気を出して構え直した。「クラークさん。ワタシ、あの人に勝ちたいです。ワタシにやらせてください」

(……ナナ。無理はしないで)

「はい!」

 ナナは突撃して行く。そこを、ドゥームズナイトは貫こうとする。それをナナはよけて敵の槍に乗り、しなやかな体で飛び、頭を貫こうとする。しかし、その槍を片手で掴まれる。だが、ナナも諦めなかった。自分の体を回転させてその摩擦で槍を手から離させる。そして地面に着地し、振りかぶった槍で足を払おうとする。うまくいき、足を払ってドゥームズナイトを転ばせることができた。その隙を狙って、ナナは槍を振りかざす。

(避けろ!)

 すると、ナナのそばを破壊光線がかけぬて言った。

「クソガキ共が! しっかり当てろ!」

「え?」

 すると、さらに周りから破壊光線が放たれてくる。

(ナナ! 包囲されている! 逃げるんだ)

「え? ま、まさか、あいつ! 最初から正々堂々と戦う気なんてなかったの⁉」

「フッフッフ。お前如きにおれがやられるわけがないだろう。わざとやられたやったのさ」

「そ、そんな……ひどい!」

 そんな彼女に、さらに破壊光線が放たれていく。

(ナナ、周りから行くぞ!)

「はい!」

 ナナはクラークの指示に従いながら、破壊光線をよけて進んでいく。一人を見つけ出して貫き、クラークが教えてくれた場所まで駆け抜けて、新たな敵を貫いて行く。

「この女! 女のくせに!」

「お前で最後だー!」

(ナナ! 避けろ!)

 ナナはサッと身を引いた。すると、ドゥームズナイトが最後の兵士を槍で貫いた。

「き、教官……この野郎……⁉」

 そのまま、ドゥームズナイトは兵士を切り裂いて、消滅させてしまった。

「ちっ! 外したか」

 その光景を見て、ナナは身の毛がよだち、茫然としてしまった。

「ま、まさか、ワタシを仲間ごと……」

「仲間? 奴らはコマだ。おれが出世するためのな。フッフッフ。そんな体たらくだから、足を引っ張られるのだ」

 ナナは、唇をかみ、槍を持った拳を握りしめた。そして、目を涙で濡らして言った。

「ゆ、許しません!」

「おお、怖い怖い。もっと怒らせてやろう。もう一人はどこに隠したのかな?」

「え? ブラスト? ま、まさか……⁉」

「フッフッフ。今頃四肢を切断されておもちゃにでもされてるんじゃないか?」

「あ、ああ……」

(ナナ。それは嘘だ。ブラストならスヤスヤと寝ている)

 クラークが見せてくれた光景には、安全な木陰に寝かされているブラストが見えた。

「よ、よかった……。あの人、嘘までつきましたね! ひどい、本当にひどい人です!」

 すると、ナナは全身にパワーを込めた。周りの風向きが変わり、ナナを中心に小さな光が漂い始めた。

「ん?  な、なんだ⁉」

 ナナは、槍をドゥームズナイトに向けた。すると、そこから光が集まっていく。ナナの槍の先端に集中したパワーは、一筋の光線となってドゥームズナイトに発射された! 

「まずい!」

 地面が光線にえぐられていく。その直線状にいたドゥームズ兵や戦車はあっという間に消滅してしまった。

「なんだありゃ⁉ やばい、逃げるぞ!」

 その様子を見ると、さすがのドゥームズ兵たちも教会のある方に敗走していった。

 ナナは、息を切らして逃げていくドゥームズたちを見ていた。

「た、倒したのですか?」

「ナナぁ!」

 目を覚ましたブラストがナナに駆け寄って来て、ナナに勢いよく抱き着いてきた。

「ぐす、ぐす、ぐす……」

「ぶ、ブラスト、泣いてるの?」

「な、泣いてないぃ! うう……うわ~ん!」

 そんなブラストを、ナナは優しくなでてあげた。

 そこに、スラスターもやってくる。

「スラスター! 大丈夫だった?」

 見てみると、いくつも戦車を倒した強者とは思えないほど、少女らしく涙を流していた。

「な、ナナ……ぐす、ワタシも撫でてもらっていいですか……」

 ナナは、スラスターの頭も優しくなでてあげた。しかし、まだスラスターは涙を流していた。

「もう、泣かないでよ。フフッ、スラスターって、結構泣き虫だったんだね?」

「うるさいですね! ……だけど、よかったです……ううっ……」

 ブラストは落ち着いてきて、もう泣き止んでいた。

「な、なあスラスター、あたし、クライが泣き虫でぐずるから慣れてるからさぁ。その、一緒に寝てあげてもいいぞぉ? あ、ああいう意味じゃないぞ! お前が教えてくれたせいで嫌というほどわかったんだからなぁ!」

「……ぐす、お願いします……」

「……え⁉」

(ブラスト、二人を連れて逃げろ)

「え? クラーク? ま、まだ敵がいるのかぁ⁉」

「そ、そんな、あんなにやっつけたのに……」

「も、もう、無理です……戦いたくないです……」

(わかってる。ブラスト。二人を頼む)

「わ、わかったぁ!」

 ブラストはナナとスラスターを連れて、テレキネシスで街の外へ向かった。


 ワームホールで脱出したが、足を消し飛ばされたドゥームズナイトは、部下に運ばれて何とかワームホールにまでたどり着いていた。

「クソ、おれの足を……⁉ フッフッフ……。だが、まだ手はある」

 すると、ワームホールから水陸両用巨大戦艦がやって来て、地面の上にドカーンと着地し、教会を踏みつぶした! それを見ると、ドゥームズたちは歓喜した。

「フッフッフ! これでこの街も終わりだ!」

 ドゥームズナイトと生き残った新米ドゥームズ兵たち、新たにやってきたドゥームズ兵たちは街を破壊してやろうと大喜びで戦艦に乗った。

「よし、主砲用意! 撃ち尽くして人間どもを殺戮するのだ!」

 戦艦がドシンドシンと、代々大切に耕してきた畑に巨大な足跡を残しながら容赦なく走っていく! そうしながら周りに大砲を放ち、街や畑を破壊していった……! 

