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4.華の国の薬師様(3)

 「薬師様の薬を飲むようになって、ばあちゃんの調子が良くなって。最近は外に出られるようになってな。いつもありがとうよ。」


 「効いているみたいでよかったです。変わったことがあったらいつでもいらしてくださいね。お大事にしてください。」


 カイリのお昼寝後から立て続けに来ていたお客さんを見送り、ターニャはほっと一息ついた。リディアのように季節の変わり目で調子を崩した人から、長の患いのご年配の方の家族の方までいて、大忙しだった。ただ、想定以上のお客さんで、薬瓶の中身が心許ない。調合室の在庫を使ってもこれからや明日の分には足りなさそうだ。


 (一旦落ち着いたみたいだから、一回お店を閉めて、薬草の採取に行った方がいいわね。)


 ちょうどカイリもおやつのアップルパイを食べて、そろそろ家の中だけでは退屈し始める。今朝の魔力の開花が少し心配ではあるが、街の皆が山菜の採取に出る時間は終わっているはずだ。今度こそは、目の届く範囲で遊ばせれば、ターニャが対処することもできる。『よし。』と気合を入れると、扉の外側に、『ただいま休憩中』の札をかけ、内側から鍵をかける。そして、調合室の隣の部屋にいるカイリとルーに声をかけに向かった。


 華の国では、魔力をもつ者はほんの一握りだ。隣国の光の国、東の国は華の国ほどは少なくなく、魔力をもつ者のみに許される特殊な職業がある。その最たるものが、魔法医師だ。魔力を持たない医師との大きな違いは、治療に魔力を使うということだ。この魔力には色があるのだが、その色により使える力が異なってくる。色は単色ではなく、青みがかった赤、薄い緑など様々あり、それぞれの色がバランスよくまじりあうと白の魔力となる。白の魔力が強いほど治癒の力が強く、魔法医師となれる。強い力をもつ魔法医師だと、心の臓がほんの少しでも動いていれば、治癒させられるとも言われている。そのため、魔法医師に診てもらうためには、伝手、金銭が必要で、必然的に、富裕な貴族階級に限られてしまう。魔法医師でなかったとしても、医師に診てもらうのは非常に高額だ。平民は専ら、薬師の薬に頼ることになる。ただ、効能の高い薬草はやはり希少なため、それほど質の良い薬は手に入れることはできないのが現実だ。

 街の中心部から少し離れたところに薬師の店を開いたのは、ターニャが身籠ってすぐのことだった。最初は誰にも見向きもされなかった。しかし、薬草採取で擦り傷をつくった子供に傷薬を塗ってあげたり、足を捻ったお年寄りに痛み止めの貼り薬を渡したりするうちに、ターニャの薬は驚くほど効き目がよいと街で評判となっていった。そして、他の薬師に比べて安いことも相まって、現在では、街の外れの薬師の店とは思えないほどお客が来るようになったのだ。



 「ルー。ここにごろんよ。」


 カイリは開けた丘についた途端、とててて、と走り出した。その後をルーがしっぽを振り振りついていく。そして柔らかい草の生えたところでごろりと横になった。ルーがその横に伏せると、カイリはルーの方にすり寄っていく。


 「ルー、きもちいいねぇ。おひさま、ぽかぽか、においするねぇ。」


 カイリの頬をぺろりとルーが舐めると、『きゃぁ。』と言いながらカイリがルーの体をなぜる。そんなほほえましい様子を横目で見ながら、ターニャはせっせと薬草を摘む。

 ターニャが必要とする薬草は香りのいいもの、味のいいもの、色のいいものなどであり、薬草自体の効能はあまり重視していない。薬草として効能が必要なものは、家の裏で育てているということもあるが、一番はターニャの薬の調合方法による。


 「せっせといつも摘んでるけど、ターニャには要らねーんじゃないのか?」


 突然ルーに話しかけられ、ターニャは驚き見上げる。すると、カイリは先ほどごろんとした場所ですやすやと寝ていた。


 「気持ち良過ぎたのか、一瞬で寝ちまった。今朝の魔力のせいか?」


 「ん・・・そうだと思う。あの小さい体だから、かなり体力消耗したんでしょうね。でも、ルー。これは必要な薬草よ。味とか匂いとか色とかはどうしようもできないから。」


 その言葉を聞きながら、ルーが近くの薬草をむしゃりと噛んだ。


 「まぁ、こいつなんて結構いい甘みあるもんな。薬と言えどそれは大事だよな。薬でそうなんだから、オレ様のご飯も味、匂い、色に気を遣ってもらわねーとな!」


 「その甘みが気に入ったんなら、今度からその薬草混ぜてあげようか?」


 「ちがーうぅぅ。オレ様は、もっとウィンナーが食べたいんだよ。野菜スープの時だってオレ様の皿のウィンナーがほとんどないだろう!妙にジャガイモ多いしさぁ。野菜なんかいいから、ウィンナーだけがいいんだよ。」


 「・・・犬は塩分ダメなのよ。」


 「だから、オレ様は犬じゃない!聖獣様、そこんとこ、大事だから。」


 「・・・考えとく。」


 とりあえずウィンナーを主張できたことに満足したルーは、足取り軽くカイリの元に戻った。途中で甘みのある薬草をはむはむしていたところを見ると、意外と気にいったらしい。そして、カイリの横でまたごろりと横になった。

 ターニャは摘んだ薬草を手早く仕分けしながら、必要分があるかを確認した。


 (ルーの言う通り、私には薬草はあまり必要ないのよね。)


 というのも、ターニャのつくる薬は、ターニャの魔力で調合をしているからだ。効能のある薬草を混ぜ、その効果を高める場合もあるが、簡単な薬はほとんど魔力で調合している。ただ、魔力だけでは味も見た目も匂いも制御できないため、その改善として薬草を使用しているだけだ。


 ターニャの薬の効き目が良いのは・・・そう、ターニャが魔法医師と言われる能力を持つからなのだ。


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