 その頃、街を囲ったバリケードの外に設置された臨時基地で、クランとウェイズは休んでいた。

(二人とも! 起きてくれ!)

「クラークさん⁉ ど、どこにいるんですか⁉」

「クラークさん! 頭の中に、声が聞こえるです!」

(二人とも、君たちと君たちの子の力を貸してほしい。もう少しだけ頑張ってほしいんだ)

「わ、わかりました!」

「わかりましたです!」

 そう言うと、二人の目に迫りくる戦艦が映し出された。その恐ろしい姿に、二人は恐怖してしまった。

「こ、こんなのどうやって……」

「む、無理です……兵士にも勝てなかったのに……」

(大丈夫だ。僕もそばにいなくても見てる。みんなを守ってくれ。愛の力を教えてやれ)

 二人はお互いを見つめた後、頷いた。

 そして、兵士の静止も聞かず、また街の中に入って行った。

 その頃、相変わらずこの街の人々が苦労して育ててきた作物を踏みつぶして大砲を放ちながら、軍艦は進んでいた。

「フッフッフ。突き進め、踏みつぶして撃ちまくれ!」

「教官! 何かがやってきます!」

「なんだと?」

 それは、一瞬新手のウェポンドーターズだと思われた。しかし、それは人の形をした光であった。愛の結晶であり、愛を守ろうとする光であった。

 その光は、戦艦を何度も貫き、ついにブリッジにまでやってきて、船員たちを消滅させていった。そして最後に、光はドゥームズナイトにも襲い掛かってきた。

(なぜだ? なぜあんな小娘共に負けなければならない? 苦戦はしたが、クロスボウを持ってきてからうまく行っていた⁉ あのチビが起き上がった時からおかしくなったのだ! そうだ、残りの奴はクラークと言っていた。そうだ、きっとそいつのせいだ! あの感じ、相当信頼されている。そうか、やつが司令官なのか! クソが、殺してやる、殺してやる!)

 そして、クランとウェイズから生まれたリリィは、最後の一人を貫いて消えて行った。

(ありがとう、二人とも)

「ハァハァ、やったよ、クランたち、やったよ」

「ハァハァ、です、やったです、わたしたち、やったです」

 二人は同時に言って笑い合った後、疲れて気を失ってしまった。

 そこに、ナナ、スラスター、ブラストがやって来て、倒れそうになった二人を支えた。

(みんな、ご苦労様)

 クラークの優しい声が頭の中に聞こえる。その言葉を聞くと、なんだか安心したような気がして涙があふれてきた。みんなは寄り添い合いながら、気持ちが落ち着くまで泣いた。


 アーセナル。

 クラークは、体中から汗を噴出し、口から血を吐いて過呼吸気味になっていた。無理をし過ぎた結果であった。

「みんな、よくやったよ」

 気配がした。悪霊の気配。ドゥームズナイトの気配。アーセナルに高速で迫りつつある。

「まだ、やることがあるようだな……」

 ドアを開けると、リトルWDたちが涙目で待っていてくれた。

「みんな、行ける?」

(……うん)

 みんなで手をつなぎ、集中する。

 ついに、アーセナルに島全体を包み込みそうなほどの悪霊が迫りつつあった。

(殺してやる! 殺してやる! 殺して……っ⁉)

 アーセナルには、自分以上に恐ろしい存在がいた。

 クラークは、自分が悪霊やオバケを払っている時の自分の顔を見た事がなかった。もし自分をクレヤボヤンスか何かで客観的に見られていたら、自分はこう見えていたに違いなかった。それは、ドクロであった。死神を彷彿とさせるドクロに似ていた。

(化物を率いている奴はさらに化物というわけか。だが、おれはお前を殺してやる!)

 クラークは、リトルWDたちからも気持ちをもらい、集中した。

(みんな、後はいいよ)

(……はい)

(なにをするつもりだ? そんな醜い姿で?)

 クラークは凄まじい怒りと、リトルWDたちの正義感がこもったメンタルブラストを放つ。さらに、アストラルディメンションにある壁の一部を取り払った。すると、攻撃を受けて妖力が乱れた巨大な悪霊は、その壁の内側に吸い込まれようとしていた。

(な、なんだ! やめろ!)

 抵抗しても、結局ドゥームズナイトの悪霊はクラークの精神の中に吸い込まれてしまった。クラークのアストラルディメンションにある壁の向こう。そこには、数えきれないほどの凶暴な悪霊たちが暴れまわっていた。

(なんだ、こいつらは!)

(新入りだ……)

 すると、悪霊たちはドゥームズナイトの悪霊を運んで棺桶にしまってしまい、苦しむ彼を面白がって笑い始めた。

 まっさらなクラークの心の中にある悪霊や悪魔たちが蠢く四角形の巨大な壁。精神監獄。幼い頃のクラークが心を閉ざし続けた結果、生み出されてしまった心の隙間や壁。そこには、彼や人々を苦しめてきた祓い切れない悪霊たちが封印されているのだった。

「終わった……」

 すると、クラークは倒れそうになった。そんな彼を、リトルWDたちが頑張って受け止めて寝かせ、チサイが膝枕をしてあげた。そして、何人かがテーカを呼びに行った。

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